三点見積もり法

英語名 Three Point Estimation
読み方 スリーポイント エスティメーション
難易度
所要時間 1タスクあたり5〜15分
提唱者 米国海軍(PERT: Program Evaluation and Review Technique, 1950年代)
目次

ひとことで言うと
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1つのタスクに対して楽観値・最頻値・悲観値の3つの見積もりを出し、加重平均で期待値を算出する方法。「だいたい3日」という一点見積もりの曖昧さを排除し、不確実性を数値で扱えるようにする。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
楽観値(Optimistic: O)
すべてが順調に進んだ場合の最短所要時間のこと。実現確率は低いが理論上の下限にあたる。
最頻値(Most Likely: M)
最も起こりやすいと考えられる現実的な所要時間を指す。過去の類似経験をベースに判断する。
悲観値(Pessimistic: P)
大きなトラブルが発生した場合の最長所要時間である。ただし災害レベルの例外は含めない。
PERT(Program Evaluation and Review Technique)
三点見積もりの数式 (O + 4M + P) / 6 で期待値を求める手法。米国海軍が開発した。
標準偏差(σ)
(P − O) / 6 で算出されるばらつきの大きさを表す指標。値が大きいほど不確実性が高い。

三点見積もり法の全体像
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3値の入力から期待値・標準偏差を算出する構造
楽観値(O)最短: すべて順調なら例: 2日最頻値(M)最も起こりやすい値例: 5日悲観値(P)大トラブル発生時例: 12日PERT期待値 = (O + 4M + P) / 6= (2 + 4×5 + 12) / 6 = 5.7日期待値(E)5.7日最も確からしい所要日数標準偏差(σ)1.67日(P−O)/6 = 不確実性の大きさ
三点見積もり法の実施フロー
1
タスクを分解する
WBSで作業を十分小さい単位に分けてから見積もる
2
3値を出す
各タスクに楽観値・最頻値・悲観値をそれぞれ見積もる
3
PERT式で計算する
(O+4M+P)/6 で期待値、(P-O)/6 で標準偏差を算出
バッファを決定する
期待値+標準偏差をもとに信頼区間を含めた工期を設定

こんな悩みに効く
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  • 一点見積もりがいつも楽観的すぎてスケジュールが遅延する
  • バッファをどれだけ取ればいいか根拠がない
  • 見積もりに個人差が大きく、チームで合意できない
  • 不確実性の高いタスクの工数をどう伝えればいいか分からない

基本の使い方
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ステップ1:見積もり対象を分解する
三点見積もりの精度は、タスクの粒度に依存する。「システム開発」のような大きな単位ではなく、WBSで分解した作業パッケージ単位(例: 「API設計書の作成」「単体テストの実施」)で見積もる。粒度の目安は1タスク1〜10人日。
ステップ2:3つの値を見積もる
各タスクについて楽観値(O)・最頻値(M)・悲観値(P)を出す。楽観値は「すべてが順調なら」、最頻値は「過去の経験からいちばんありそうな値」、悲観値は「大きなトラブルがあっても」の想定。チームで見積もる場合は、それぞれが独立に3値を出してから合議する。
ステップ3:PERT式で期待値と標準偏差を計算する
期待値 E = (O + 4M + P) / 6、標準偏差 σ = (P - O) / 6。最頻値に4倍の重みがかかるため、最頻値を中心としつつ楽観・悲観の幅を反映した値になる。Excelやスプレッドシートでタスクごとに計算列を作ると効率的。
ステップ4:信頼区間を添えて報告する
期待値だけでなく「E ± σ」の範囲を添えて報告する。たとえば「期待値5.7日、1σの範囲で4.0〜7.3日」のように。ステークホルダーに不確実性の幅を見せることで、リスクを織り込んだ意思決定が可能になる。

具体例
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例1:Webアプリ開発チームがスプリント計画で使う

5人のスクラムチームがECサイトのリニューアルに取り組んでいる。次スプリントで「商品検索機能のリファクタリング」を予定しているが、過去に似た作業の経験がなく、見積もりに自信がなかった。

三点見積もりを実施。チーム5人がそれぞれ3値を出し、中央値を採用した。

5人の見積もり採用値
楽観値(O)3, 2, 4, 3, 23日
最頻値(M)7, 8, 6, 7, 87日
悲観値(P)14, 12, 15, 13, 1113日

PERT期待値 = (3 + 28 + 13) / 6 = 7.3日、σ = (13 - 3) / 6 = 1.67日

「7日で終わる可能性が最も高いが、最大9日かかるリスクがある」とPOに報告し、9日分のスプリント枠を確保。実際には8日で完了し、バッファ内に収まった。

例2:建設会社が工事入札の見積もりに適用する

従業員60名の建設会社が公共工事の入札に参加する際、工期の見積もり精度が課題だった。過去3年の入札で、実際の工期が見積もりを 平均18% 超過していた。

全タスクに三点見積もりを導入し、スプレッドシートで一元管理。

あるマンション基礎工事の例:

  • 杭打ち: O=10日, M=14日, P=22日 → E=14.7日, σ=2.0日
  • 配筋: O=8日, M=12日, P=20日 → E=12.7日, σ=2.0日
  • コンクリート打設: O=5日, M=7日, P=11日 → E=7.3日, σ=1.0日

全体の期待値合計に対して「合計σ × 1.5」をバッファとして上乗せするルールを設けた結果、工期超過率は 18% → 4% に改善。入札の信頼性が上がり、受注率も前年比 12% 向上している。

例3:社内システム担当がERP導入の工期を経営陣に説明する

従業員200名の商社で、情報システム部の担当者(38歳)がERP導入プロジェクトの工期を経営会議で説明する必要があった。一点見積もりの「6か月」では「本当にそれで終わるのか」と毎回追及されていた。

三点見積もりで全40タスクを見積もり直し、以下のように報告形式を変えた。

  • 期待値合計: 5.8か月
  • 1σ範囲: 4.9〜6.7か月(68%の確率でこの範囲に収まる)
  • 2σ範囲: 4.0〜7.6か月(95%の確率で収まる)

経営陣に「6か月で終わる確率は約60%、余裕を見て7か月で計画するのが安全」と定量的に説明。根拠のある数字を出したことで「じゃあ7か月で承認する」と即決された。以前は「6か月と言ったのに」と後から詰められていたが、最初から不確実性を共有することで信頼関係が改善したという。

やりがちな失敗パターン
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  1. タスクの粒度が粗すぎる — 「システム開発一式: O=2か月, M=4か月, P=8か月」のような大雑把な見積もりでは精度が出ない。WBSで十分に分解してから三点見積もりを適用する。
  2. 楽観値と悲観値が最頻値に近すぎる — 3値の差が小さいと三点見積もりのメリットがない。「慎重になりすぎて楽観値を高めに出す」「悲観値を低く見積もる」傾向に注意する。
  3. 全員が同時に声を出して見積もる — 最初に発言した人の値にアンカリングされる。プランニングポーカーのように全員が同時に値を出す方式を使う。
  4. 期待値だけを報告してσを省略する — 期待値だけでは一点見積もりと変わらない。標準偏差を添えて「幅」を伝えることで、三点見積もりの価値が初めて発揮される。

まとめ
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三点見積もり法は、楽観・最頻・悲観の3値をPERT式で統合し、不確実性を定量的に扱う手法。一点見積もりの「なんとなく」を排除し、期待値と標準偏差という2つの数字でスケジュールのリスクを可視化する。報告時には期待値だけでなく信頼区間を添えることで、ステークホルダーとの信頼関係も向上する。WBSで十分に分解してから適用するのが精度を出すコツ。