シンガポール式算数

英語名 Singapore Math Method
読み方 シンガポールシキ サンスウ
難易度
所要時間 1レッスン30〜60分
提唱者 シンガポール教育省(1980年代〜)
目次

ひとことで言うと
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「具体(Concrete)→ 図示(Pictorial)→ 抽象(Abstract)」の3段階で数学的概念を理解させる指導法。公式を暗記する前に「なぜそうなるか」を手と目で体験させることで、応用問題にも対応できる深い理解を作る。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
CPA アプローチ
**Concrete(具体)→ Pictorial(図示)→ Abstract(抽象)**の3段階で学ぶシンガポール式の中核メソッドを指す。
バーモデル(Bar Model)
問題の数量関係を**長方形の棒(バー)**で視覚化する図解手法を指す。文章題の理解に特に効果的。
マスタリーラーニング
ある概念を完全に習得(マスター)してから次に進む教育方針である。先に進む速さより理解の深さを優先する。
ナンバーボンド(Number Bond)
ある数を2つの部分に分解して表す図。例えば10を「7と3」に分ける。数の構成を直感的に理解させる手法。

シンガポール式算数の全体像
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CPA(具体→図示→抽象)の3段階モデル
CPAアプローチ: 具体→図示→抽象C: 具体(Concrete)実物を手で触って操作ブロック・おはじき・コインなどを使うP: 図示(Pictorial)バーモデルで視覚化全体: 83?棒の長さで数量関係を表すA: 抽象(Abstract)数式で表現8 - 3 = 5具体と図示の経験があるから式の意味が分かるバーモデルの活用例: 文章題「太郎は120円、花子は太郎より35円多い。花子はいくら?」太郎: 120円花子: 120円+35バーの長さで「太郎 + 35円」が目で見えて分かる
シンガポール式算数の授業フロー
1
具体物で体験する
ブロックやおはじきを使って「3と5を合わせると8になる」を手で確かめる
2
バーモデルで図示する
数量の関係を棒の長さで描き、目で見て「全体と部分」を把握する
3
数式に変換する
バーモデルで理解した関係を式で表現する(3 + 5 = 8)
応用問題に挑戦する
文章題をバーモデルで整理し、自力で式を立てて解く

こんな悩みに効く
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  • 算数の文章題で何を求めればいいか分からない
  • 公式は覚えているが応用問題になると解けない
  • 「なぜそうなるのか」を説明できない
  • 子どもに算数を教えるが、うまく伝わらない

基本の使い方
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ステップ1:具体物で操作する(Concrete)
新しい概念を教えるときは、まず実物を触らせる。足し算なら積み木を合わせる、分数ならピザを切る、掛け算ならおはじきをグループに分ける。「答えを教える」のではなく「操作を通じて自分で発見させる」のがポイント。
ステップ2:バーモデルで図示する(Pictorial)
具体物での理解ができたら、バーモデル(長方形の棒)で数量関係を描く。「全体」を1本の棒で表し、「部分」を区切り線で分ける。文章題では問題文の情報をバーモデルに変換することで、何を求めるべきかが視覚的に明確になる。
ステップ3:数式に変換する(Abstract)
バーモデルで理解した関係を数式に書き換える。具体と図示の経験があるため、数式の各要素が何を意味しているかを説明できる。「8 - 3 = 5」がただの記号の操作ではなく、「全体から部分を引いたら残りが分かる」という意味を持つ。
ステップ4:応用問題で定着を確認する
新しい文章題を出し、学習者が自力でバーモデルを描いて式を立てられるか確認する。つまずいたら具体物に戻って再体験させる。一度抽象まで進んだ後でも、理解があいまいなら前の段階に戻ることをためらわない。

具体例
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例1:学習塾で小学3年生の割り算を指導する

個人経営の学習塾(生徒30名)で、小3の生徒8名が割り算に苦戦していた。「12 ÷ 3」を計算はできるが、「12個のクッキーを3人で分けると1人何個?」の文章題になると正答率が急落する。

シンガポール式を導入し、3段階で指導。

  1. Concrete: 実際のクッキー12枚を3人に配らせる
  2. Pictorial: バーモデルで「全体12を3つに分ける」を図示
  3. Abstract: 12 ÷ 3 = 4 の式に変換
指標導入前導入3か月後
計算問題の正答率78%85%
文章題の正答率41%72%
「割り算の意味が分かる」と回答3/8名7/8名

「計算はできても意味が分からない」状態を脱し、文章題への対応力が大幅に改善した。

例2:企業研修でデータ分析の基礎を教える

不動産会社(従業員150名)の営業部門に、データ分析の基礎研修を実施した。受講者は「割合」「前年比」「平均」の概念が曖昧で、Excelの数式を使えても意味を理解していなかった。

CPAアプローチを応用した研修を設計。

  • Concrete: 実際の営業データ(紙に印刷)をカードにして、グループ分けやランキングを手作業で実施
  • Pictorial: バーモデルで「目標120件に対して実績98件は何%か」を図示
  • Abstract: Excel上で関数(98/120 = 81.7%)を入力

研修後テストの正答率は従来の座学形式と比較して 62% → 84% に向上。「前年比130%」「粗利率35%」といった数字を営業会議で自然に使えるようになり、データに基づく提案が増えたと上長が評価している。

例3:保護者が中学受験の算数対策に活用する

中学受験を控える小学5年生の娘を持つ母親(42歳)が、算数の文章題対策にシンガポール式を自宅で実践した。塾では解法パターンの暗記が中心で、初見の問題に弱い状態だった。

バーモデルを中心に週末2時間の家庭学習に導入。

  • 文章題を読んだら、いきなり式を立てず「まずバーを描く」をルール化
  • バーモデルで「分かっていること」と「求めるもの」を視覚化
  • バーから式への変換を自力でやらせる

3か月間で文章題100問をバーモデル経由で解かせた結果、模試の算数偏差値は 52 → 59 に上昇。初見問題の正答率は 28% → 51% に改善。娘本人の感想は「バーを描くと何をすればいいか見える」。

やりがちな失敗パターン
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  1. 具体の段階を飛ばして図示から始める — 時間がかかるため省略しがちだが、手で操作する体験がないと図示の意味が伝わらない。初めて学ぶ概念では必ず具体物から入る。
  2. バーモデルを「描かされるもの」にしてしまう — 教師が描いたバーを写させるのではなく、学習者自身に描かせる。試行錯誤の過程が理解を深める。
  3. 早く抽象に移りたがる — 「もう分かったでしょ、式にして」と急がせると、理解が浅いまま次に進んでしまう。バーモデルで3問連続正解してから式に移るくらいのペースが適切。
  4. 大人の学習に使えないと決めつける — CPAアプローチはデータ分析や財務の研修にも応用できる。「具体的なデータ → グラフで可視化 → 数式で計算」の流れはまさにCPA。

まとめ
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シンガポール式算数は「具体→図示→抽象」のCPAアプローチで、数学的概念の深い理解を作る教育法。バーモデルによる図示が最大の特長で、文章題の数量関係を視覚化することで「何を求めればいいか」が目で見て分かるようになる。公式の暗記ではなく意味の理解を重視するため、応用力が身につく。子どもの教育だけでなく、大人のデータ分析研修にも応用できる汎用性の高い手法。