SAFe PIプランニング

英語名 SAFe PI Planning
読み方 セーフ ピーアイ プランニング
難易度
所要時間 2日間(対面 or リモート)
提唱者 SAFe(Scaled Agile Framework)/ Dean Leffingwell
目次

ひとことで言うと
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SAFe(大規模アジャイルフレームワーク)のコアイベントで、ART(アジャイルリリーストレイン)に属する全チームが2日間で次の8〜12週間(PI)の計画を同期させる大規模計画セッション。チーム間の依存関係を可視化し、全員が同じ目標に向かう出発点を作る。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
PI(Program Increment)
SAFeにおける8〜12週間の計画・実行サイクル。PIプランニングはこのサイクルの開始イベントにあたる。
ART(Agile Release Train)
同じ価値ストリームに属する5〜12チーム(50〜125名規模)で構成される大規模アジャイルの実行単位
プログラムボード
チーム間の依存関係とマイルストーンを可視化する物理的な掲示板(またはデジタルボード)。赤い糸で依存の線を引く。
信頼度投票(Confidence Vote)
PIプランニングの最後に全メンバーが「この計画を達成できる自信があるか」を1〜5のスコアで投票する儀式。平均3以上が合格ライン。

SAFe PIプランニングの全体像
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PIプランニング:2日間で全チームの計画を同期する
Day 1:方向性と初期計画午前ビジネスコンテキスト+プロダクトビジョン共有午後チーム別ブレイクアウト(PI目標・計画策定)ドラフトプラン発表 → 依存関係の特定→ プログラムボードに依存の糸を引くDay 2:調整と合意午前依存解消のための調整セッション計画の修正・最終化午後最終プラン発表 → リスク特定→ 信頼度投票で計画の合意を取る── 2日間の成果物 ──プログラムボード各チームのPI目標何を達成するか依存関係マップ誰が誰に依存するかリスク一覧ROAMで分類マイルストーン全体のリズム信頼度投票(平均3以上で合意)全員が「この計画を達成できるか」を1〜5で投票
PIプランニング2日間の進行フロー
1
ビジョン共有
ビジネスコンテキストとプロダクトビジョンを全員に伝える
2
チーム別計画策定
各チームがPI目標とスプリント計画をドラフトする
3
依存解消・調整
チーム間の依存を可視化し解消策を合意する
信頼度投票で合意
全員が計画の実現可能性を投票し合意を形成する

こんな悩みに効く
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  • 50名以上の開発組織で四半期の計画を揃えられない
  • チーム間の依存関係が見えず、スプリントがブロックされる
  • 各チームがバラバラの優先順位で動いている

基本の使い方
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事前準備:バックログとビジョンを整える
PIプランニングの 2〜3週間前 から準備を始める。プロダクトマネージャーがPI分のバックログを優先順位付きで用意し、ビジネスオーナーがビジネスコンテキスト(市場動向・戦略的優先事項)を整理する。各チームは技術的な制約や前PIからの持ち越し事項を洗い出す。
Day 1:ビジョン共有とチーム別計画策定
午前中にビジネスコンテキストとプロダクトビジョンを全員に共有。午後はチーム別のブレイクアウトセッションで、各チームが次PIの目標とスプリント計画をドラフトする。夕方にドラフトプランを発表し、プログラムボード上でチーム間の依存関係を可視化する。
Day 2:依存解消と最終合意
午前中はチーム間の依存関係を解消するための調整セッション。依存がある場合は「いつまでに何を提供するか」を具体的に合意する。午後に最終プランを発表し、リスクをROAM(Resolved / Owned / Accepted / Mitigated)で分類する。
信頼度投票で合意を取る
最後に全メンバーが「この計画を達成できる自信があるか」を 1〜5 のスコアで投票。平均 3以上 で合意成立。2以下を投じたメンバーの懸念を全体で聞き、対処策を合意する。合意が取れなければ計画を修正して再投票する。

具体例
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例1:ECプラットフォーム企業が7チーム55名でPIプランニングを実施する

従業員120名のECプラットフォーム企業。検索・商品・決済・配送・顧客管理・データ基盤・インフラの7チーム(計55名)でARTを運営。

四半期ごとの2日間PIプランニングで、次10週間の計画を同期。プログラムボードに可視化された依存関係は平均 22件/PI

PI依存関係数うちブロッカーPI目標達成率
PI 128件8件64%
PI 222件4件78%
PI 318件2件89%

PI 1で依存管理に苦戦したが、Inspect & Adaptで「依存の早期解消ルール」を導入。PI 3では依存関係自体が減り、ブロッカーも 2件 に抑えられた。信頼度投票の平均スコアも 2.8→3.6 に上昇している。

例2:金融機関がリモートPIプランニングを成功させる

従業員5,000名の地方銀行。デジタルバンキング推進部門(60名・8チーム)がSAFeを導入。COVID-19以降はフルリモートでPIプランニングを実施している。

Miro + Zoom の組み合わせで2日間を運営。RTEが事前にMiroテンプレートを準備し、各チームのブレイクアウトルームを設定。

リモート化で最も課題だったのは「プログラムボード上の依存関係の可視化」。対面なら赤い糸を貼るだけだが、リモートではMiro上の矢印が乱立して見づらくなった。対策として、依存関係をSpreadsheetに一覧化し、Miroのボードとは別で管理する運用に切り替えた。

リモートPIプランニングを5回実施した結果、対面時代と比較してPI目標達成率は 82%→79% と微減にとどまり、移動コスト(出張費 年間約400万円)は完全に削減された。

例3:SIerが顧客向けプロジェクトにPIプランニングを適用する

従業員800名のSIer。大手小売業の基幹システム刷新(80名体制・10チーム)にSAFeを適用。従来のウォーターフォール型では各チームの進捗が統合テスト段階まで見えず、手戻りが多発していた。

PIプランニング導入初回は「2日間も全員の手を止めるのか」と現場の反発があった。しかし実施後、プログラムボード上で 34件の依存関係5件の未解決リスク が初めて可視化された。

特に効果が大きかったのは、信頼度投票で2名が「1」を投じた件。理由は「外部ベンダーのAPI仕様が確定しておらず、Sprint 3以降の作業ができない」。この懸念はウォーターフォール時代には統合テストまで気づかなかった問題だった。

即座にベンダーとの仕様確定を前倒しし、Sprint 2までにAPI仕様書を受領。最終的にプロジェクト全体の統合テスト不具合は前案件比 55%減 を達成した。

やりがちな失敗パターン
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パターン何が起きるか対策
バックログの準備が不十分PIプランニング当日に「何を作るか」の議論から始まり、2日間で終わらないPM/POが2〜3週間前からバックログを優先順位付きで準備する
依存関係を放置するプログラムボードに線を引くが解消策を合意しないまま終わる依存1件ごとに「いつまでに・誰が・何を」を具体的に決める
信頼度投票を形骸化する「とりあえず3」と投票し、本音の懸念が出ない2以下を投じたメンバーの声を必ず全体で聞く時間を確保する
PIプランニングだけやってSAFeの他のイベントをやらないSystem DemoやInspect & Adaptがなく、計画の検証と改善が回らないPIプランニングはSAFeの入口。他のイベントとセットで運用する

まとめ
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SAFe PIプランニングは、50名以上の開発組織が2日間で次の8〜12週間の計画を同期させるコアイベント。ビジョンの共有、チーム別の計画策定、依存関係の可視化と解消、信頼度投票による合意形成の4つが柱。2日間の投資は大きいが、チーム間の依存による手戻りと統合テスト段階での不具合を大幅に削減できる。