動機づけ面接

英語名 Motivational Interviewing
読み方 モチベーショナル インタビューイング
難易度
所要時間 30〜60分(1回の面談)
提唱者 ウィリアム・R・ミラー&ステファン・ロルニック(1991年)
目次

ひとことで言うと
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「変わるべきだ」と説得するのではなく、相手自身の口から「変わりたい理由」を引き出す対話技法。アドバイスを与えるのではなく、質問と傾聴で相手の内発的動機に火をつける。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
チェンジトーク(Change Talk)
相手が自発的に語る変化への願望・能力・理由・必要性を示す発言のこと。「もう少し運動したいなとは思っている」など。これを引き出すのが動機づけ面接の核心。
維持トーク(Sustain Talk)
現状維持を支持する発言で、変化に対する抵抗や不安を表す言葉を指す。「忙しくて無理だし」「今のやり方で問題ないし」など。
両価性(Ambivalence)
「変わりたい」と「変わりたくない」が同時に存在する心理状態である。多くの人が行動変容の前にこの段階を経る。
OARS
動機づけ面接の基本スキル4つの頭文字で、**Open questions(開かれた質問)・Affirming(是認)・Reflecting(聞き返し)・Summarizing(要約)**を意味する。

動機づけ面接の全体像
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動機づけ面接:相手のチェンジトークを引き出す対話の構造
従来のアプローチ(指導型)「こうすべきだ」「これが正しい」→ 押しつけ → 抵抗 → 変わらない正論ほど反発を生む動機づけ面接(引き出し型)「どうなりたいですか?」「何が大切?」→ 自己発見 → 納得 → 行動変容自分の言葉が最も説得力を持つVSOARSスキルO開かれた質問で話を広げるA相手の強みや努力を是認するR相手の言葉を聞き返すS話の内容を要約して返すチェンジトーク発生内発的動機による行動変容自分で決めた変化は持続しやすい
動機づけ面接の進め方フロー
1
関わる
信頼関係を築き安心して話せる場を作る
2
焦点化する
話題の方向を一緒に決める
3
引き出す
チェンジトークを促す質問をする
計画する
具体的な行動計画を相手と一緒に作る

こんな悩みに効く
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  • 部下にアドバイスしても「わかってます」で終わり、行動が変わらない
  • 健康指導をしても患者が生活習慣を変えてくれない
  • 「正しいこと」を伝えるほど相手が反発する

基本の使い方
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ステップ1: 関わる(Engaging)

まず相手が安心して話せる関係を作る。

  • 最初にアドバイスや提案をしない
  • 相手の話を遮らず、最後まで聴く
  • 「今日はどんなことを話したいですか?」と相手に主導権を渡す

動機づけ面接の精神: 協働(一緒に考える)・受容(相手を尊重)・喚起(答えは相手の中にある)・思いやり。

ステップ2: 焦点化する(Focusing)

話題の方向性を一緒に決める。

  • 相手が話したいことと、面談の目的を擦り合わせる
  • 「いくつかのテーマがありますが、今日はどれについて考えてみたいですか?」
  • 相手自身が選んだテーマのほうが、動機が高まりやすい

焦点を絞ることで、チェンジトークが出やすくなる

ステップ3: 引き出す(Evoking)

OARSスキルを使って、相手のチェンジトークを引き出す。

  • 開かれた質問: 「運動について、今どんなふうに感じていますか?」
  • 是認: 「忙しい中でも気にかけているところが素晴らしいですね」
  • 聞き返し: 「つまり、健康でいたいという気持ちはあるけれど、時間が壁になっている、ということですね」
  • 要約: 「ここまでの話をまとめると…」

チェンジトークが出たらしっかり反応して強化する。「変わりたいとおっしゃいましたが、それはどうしてですか?」と深掘りする。

ステップ4: 計画する(Planning)

チェンジトークが十分に出たら、具体的な行動計画を一緒に作る。

  • 「最初の一歩として、何ができそうですか?」
  • 「もし○○が難しくなったら、どう対処しますか?」
  • 計画は必ず相手が自分で決める(こちらが指示しない)

ここでもアドバイスは求められた場合のみ。「いくつか他の方が試した方法がありますが、聞いてみたいですか?」と許可を得てから伝える。

具体例
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例1:IT企業のマネージャーが遅刻常習の部下と面談する

状況: 従業員60名のIT企業。エンジニアのEさんが週に2〜3回の遅刻を繰り返している。上司はこれまで「遅刻は評価に影響する」と注意してきたが改善せず。

従来のアプローチ(指導型):

  • 「遅刻は社会人としてNG」「チームに迷惑がかかっている」
  • → Eさんの反応:「すみません…(心の中: また言われた。わかってるけど)」
  • 結果: 1週間改善して元に戻る。これを8ヶ月間繰り返し。

動機づけ面接のアプローチ:

  • O:「最近の仕事の調子はどうですか?朝のルーティンって、今どんな感じですか?」
  • R:「ゲーム開発の仕事は好きだけど、朝がつらい。夜のほうが集中できる、と」
  • O:「仮に朝スムーズに来られるようになったら、何が変わりそうですか?」
  • Eさん:「午前の打ち合わせに出られるから、仕様の認識ズレが減ると思います」(チェンジトーク)
  • A:「自分でそこに気づいているのは大事なことですね」
  • 計画:「最初の1週間、何か試してみたいことはありますか?」→ Eさん自身が「就寝時間を1時間早める」を提案

2ヶ月後、遅刻が週0〜1回に減少。Eさん自身が「午前の打ち合わせに出ると仕事が楽になる」と実感し、自発的に朝型にシフト。

例2:健康経営推進チームが中高年社員の運動習慣を支援する

状況: 従業員500名のメーカー。健康経営推進で40代以上の社員に運動プログラムを導入したが、参加率が18%で頭打ち。「健康のために運動しましょう」のメッセージは響かず、特に管理職層(対象120名)の参加率は8%

動機づけ面接を保健師面談に導入:

  • 従来:「BMIが28です。運動が必要です。週2回のウォーキングを始めてください」
  • MI型:「健康診断の結果を見て、どう感じましたか?」「お子さんの卒業式に元気に出たいとおっしゃっていましたが、そのために何かできそうなことはありますか?」
指標従来型面談MI導入後6ヶ月
運動プログラム参加率(管理職)8%34%
面談後1ヶ月時点の行動変容率22%51%
面談の満足度3.2/5.04.4/5.0

「健診結果を突きつけて指導する」から「本人の価値観とつなげて引き出す」に変えただけで、参加率が4倍に。保健師の負担も減った。

例3:農業指導員が高齢農家のIT導入を支援する

状況: 農協の営農指導員が管轄する農家82戸のうち、65歳以上が58戸。農業IoT(土壌センサー、天候データ連携)を導入したいが、「難しそう」「今のやり方で十分」と拒否される。2年間のIT導入実績はわずか3戸

動機づけ面接の適用:

  • 押しつけない:「ITを入れてください」とは言わない
  • まず聴く:「長年の経験で一番大切にしていることは何ですか?」
  • 両価性を探る:「今のやり方でうまくいっている一方で、困っていることはありますか?」
  • チェンジトーク:「実は最近、天候の読みが外れることが増えて…」
  • つなぐ:「天候データを見られるようになったら、経験の精度がもっと上がるかもしれませんね。興味ありますか?」

1年間で新規導入が3戸14戸。導入した農家の平均収量が**8%**向上し、その口コミで翌年さらに11戸が関心を示した。「教える」のではなく「聴く」ことから始めたことで、経験豊富な農家のプライドを傷つけずに変化を促せた。

やりがちな失敗パターン
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  1. チェンジトークが出る前にアドバイスする — 相手がまだ「変わりたい」と言っていないのに解決策を提示すると、抵抗が生まれる。相手の口から変化の理由が出るまで待つ
  2. 維持トークと戦う — 「でもこのままだと…」と正論で反論すると、相手はさらに現状維持を弁護する。維持トークには共感で応じ、チェンジトークの方を選択的に深掘りする
  3. 質問攻めにする — 開かれた質問を連発すると尋問のようになる。質問と聞き返しの比率を1:2以上にする。聞き返し(リフレクション)が動機づけ面接の要

まとめ
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動機づけ面接は、アドバイスや説得ではなく相手の内発的動機を引き出す対話技法。OARSスキル(開かれた質問・是認・聞き返し・要約)を使い、チェンジトークを促すことで、自発的な行動変容を支援する。「正しいことを伝える」より「相手自身が語る」方が、変化は持続的になる。