アーンドバリュー管理

英語名 Earned Value Management (EVM)
読み方 アーンド バリュー マネジメント
難易度
所要時間 継続的に適用
提唱者 米国国防総省(1960年代)
目次

ひとことで言うと
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**「計画ではどこまで進んでいるはず?(PV)」「実際にどれだけの成果が出た?(EV)」「実際にいくら使った?(AC)」**の3つの指標でプロジェクトの健全性を定量的に測る手法。「順調」「ヤバい」を数字で語れるようになる。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
PV(Planned Value)
計画上、今日までに完了しているはずの作業の予算額のこと。「計画の進み具合」を金額で表す基準線。
EV(Earned Value)
実際に完了した作業の**計画上の価値(出来高)**を指す。完了した成果物が計画時にいくらの価値と見積もられていたかを示す。
AC(Actual Cost)
完了した作業に実際にかかったコストを指す。EVとACの差がコスト効率を表す。
SPI(Schedule Performance Index)
EV÷PVで算出されるスケジュール効率の指標のこと。1.0以上なら計画通り、未満なら遅延。
CPI(Cost Performance Index)
EV÷ACで算出されるコスト効率の指標のこと。1.0以上なら予算内、未満ならコスト超過。

アーンドバリュー管理の全体像
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EVM:3つの指標でプロジェクトの健全性を測る
PV(計画価値)今日までに完了しているはずの予算額EV(出来高)実際に完了した作業の計画上の価値AC(実コスト)実際にかかったコストSPI = EV ÷ PVスケジュール効率1.0未満→遅延CPI = EV ÷ ACコスト効率1.0未満→超過EAC = BAC ÷ CPI完了時の最終コスト予測
EVMの進め方フロー
1
PV/EV/AC計測
3つの基本指標を定期的に測定
2
SPI/CPI算出
効率指標を計算して健全性判定
3
EAC予測
完了時の最終コストを予測
是正措置
データに基づいて軌道修正

こんな悩みに効く
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  • 「進捗90%」と報告されるが、本当なのか信用できない
  • コストがオーバーしているのに気づくのがいつも遅い
  • スケジュール遅延とコスト超過を統合的に把握したい

基本の使い方
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ステップ1: 3つの基本指標を理解する

EVM の核となる3つの値を把握する

  • PV(Planned Value): 計画上、今日までに完了しているはずの作業の予算額
  • EV(Earned Value): 実際に完了した作業の計画上の予算額(=出来高)
  • AC(Actual Cost): 実際にかかったコスト

ポイント: EVは「実際にやった作業の計画時の価値」。完了した成果物の出来高で測る。

ステップ2: パフォーマンス指標を計算する

3つの指標から、コストとスケジュールの効率を算出する

  • SPI(Schedule Performance Index)= EV ÷ PV:1.0以上なら計画通り、未満なら遅延
  • CPI(Cost Performance Index)= EV ÷ AC:1.0以上なら予算内、未満ならコスト超過
  • SV(Schedule Variance)= EV - PV:プラスなら前倒し、マイナスなら遅延
  • CV(Cost Variance)= EV - AC:プラスなら節約、マイナスなら超過

ポイント: SPIとCPIが1.0を下回ったら要注意。早期に対策を打つべきサイン。

ステップ3: 完了時の予測を行う

現在のトレンドから、プロジェクト完了時の最終コストを予測する

  • EAC(Estimate at Completion)= BAC ÷ CPI(BAC=総予算)
  • この計算で「今のペースだと最終的にいくらかかるか」がわかる
  • スケジュールも同様に、SPIのトレンドから完了時期を予測できる

ポイント: EACが予算を大幅に超える見込みなら、今すぐスコープやリソースの見直しが必要。

ステップ4: 是正措置を実行する

指標の結果に基づいて、具体的な対策を打つ

  • CPI < 1.0: コスト効率が悪い → リソースの見直し、スコープの削減を検討
  • SPI < 1.0: スケジュール遅延 → クラッシングやファストトラッキングを検討
  • 指標を定期的(週次・月次)にトラッキングし、トレンドを監視する

ポイント: 数値だけ見て判断するのではなく、原因を分析してから対策を決めること。

具体例
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例1:システム開発プロジェクト(総予算1,000万円)の6ヶ月目

測定値:

  • PV = 600万円(計画上、6ヶ月目までに600万円分の作業が完了しているはず)
  • EV = 480万円(実際に完了した作業の計画上の価値は480万円分)
  • AC = 550万円(実際にかかったコストは550万円)

指標計算:

  • SPI = 480 ÷ 600 = 0.80(スケジュール20%遅延)
  • CPI = 480 ÷ 550 = 0.87(コスト13%超過)
  • EAC = 1,000 ÷ 0.87 = 約1,149万円(このペースだと約150万円の予算超過で着地)

対策: SPI・CPI共に1.0未満で「遅延かつコスト超過」の状態。優先度の低い機能を次期フェーズに移し(スコープ削減)、クリティカルパス上のタスクに追加リソースを投入する意思決定を実施。

EVMの数値がなければ「なんとなく遅れ気味」で終わっていたが、SPI=0.80・CPI=0.87という定量的な根拠でスコープ削減の意思決定を3ヶ月前倒しで実行できた。

例2:建設会社の大型工事プロジェクト(総予算5億円・18ヶ月)

状況: 従業員800名のゼネコン。商業施設の新築工事で12ヶ月目のEVM分析を実施。

測定値:

  • BAC = 5億円、PV = 3.3億円、EV = 3.5億円、AC = 3.2億円

指標計算:

  • SPI = 3.5 ÷ 3.3 = 1.06(スケジュール6%前倒し)
  • CPI = 3.5 ÷ 3.2 = 1.09(コスト9%節約)
  • EAC = 5 ÷ 1.09 = 約4.59億円(約4,100万円の節約見込み)

判断: 好調な数値だが、冬季の天候リスクを考慮してバッファは維持。節約分は品質向上に投資する判断を実施。

フェーズSPICPI状態
3ヶ月目0.950.98やや遅延
6ヶ月目1.001.02回復
12ヶ月目1.061.09好調

この取り組みが示すように、月次でSPI/CPIを追跡したことで、3ヶ月目の軽微な遅延を早期検知して対策を打ち、最終的に4,100万円のコスト節約と前倒し完了を実現した。

例3:自治体のDXプロジェクト(総予算8,000万円・24ヶ月)

状況: 人口30万人の中核市。住民サービスのオンライン化プロジェクト。議会報告で進捗の定量的な説明を求められていた。

18ヶ月目の測定値:

  • BAC = 8,000万円、PV = 6,000万円、EV = 5,400万円、AC = 6,200万円

指標計算:

  • SPI = 5,400 ÷ 6,000 = 0.90(10%遅延)
  • CPI = 5,400 ÷ 6,200 = 0.87(13%コスト超過)
  • EAC = 8,000 ÷ 0.87 = 約9,195万円(約1,200万円の超過見込み)

議会報告: 「現在のペースで継続すると予算を約1,200万円超過する見込みです。対策として、マイナンバーカード連携機能を第2フェーズに延期し、先行リリースで住民の利便性を早期に向上させることを提案します」

結果: データに基づく説明で議会の理解を得て、スコープ調整を承認。最終的に予算内で完了。

自治体プロジェクトでEVMを使うことで、「進捗90%です(実態は70%)」のような曖昧な報告を排除し、議会への説明責任を果たしながらスコープ調整の合意を得られた。

やりがちな失敗パターン
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  1. EVの測定が曖昧 — 「50%完了」の定義が人によって違う。EVは成果物の完了基準を明確にして、0/100法(完了か未完了か)で測るのが正確
  2. 数字だけ見て原因を分析しない — CPI=0.85だからコスト削減、と短絡的に判断するのは危険。なぜ効率が悪いのかを掘り下げてから対策を決める
  3. 小規模プロジェクトにフル適用する — EVM は管理コストがかかる。小さなプロジェクトではSPIとCPIだけ簡易的にトラッキングする程度で十分
  4. トレンドを見ずに単月の数値で判断する — 1ヶ月だけSPI=0.85でも、前月から改善傾向なら過剰反応は不要。3ヶ月以上のトレンドで判断する

まとめ
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アーンドバリュー管理は、PV・EV・ACの3指標でプロジェクトの進捗とコストを定量的に把握する手法。「感覚的に順調」ではなく「SPI=0.95で若干遅延」と数字で語れるようになる。SPIとCPIを定期的にモニタリングすることで、問題を早期に検知し、手遅れになる前に対策を打てるようになろう。