LeSS(大規模スクラム)

英語名 Large-Scale Scrum (LeSS)
読み方 レス フレームワーク
難易度
所要時間 導入に2〜4ヶ月
提唱者 クレイグ・ラーマン&バス・ヴォッデ(2005年)
目次

ひとことで言うと
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「スクラムをそのまま大きくする」がコンセプト。1人のプロダクトオーナー、1つのプロダクトバックログを複数チームで共有し、余計なプロセスを足さずにスケールする。SAFeと対照的に「足すのではなく引く」発想のフレームワーク。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
フィーチャーチーム(Feature Team)
特定コンポーネントではなく顧客向け機能を端から端まで開発できるチームのこと。LeSSの前提となるチーム編成。
プロダクトバックログ(Product Backlog)
全チームが共有する唯一の優先順位付き作業リストのこと。チーム別バックログは作らない。
Overall Retrospective(オーバーオール レトロスペクティブ)
チームごとの振り返りに加えて行う組織横断の振り返り会議のこと。チーム単独では解決できない課題を扱う。
LeSS Huge(レス ヒュージ)
8チームを超える大規模向けのLeSS拡張版のこと。Requirement Areaという概念でプロダクトを分割する。

LeSSの全体像
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LeSS:1つのバックログ・1人のPOで複数チームをシンプルに運営する
1人のプロダクトオーナー全体最適の優先順位を決定1つのプロダクトバックログ全チームが同じリストからアイテムを選択するフィーチャーチームA端から端まで機能を完成させるフィーチャーチームB端から端まで機能を完成させるフィーチャーチームC端から端まで機能を完成させる足すのではなく引くSimplicity is the key
LeSS導入の進め方フロー
1
バックログ統一
全チームで1つのプロダクトバックログを共有し、POが優先順位を一元管理する
2
2部構成プランニング
Part 1で全チーム集合し分担決定、Part 2で各チーム詳細計画
3
バザー形式レビュー
全チーム合同でスプリントレビューを実施し、ステークホルダーが各ブースを回る
Overall Retrospective
チーム横断の課題を組織レベルで改善し、次のスプリントに反映する

こんな悩みに効く
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  • チームが増えたのにプロセスが複雑化して、スクラムの良さが失われている
  • チームごとにバックログが分かれて、全体最適ができていない
  • 大規模アジャイルを導入したいが、SAFeは重すぎると感じる

基本の使い方
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ステップ1: 1つのプロダクトバックログに統一する

全チームが同じプロダクトバックログを共有する

  • プロダクトオーナーは1人(最大8チームまで)
  • バックログアイテムはチームに固定せず、どのチームでも取れる
  • 優先順位はプロダクトオーナーが決める

ポイント: チーム別バックログを作らない。全体最適のために1本化するのがLeSSの核心。

ステップ2: スプリントプランニングを2部構成で行う

Part 1で全チームが集まり、Part 2で各チームが詳細計画を立てる

  • Part 1: プロダクトオーナーが優先アイテムを説明し、各チームがどのアイテムを取るか決める
  • Part 2: 各チームに分かれ、通常のスプリントプランニングを行う

ポイント: Part 1でチーム間の依存関係と分担を直接調整できる。

ステップ3: 共通のスプリントレビューを行う

全チームが合同でスプリントレビューを実施する

  • バザー形式(各チームがブースを構える)が推奨
  • ステークホルダーが各ブースを回り、フィードバックを出す
  • プロダクト全体として何が進んだかを全員が把握

ポイント: バザー形式にすることで大人数でも効率的にフィードバックが集まる。

ステップ4: Overall Retrospectiveで組織を改善する

チームごとのレトロスペクティブに加え、全体レトロスペクティブを行う

  • 参加者: プロダクトオーナー、各チームのスクラムマスター、マネジメント
  • チーム横断の課題(プロセス、ツール、組織構造など)を扱う

ポイント: 個別チームでは解決できない組織レベルの障壁を取り除く場として機能させる。

具体例
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例1:4チーム・30名でECサイトを開発するSaaS企業

背景: ECサイトの開発で4チーム(各7〜8名)が稼働中。これまでチームごとに「検索チーム」「決済チーム」のように機能で分けていたが、チーム間の調整コストが膨大になっていた。週5回の調整ミーティングで年間約1,200時間を消費。

LeSS導入: チーム構成をコンポーネント型からフィーチャー型に変更。各チームが検索から決済まで1つの機能を通して開発できる体制に。バックログを1本化し、プロダクトオーナーが優先順位を一元管理。

スプリント運営:

項目導入前LeSS導入後
チーム間調整MTG週5回(計5時間)0回(Part 1で解決)
1スプリントで届く機能数平均4機能平均6機能
リリースまでのリードタイム3週間2週間
開発者満足度(10点満点)5.27.8

結果: チーム間の調整コストが年間1,200時間削減され、1スプリントで届けられる機能数が1.5倍に増加。開発者の満足度も大幅に向上した。

例2:金融系SIerが6チーム・50名で基幹システムを刷新する

背景: 地方銀行の勘定系システム刷新プロジェクト。6チーム・50名体制。当初SAFeの導入を検討したが、PIプランニングの運営コストやRTEの確保が困難で、よりシンプルなLeSSを選択。

導入プロセス: まず2チームでパイロットを3ヶ月実施。コンポーネントチーム(画面チーム・API チーム)からフィーチャーチームへの移行に2スプリントかけた。その後、残り4チームを段階的に合流させた。

運営の工夫:

課題対処法
POの負荷集中サポートPO(APO)2名を配置し、POの意思決定をアシスト
金融規制対応のドキュメントDoD にコンプライアンス文書の完成を含める
チーム間の技術力差ペアプログラミングとチーム間ローテーションを実施

結果: 統合テスト工数が従来比40%削減、リリースサイクルが四半期から月次に短縮。パイロットチームの成功体験が他チームの動機付けとなり、全チームの自律性が高まった。

例3:地方自治体の防災システムを3チーム・20名で開発する

背景: 県の防災情報システム刷新プロジェクト。3チーム・20名体制。ベンダー2社と自治体IT部門の混成チーム。各ベンダーが別々のバックログで作業していたため、情報連携の不整合が頻発。

LeSS導入: 自治体IT部門のリーダーが1人のPOとして全体の優先順位を管理。ベンダーの壁を越えてフィーチャーチームを再編成。Part 1プランニングで3チームが同じ部屋に集まり、情報共有を直接実施。

成果比較:

指標導入前LeSS導入後
データ連携の不整合件数月平均12件月平均2件
仕様確認の待ち時間平均5営業日平均1営業日
スプリントゴール達成率55%82%

結果: ベンダー間の壁が解消され、データ連携の不整合が83%減少。POへの仕様確認も直接対話で即日解決できるようになり、プロジェクト全体の予測可能性が大幅に向上した。

やりがちな失敗パターン
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  1. コンポーネントチームのまま導入する — LeSSはフィーチャーチームが前提。チームが端から端まで1つの機能を完成できる体制にしないと効果が出ない
  2. プロダクトオーナーを複数置く — 「大変だから」とPOを増やすと、バックログが分裂し全体最適が崩れる。1人のPOを支えるサポート体制を整える
  3. SAFeとLeSSを混ぜる — 思想が異なるフレームワークを折衷すると矛盾が生じる。どちらかを選んで徹底するのが成功の鍵
  4. 段階的な移行をせず一気に全チームを切り替える — 全チームを同時にフィーチャーチーム化すると混乱が大きい。2〜3チームのパイロットで成功体験を作ってから拡大する

まとめ
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LeSSは「スクラムに何かを足す」のではなく、「スクラムをそのまま大きくする」アプローチ。1つのプロダクトバックログ、1人のプロダクトオーナー、フィーチャーチームというシンプルな構造で、大規模開発の複雑さに立ち向かう。プロセスを増やすのではなく減らすことで速くなるという逆転の発想が魅力。