Tシャツサイジング見積もり

英語名 T Shirt Sizing Estimation
読み方 ティーシャツ サイジング エスティメーション
難易度
所要時間 1セッション15〜30分
提唱者 アジャイル開発コミュニティ(2000年代)
目次

ひとことで言うと
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タスクやユーザーストーリーの規模をS・M・L・XLのサイズで直感的に分類する見積もり手法。精密な数値ではなく「相対的な大きさ」を素早く合意するのに向いている。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Tシャツサイズ(T-Shirt Size)
S / M / L / XL(場合によってXS、XXLも追加)で作業規模を表す分類を指す。
相対見積もり(Relative Estimation)
絶対的な時間ではなく、タスク同士の大きさの比較で見積もる手法を指す。
基準ストーリー(Reference Story)
チーム内で「これはMサイズ」と全員が合意した基準タスクのこと。他のタスクをこの基準と比較してサイズを決める。
ストーリーポイント
タスクの複雑さ・作業量・不確実性を組み合わせた抽象的な数値。Tシャツサイズから変換することもある。
バックログリファインメント
プロダクトバックログの項目を整理・優先順位付け・見積もりする定期的な活動である。

Tシャツサイジング見積もりの全体像
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S/M/L/XLのサイズ定義と基準ストーリーの位置づけ
サイズ定義と目安SSmall1〜2人日やり方が明確不確実性が低い例: ボタンのラベル変更定型レポートの修正MMedium(基準)3〜5人日多少の調査が必要中程度の不確実性例: 検索フィルター追加CSV出力機能LLarge5〜10人日複数コンポーネントにまたがる例: 決済フロー改修ダッシュボード追加XLExtra Large10人日以上分割が必要高い不確実性例: 認証基盤の刷新→ 分割を検討見積もりの進め方1. 基準を決める「このタスクはM」と全員が合意する基準ストーリーを1つ選ぶ2. 比較で分類する各タスクを基準と比較し「これはMより大きい→L」と直感的に判定3. XLは分割するXLと判定されたタスクはそのままでは扱えないL以下になるまで分解
Tシャツサイジング見積もりの実施フロー
1
基準ストーリーを選ぶ
チームで「これはMサイズ」と全員が納得する基準タスクを決める
2
一斉にサイズを出す
各メンバーが同時にS/M/L/XLを提示。ズレがあれば議論する
3
XLを分割する
XLのタスクはL以下になるまで分解し、再度サイジングする
ロードマップに反映
サイズ別に工数概算を割り当てて全体のスケジュールを組む

こんな悩みに効く
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  • 見積もりミーティングが毎回長引く
  • 初期段階でざっくりした規模感を把握したい
  • チームメンバーの見積もり経験にばらつきがある
  • ストーリーポイントの概念が浸透していないチーム

基本の使い方
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ステップ1:サイズの定義をチームで合意する
S・M・L・XLそれぞれが「だいたい何人日くらいか」をチームで決める。組織によって基準は異なるので、自チームの過去実績を参考に設定する。必要に応じてXSやXXLを追加してもよいが、区分が多すぎると迷うので5段階以内が推奨。
ステップ2:基準ストーリーを1つ選ぶ
過去に完了した「典型的なMサイズ」のタスクを1つ選び、チーム全員で「これがM」と合意する。新しいタスクはこの基準と比較してサイズを判定する。基準が共有されていないと、人によってSとLに判断が割れてしまう。
ステップ3:一斉にサイズを出して議論する
バックログの各アイテムについて、全員が同時にサイズカード(またはチャットに投稿)を出す。全員一致ならそのまま確定。2段階以上のズレがあるタスク(例: 一人がSで別の人がL)は、認識の違いを議論して合意する。
ステップ4:XLは分割、結果をロードマップに反映
XLと判定されたタスクは、そのままスプリントに入れず分割する。サイジング完了後、S=1pt、M=3pt、L=5ptのようにポイント換算して合計すれば、ロードマップの工期概算に使える。

具体例
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例1:SaaSスタートアップがバックログ50件を30分で見積もる

従業員15名のSaaS企業で、プロダクトマネージャーがQ3のロードマップを策定するためにバックログ50件の概算見積もりが必要だった。ストーリーポイントで1件ずつ見積もると3時間以上かかる見込み。

Tシャツサイジングを採用し、4人のエンジニアで見積もりセッションを実施。

  • 基準ストーリー: 「ユーザープロフィール画面の項目追加」= M
  • 進め方: スプレッドシートに全50件を並べ、1件30秒で一斉にサイズを提示
サイズ件数ポイント換算
S12件12pt
M22件66pt
L11件55pt
XL5件→分割して再見積もり

XL5件を分割した結果、合計 約180pt のバックログが判明。チームのベロシティ(1スプリント30pt)と照合し、「Q3で消化できるのは約90pt」と現実的な計画を30分で立てられた。

例2:社内IT部門がシステム更改の優先順位を決める

従業員500名のメーカーの情報システム部で、老朽化した社内システム8件の更改優先順位を決める必要があった。各システムの更改コストを正確に見積もる時間はないが、経営会議で「大きいものから順に」という指示が出ていた。

Tシャツサイジングを使い、IT部門6名で各システムの更改規模を分類。

システムサイズ理由
勤怠管理MSaaS移行で済む
経費精算S既存SaaSに統合
在庫管理XL基幹連携が複雑
受発注Lカスタマイズ多数
人事評価Mパッケージ導入
生産管理XL工場ごとに仕様が違う
顧客管理Lデータ移行が大変
文書管理Sクラウド移行のみ

XLの2件は「今期は着手せず来期の重点案件」と整理し、S・Mの4件から着手する計画を30分で策定。経営陣に「規模感の根拠」を示せたことで即承認された。

例3:マーケティングチームがキャンペーン施策を比較する

化粧品ECサイトのマーケティングチーム(5名)が、来月の販促キャンペーン候補8案の工数を比較したかった。マーケターは工数見積もりに慣れておらず、「何日かかるか」と聞いても答えが返ってこない状態だった。

Tシャツサイジングを導入し、「バナー制作1枚がSサイズ」を基準に設定。

全8案を一斉サイジングした結果:

  • S: バナーA/Bテスト、メルマガ配信 → すぐ実行可能
  • M: LP制作、インフルエンサー連携
  • L: 動画制作、SNSキャンペーン設計
  • XL: オフラインイベント企画

予算とリソースの制約から「S2件 + M1件 + L1件」の組み合わせに決定。工数の詳細見積もりなしに 15分 で意思決定ができ、「見積もりが怖くなくなった」とチームから好評だったという。

やりがちな失敗パターン
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  1. 基準ストーリーを決めずに始める — 基準がないと「私のMはあなたのL」という状態になる。最初の5分で基準を1つ合意するだけで、後の見積もり精度が大幅に上がる。
  2. Tシャツサイズで精密な計画を立てようとする — あくまで概算ツール。詳細な工程表が必要なフェーズでは三点見積もりなど精密な手法に切り替える。
  3. XLをそのままスプリントに入れる — XLは「まだ分解が足りない」というシグナル。L以下に分割してから計画に組み込む。
  4. サイズの議論で深入りしすぎる — 1件あたり2分以上議論しているなら、いったん「L寄りのM」で仮置きして先に進む。完璧な合意より速度が重要。

まとめ
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Tシャツサイジング見積もりは、S/M/L/XLという直感的な尺度でタスクの規模を素早く分類する手法。精密な数値は出ないが、ロードマップの策定やバックログの優先順位づけに十分な粒度を短時間で提供する。基準ストーリーの合意が精度の鍵であり、XLが出たら分割のサインと捉えること。詳細見積もりが必要になったら三点見積もりやストーリーポイントに移行すればよい。