ひとことで言うと#
ウェルビーイング(持続的な幸福)を P(ポジティブ感情)・E(没頭)・R(関係性)・M(意味)・A(達成) の5要素に分解したモデル。快楽だけでなく「意味のある人生」まで含めて幸福を捉える。
押さえておきたい用語#
- Positive Emotion(ポジティブ感情)
- 喜び・感謝・希望・愛情など、ポジティブな感情を日常的に経験すること。幸福の最もわかりやすい側面。
- Engagement(没頭)
- 時間を忘れるほど活動にのめり込んでいる状態。フロー体験と深く関連する。
- Relationships(関係性)
- 他者との深いつながり。孤独の反対であり、支え合い・信頼関係がウェルビーイングの土台になる。
- Meaning(意味)
- 自分より大きな何かに貢献しているという目的意識を指す。「なぜこの仕事をしているか」に答えられる状態。
- Accomplishment(達成)
- 目標を達成しやり遂げた実感を得ること。外部の評価ではなく、自分自身の成長実感が核になる。
PERMAモデルの全体像#
こんな悩みに効く#
- 成果は出ているのに、なぜか充実感がない
- チームの士気が低いが、何から手をつければいいかわからない
- 「幸福」や「ウェルビーイング」を具体的な施策に落とし込みたい
基本の使い方#
直感で構わないので、現時点の実感を数値化する。
| 要素 | 問いかけ |
|---|---|
| P | 日常的にポジティブな感情を感じているか? |
| E | 時間を忘れるほど没頭できる活動があるか? |
| R | 信頼できる人間関係があるか? |
| M | 自分の仕事・活動に意味を感じているか? |
| A | 目標を達成し、成長を実感しているか? |
5要素すべてを一度に改善しようとすると散漫になる。まずは最も低い1〜2要素に集中する。
- P が低い → 感謝日記、小さな楽しみの習慣化
- E が低い → 強みを活かせる仕事の割り当て、没頭できる環境づくり
- R が低い → 1on1の質向上、チーム外のつながり構築
- M が低い → 仕事の「Why」を言語化、社会的インパクトの可視化
- A が低い → 小さな目標と短いフィードバックサイクル
具体例#
従業員60名の広告代理店。クリエイター職の年間離職率が 28% で、採用コストが膨らんでいた。
退職者面談のデータをPERMAにマッピングすると:
| 要素 | スコア(退職者平均) | 在籍者平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| P(ポジティブ感情) | 4.2 | 5.8 | -1.6 |
| E(没頭) | 6.5 | 7.1 | -0.6 |
| R(関係性) | 3.1 | 6.4 | -3.3 |
| M(意味) | 3.8 | 5.9 | -2.1 |
| A(達成) | 5.0 | 5.5 | -0.5 |
R(関係性)とM(意味)の落ち込みが顕著。クリエイターは個人作業が多く孤立しやすい上、「なぜこの広告を作るのか」が共有されていなかった。
施策:
- R対策: 週1回の30分クリエイティブ共有会(作りかけの作品を見せ合う場)
- M対策: クライアントの「喜びの声」を月次で全社共有。広告が実際のビジネスにどう貢献したかを可視化
1年後、クリエイター職の離職率は 28% → 14% に半減。特にR対策の共有会は「入社してから一番救われた制度」というフィードバックが複数あった。
従業員200名のフルリモートIT企業。コロナ後にリモート体制を維持したが、エンゲージメントスコアが2年で 4.3 → 3.1 に低下。
全社PERMAサーベイの結果:
| 要素 | スコア(全社平均) | 前年比 |
|---|---|---|
| P | 5.2 | -0.5 |
| E | 6.8 | +0.2 |
| R | 2.9 | -2.1 |
| M | 4.5 | -0.8 |
| A | 5.1 | -0.3 |
E(没頭)は維持されていたが、R(関係性)が崩壊レベルまで低下。リモート化で「雑談」「偶然の出会い」がゼロになった影響が大きかった。
R要素に特化した施策を3つ実行:
- バーチャルコーヒーチャット(毎週ランダムに2人をマッチング、15分雑談)
- 月1回のオフラインday(オフィスを開放、参加は任意だが交通費は会社負担)
- Slackに「#random-interests」チャンネルを開設(趣味の話題専用)
6か月後のRスコアは 2.9 → 4.8 に回復。全体のエンゲージメントスコアも 3.1 → 3.9 まで戻り、離職率も前年比で改善した。
60歳で大手メーカーを定年退職した男性。退職直後は旅行三昧で充実していたが、3か月後に急激な空虚感に襲われた。
PERMAで自己診断した結果:
| 要素 | 退職前 | 退職3か月後 |
|---|---|---|
| P | 5 | 6(旅行で一時的に上昇) |
| E | 7 | 2(没頭する活動がない) |
| R | 6 | 3(会社の人間関係が消失) |
| M | 7 | 1(社会的役割の喪失) |
| A | 6 | 2(目標がない) |
P以外が軒並み崩壊していた。特にM(意味)とE(没頭)の喪失が深刻。
半年かけて各要素を意図的に再構築:
- E: 若い頃にやっていた木工を再開。地元の工房に週3回通う
- R: 工房の仲間、地域のボランティアグループに参加
- M: 地元の小学校で「ものづくり教室」のボランティア講師を開始
- A: 木工作品の展示会に年2回出展する目標を設定
1年後の再診断では全要素が退職前以上のスコアに。本人いわく「会社員時代より今のほうが充実している」。PERMAは年齢や立場が大きく変わる局面でこそ、「何が足りないか」を整理するのに役立つ。
やりがちな失敗パターン#
- P(ポジティブ感情)だけを追いかける — 楽しいことだけでは持続的な幸福にならない。特にM(意味)やR(関係性)を欠いたまま快楽を追求すると、快楽のトレッドミルに陥る
- 5要素を平均化して安心する — 全体平均が高くても、1要素が極端に低いとそこがボトルネックになる。バランスが重要で、低い要素を底上げするほうが効率的
- 組織の施策を「P対策」に偏らせる — 懇親会やレクリエーションばかり増やしてもE・M・Aが改善しない。表面的な「楽しさ」と構造的なウェルビーイングは別物
- 測定しただけで終わる — サーベイの実施自体が目的化し、結果にもとづく施策が打たれないケース。測定→特定→施策→再測定のサイクルを回さないと意味がない
まとめ#
PERMAモデルはウェルビーイングを5つの具体的な要素に分解し、「どこが足りていないか」を可視化するフレームワーク。快楽(P)だけでなく没頭(E)・関係性(R)・意味(M)・達成(A)を含めて幸福を捉えるため、打ち手が具体的になる。個人でもチームでも、まず5要素をスコアリングして低い要素を特定するところから始めるのが実践の第一歩になる。