ひとことで言うと#
1つのタスクに対して楽観値・最頻値・悲観値の3つの見積もりを出し、加重平均で期待値を算出する方法。「だいたい3日」という一点見積もりの曖昧さを排除し、不確実性を数値で扱えるようにする。
押さえておきたい用語#
- 楽観値(Optimistic: O)
- すべてが順調に進んだ場合の最短所要時間のこと。実現確率は低いが理論上の下限にあたる。
- 最頻値(Most Likely: M)
- 最も起こりやすいと考えられる現実的な所要時間を指す。過去の類似経験をベースに判断する。
- 悲観値(Pessimistic: P)
- 大きなトラブルが発生した場合の最長所要時間である。ただし災害レベルの例外は含めない。
- PERT(Program Evaluation and Review Technique)
- 三点見積もりの数式 (O + 4M + P) / 6 で期待値を求める手法。米国海軍が開発した。
- 標準偏差(σ)
- (P − O) / 6 で算出されるばらつきの大きさを表す指標。値が大きいほど不確実性が高い。
三点見積もり法の全体像#
こんな悩みに効く#
- 一点見積もりがいつも楽観的すぎてスケジュールが遅延する
- バッファをどれだけ取ればいいか根拠がない
- 見積もりに個人差が大きく、チームで合意できない
- 不確実性の高いタスクの工数をどう伝えればいいか分からない
基本の使い方#
具体例#
5人のスクラムチームがECサイトのリニューアルに取り組んでいる。次スプリントで「商品検索機能のリファクタリング」を予定しているが、過去に似た作業の経験がなく、見積もりに自信がなかった。
三点見積もりを実施。チーム5人がそれぞれ3値を出し、中央値を採用した。
| 値 | 5人の見積もり | 採用値 |
|---|---|---|
| 楽観値(O) | 3, 2, 4, 3, 2 | 3日 |
| 最頻値(M) | 7, 8, 6, 7, 8 | 7日 |
| 悲観値(P) | 14, 12, 15, 13, 11 | 13日 |
PERT期待値 = (3 + 28 + 13) / 6 = 7.3日、σ = (13 - 3) / 6 = 1.67日。
「7日で終わる可能性が最も高いが、最大9日かかるリスクがある」とPOに報告し、9日分のスプリント枠を確保。実際には8日で完了し、バッファ内に収まった。
従業員60名の建設会社が公共工事の入札に参加する際、工期の見積もり精度が課題だった。過去3年の入札で、実際の工期が見積もりを 平均18% 超過していた。
全タスクに三点見積もりを導入し、スプレッドシートで一元管理。
あるマンション基礎工事の例:
- 杭打ち: O=10日, M=14日, P=22日 → E=14.7日, σ=2.0日
- 配筋: O=8日, M=12日, P=20日 → E=12.7日, σ=2.0日
- コンクリート打設: O=5日, M=7日, P=11日 → E=7.3日, σ=1.0日
全体の期待値合計に対して「合計σ × 1.5」をバッファとして上乗せするルールを設けた結果、工期超過率は 18% → 4% に改善。入札の信頼性が上がり、受注率も前年比 12% 向上している。
従業員200名の商社で、情報システム部の担当者(38歳)がERP導入プロジェクトの工期を経営会議で説明する必要があった。一点見積もりの「6か月」では「本当にそれで終わるのか」と毎回追及されていた。
三点見積もりで全40タスクを見積もり直し、以下のように報告形式を変えた。
- 期待値合計: 5.8か月
- 1σ範囲: 4.9〜6.7か月(68%の確率でこの範囲に収まる)
- 2σ範囲: 4.0〜7.6か月(95%の確率で収まる)
経営陣に「6か月で終わる確率は約60%、余裕を見て7か月で計画するのが安全」と定量的に説明。根拠のある数字を出したことで「じゃあ7か月で承認する」と即決された。以前は「6か月と言ったのに」と後から詰められていたが、最初から不確実性を共有することで信頼関係が改善したという。
やりがちな失敗パターン#
- タスクの粒度が粗すぎる — 「システム開発一式: O=2か月, M=4か月, P=8か月」のような大雑把な見積もりでは精度が出ない。WBSで十分に分解してから三点見積もりを適用する。
- 楽観値と悲観値が最頻値に近すぎる — 3値の差が小さいと三点見積もりのメリットがない。「慎重になりすぎて楽観値を高めに出す」「悲観値を低く見積もる」傾向に注意する。
- 全員が同時に声を出して見積もる — 最初に発言した人の値にアンカリングされる。プランニングポーカーのように全員が同時に値を出す方式を使う。
- 期待値だけを報告してσを省略する — 期待値だけでは一点見積もりと変わらない。標準偏差を添えて「幅」を伝えることで、三点見積もりの価値が初めて発揮される。
まとめ#
三点見積もり法は、楽観・最頻・悲観の3値をPERT式で統合し、不確実性を定量的に扱う手法。一点見積もりの「なんとなく」を排除し、期待値と標準偏差という2つの数字でスケジュールのリスクを可視化する。報告時には期待値だけでなく信頼区間を添えることで、ステークホルダーとの信頼関係も向上する。WBSで十分に分解してから適用するのが精度を出すコツ。