変容ステージモデル

英語名 Transtheoretical Model
読み方 トランスセオレティカル モデル
難易度
所要時間 20分〜40分
提唱者 ジェームズ・プロチャスカ、カーロ・ディクレメンテ
目次

ひとことで言うと
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人が行動を変えるまでには「無関心→関心→準備→実行→維持」の5段階があり、ステージに合わない働きかけは逆効果になる。相手がどの段階にいるかを見極めてからアプローチを変えるのがこのモデルのポイント。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
無関心期(Precontemplation)
本人が問題を認識していない段階。変わる必要を感じていないため、アドバイスは届かない。
関心期(Contemplation)
問題は認識しているが行動には移していない段階。「やったほうがいいとは思っている」状態。
準備期(Preparation)
近いうちに行動を起こそうと具体的に計画している段階。小さな試行を始めていることもある。
実行期(Action)
行動を実際に開始した段階。開始から6か月未満が目安で、もっとも脱落リスクが高い。
維持期(Maintenance)
新しい行動を6か月以上継続している段階。習慣化されつつあるが、逆戻りのリスクは残る。

変容ステージモデルの全体像
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行動変容の5つのステージ
1. 無関心期問題に気づいていない有効:情報提供意識喚起NG: 行動を強制する2. 関心期問題を認識だが動かない有効:メリット提示共感・傾聴NG: 具体的な手順を押す3. 準備期やろうと計画中有効:具体的手順小さな一歩NG: 完璧な計画を求める4. 実行期行動を開始した有効:フィードバック環境整備NG: 放置するサポートなし5. 維持期6か月以上継続中有効:逆戻り防止成功の可視化NG: 油断して仕組みを外す逆戻り(Relapse)逆戻りは失敗ではなく変容プロセスの一部平均して3〜7回の逆戻りを経て維持期に達する
変容ステージに合わせた支援フロー
1
ステージを判定
相手の言動から今どの段階にいるかを特定する
2
ステージに合った介入
無関心期なら情報提供、準備期なら具体的手順を支援する
3
次ステージへ促す
1段階ずつ前に進む支援を行い、飛び級させない
行動の定着
維持期に入り、逆戻りを防ぐ仕組みを構築する

こんな悩みに効く
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  • 部下に改善を促しても「わかってるけど…」で止まる
  • 健康経営の施策を打っても利用率が上がらない
  • 組織変革がいつも掛け声だけで終わる

基本の使い方
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相手の現在ステージを見極める

行動や言葉からステージを判定する。

ステージ典型的な発言
無関心期「別に問題ないでしょ」「なんで変えるの?」
関心期「やったほうがいいとは思うんだけど…」
準備期「来月から始めようと思って」「本を買った」
実行期「先週から始めた」「3日坊主にならないか不安」
維持期「もう半年続いてる」「習慣になった」
ステージに合った働きかけを選ぶ

各ステージで有効なアプローチはまったく異なる。

ステージ有効なアプローチ逆効果なアプローチ
無関心期情報提供、体験談の共有行動の強制、説教
関心期メリット/デメリットの整理、共感具体的な行動計画の押しつけ
準備期小さな第一歩の提案、ロールモデル完璧な計画の要求
実行期進捗フィードバック、環境整備放置、過度な期待
維持期成果の可視化、逆戻り時のリカバリー計画油断して仕組みを撤去
逆戻りを前提に設計する
逆戻りは「失敗」ではなくプロセスの一部。平均3〜7回の逆戻りを経て維持期に達するという研究結果がある。逆戻りしたときの「リスタート手順」を事前に決めておく。

具体例
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例1:企業の禁煙支援プログラムを段階別に再設計する

従業員800名のメーカー。喫煙率 32% を下げるため禁煙セミナーを開催したが、参加者は毎回同じ20名程度(喫煙者の約8%)で頭打ちだった。

喫煙者260名にアンケートを実施し、ステージを判定:

ステージ人数割合
無関心期112名43%
関心期86名33%
準備期38名15%
実行期18名7%
維持期6名2%

従来のセミナーは「準備期〜実行期」向けで、43%の無関心期と33%の関心期には届いていなかった

ステージ別施策:

  • 無関心期: 健康診断結果にCOPDリスクスコアを追加表示(情報提供のみ、行動は求めない)
  • 関心期: 禁煙した先輩社員の体験談動画を社内ポータルに掲載
  • 準備期: 禁煙外来の初回受診費用を会社負担(ハードルを下げる)
  • 実行期: 禁煙アプリとメンターのマッチング

1年後の喫煙率は 32% → 24% に低下。特に無関心期から関心期への移行が増え、セミナー参加者は3倍に。全員に同じアプローチをしていた時期と比べ、費用対効果が大幅に改善された。

例2:DX推進チームが現場の抵抗を段階的に解消する

従業員350名の建設会社。図面管理をクラウド化するプロジェクトが、現場の反発で半年間進まなかった。

推進チームが現場監督42名のステージを判定:

ステージ人数典型的な発言
無関心期18名「紙で十分」「IT化する意味がわからない」
関心期14名「便利なのはわかるけど、覚える時間がない」
準備期7名「試してみたいけど、やり方がわからない」
実行期3名「使い始めたけど操作に戸惑う」

無関心期が 43%。ここに「来月から全面移行します」と言っても反発するだけだった。

段階別アプローチに切り替え:

  • 無関心期の18名: 「紙図面の紛失で工期が2週間延びた事例」を共有(意識喚起のみ)
  • 関心期の14名: クラウド化で図面検索が 平均12分→30秒 になった他社データを提示
  • 準備期の7名: 1対1のハンズオン研修(30分)+サポート専用チャット開設
  • 実行期の3名: 週次フォローアップ+困りごと即対応

6か月後、無関心期の18名中11名が関心期以降に移行し、全面クラウド化の導入率は 7% → 68% に到達。段階を飛ばさずに1つずつ進めたことで、反発をほぼゼロにできた。

例3:パーソナルトレーナーが運動習慣のないクライアントを継続させる

個人経営のパーソナルジム。入会3か月以内の退会率が 55% と高く、経営を圧迫していた。

退会者30名にヒアリングすると、入会時のステージにばらつきがあった:

入会時ステージ人数3か月後の状態
関心期(「健康になりたいから」)12名退会9名(75%)
準備期(「週2回は通いたい」)11名退会5名(45%)
実行期(「すでにジョギングしている」)7名退会1名(14%)

関心期で入会した人の退会率が際立って高い。まだ「行動する覚悟」ができていない段階でハードなトレーニングを提供していたため、ギャップに挫折していた。

ステージ別プログラムを導入:

  • 関心期の新規: 最初の1か月は「ジムに来て10分ストレッチして帰る」だけでOK(行動のハードルを極限まで下げる)
  • 準備期の新規: 週2回のライトメニュー+食事記録アプリ
  • 実行期の新規: 従来通りの本格プログラム

半年後の3か月以内退会率は 55% → 22% に低下。特に「10分だけコース」の利用者は4週目以降に自主的に滞在時間を延ばす傾向が見られ、自然に準備期→実行期へ移行していた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 全員を「実行期」として扱う — 「来月から新システム導入」と一斉に告知しても、無関心期の人には反発を招くだけ。ステージに合わない働きかけは逆効果
  2. 無関心期の人を説教で変えようとする — 正論をぶつけても心理的リアクタンス(反発)が起きる。情報提供と問いかけに留め、「自分で気づく」プロセスを待つ
  3. 逆戻りを「失敗」と断じる — ダイエット、禁煙、運動、組織変革、いずれも逆戻りは想定内。問題なのは逆戻り自体ではなく、逆戻り後に「もうダメだ」と無関心期に戻ってしまうこと
  4. 維持期に入ったらサポートを外す — 「もう大丈夫だろう」とフォローを止めると逆戻りリスクが上がる。維持期でも定期的な確認と、ストレス時のリカバリー手順は残しておく

まとめ
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変容ステージモデルは、行動変容を5段階に分け「相手がどの段階にいるかで打ち手を変える」フレームワーク。禁煙や運動といった個人の行動から、DX推進のような組織変革まで幅広く応用できる。ポイントは、ステージを飛ばさないこと、そして逆戻りを想定に組み込むこと。相手の現在地を正しく読んでから手を打つ、という原則を守るだけで介入の精度は格段に上がる。