ひとことで言うと#
スプリントプランニングで「このアイテム、やれる状態?」を判断するための入場条件。完了の定義(DoD)が「出口」のチェックリストなら、準備の定義(DoR)は「入口」のチェックリスト。準備不足のアイテムをスプリントに入れない仕組み。
押さえておきたい用語#
- DoR(Definition of Ready)
- バックログアイテムがスプリントに取り込める状態かを判断するための入口のチェックリストのこと。「始められる条件」を定義する。
- DoD(Definition of Done)
- アイテムが「完了」と見なせる基準を定義した出口のチェックリストのこと。DoRとセットで運用するのが基本。
- Acceptance Criteria(受け入れ条件)
- ユーザーストーリーが期待通りに動作するかを検証するための具体的な条件を指す。DoRではこの定義が済んでいることが求められる。
- バックログリファインメント(Backlog Refinement)
- プロダクトバックログの上位アイテムを精査・詳細化・見積もりする活動を指す。DoRを満たすための準備作業の場。
- ストーリーポイント(Story Point)
- 作業の相対的な規模や複雑さを表す見積もり単位のこと。DoRでは見積もりが完了していることを条件にすることが多い。
準備の定義(DoR)の全体像#
こんな悩みに効く#
- スプリント中に「仕様がわからない」と作業が止まる
- プランニングでアイテムの内容を理解するのに時間がかかりすぎる
- 受け入れ条件が曖昧で、完成したのに「思っていたのと違う」と言われる
基本の使い方#
「スプリントに入れていいと判断するために、何が揃っていればいいか?」を議論する。
- ユーザーストーリーの説明が明確
- 受け入れ条件(Acceptance Criteria)が定義済み
- 見積もり(ストーリーポイント)が完了
- 依存関係が特定・解消済み
- UIモックアップがある(必要な場合)
ポイント: チーム全員が「これなら着手できる」と思えるレベルを基準にする。
スプリントプランニングの前に、上位アイテムのDoR達成状況を確認・補完する。
- 週1回程度のリファインメントで次スプリント候補のアイテムを精査
- DoRを満たしていないアイテムは、足りない情報を補う
- プロダクトオーナーが受け入れ条件を明確化
ポイント: リファインメントでDoRを満たすことが主目的。プランニング前に準備を済ませる。
プランニング時にDoRを満たしていないアイテムはスプリントに入れない。
- 「受け入れ条件が不明確」→ 入れない
- 「外部チームとの依存が未解決」→ 入れない
- DoRを満たしたアイテムだけで計画を組む
ポイント: 「急ぎだから」でDoRを無視しない。無視した分だけスプリント中に混乱が起きる。
具体例#
状況: 従業員200名のSaaS企業のモバイルアプリチーム。スプリント中に「仕様がわからない」で作業が止まるケースが月平均6回発生していた。
チームが合意したDoR:
- ユーザーストーリーが「〇〇として、△△したい。なぜなら□□だから」の形式で書かれている
- 受け入れ条件が3つ以上定義されている
- UIデザイン(Figma)がレビュー済み
- ストーリーポイントの見積もりが完了(チーム合意)
- 外部API連携がある場合、API仕様が確定している
運用例: スプリントプランニングで「ユーザープロフィール編集機能」を検討。DoRをチェックしたところ、項目5のAPI仕様が未確定だったため、次スプリントに延期。代わりにDoRを満たしている別のアイテムを採用。
| 指標 | DoR導入前 | 導入3ヶ月後 |
|---|---|---|
| スプリント中の仕様確認待ち | 月6回 | 月0回 |
| スプリント完了率 | 68% | 92% |
| ベロシティの標準偏差 | 12pt | 4pt |
DoRを導入したことで「始められない」が激減し、スプリント完了率が68%から92%に改善。ベロシティも安定した。
状況: 従業員30名のWeb制作会社。クライアントからの要件が曖昧なままスプリントに入ることが多く、手戻りが全作業の25%を占めていた。
DoRの工夫:
- 通常のDoR項目に加え、「クライアント承認済みワイヤーフレームがある」を追加
- 受け入れ条件はクライアントとチームの双方で合意したものだけ有効
- DoR未達アイテムは「ステータス: 要確認」としてバックログに差し戻し
結果:
| 指標 | 導入前 | 導入6ヶ月後 |
|---|---|---|
| 手戻り率 | 25% | 7% |
| クライアント満足度 | 3.2/5.0 | 4.5/5.0 |
| プロジェクト納期遵守率 | 60% | 88% |
この取り組みが示すように、受託開発では「クライアント承認」をDoRに含めることで、手戻り率を25%から7%に削減でき、納期遵守率も大幅に改善した。
状況: 人口15万人の市役所の基幹システム刷新。ベンダー3社・庁内担当者12名の大規模プロジェクト。要件の認識ずれにより、3ヶ月で4回の仕様変更会議が発生していた。
DoRの設計:
- 業務フロー図が現行・新規ともに作成済み
- 関係部署の課長以上の承認が書面で取得済み
- テストデータが準備されている
- セキュリティ要件が情報政策課のレビューを通過済み
- ベンダーの見積もり(工数・費用)が確定済み
運用: 月2回のリファインメントで次期開発対象をDoRチェック。「住民税計算ロジックの変更」はDoR項目2(関係部署承認)が未達のため、税務課長の承認を先に取得するアクションを設定。
| 指標 | DoR導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 仕様変更会議の回数 | 3ヶ月で4回 | 3ヶ月で0回 |
| 開発の手戻り工数 | 月80人時 | 月12人時 |
| プロジェクト遅延日数 | 累計45日 | 累計3日 |
行政プロジェクトでは「関係部署の書面承認」をDoRに組み込むことで、後からのひっくり返しを防ぎ、手戻り工数を**85%**削減できた。
やりがちな失敗パターン#
- DoRを厳しくしすぎる — 条件が多すぎると、いつまでもReadyにならない。本当に着手に必要な最低条件に絞る
- DoRをプロダクトオーナーだけの責任にする — DoR達成はチーム全体の協力が必要。開発者も見積もりや技術的な確認で貢献する
- DoRとDoDを混同する — DoRは「始められる条件」、DoDは「終わった条件」。入口と出口は別のチェックリスト
- DoRを形骸化させる — チェックリストが壁に貼ってあるだけで誰も確認しない。プランニングの冒頭で毎回DoRを読み上げる習慣をつける
まとめ#
準備の定義(DoR)は、「準備不足のままスプリントに突入する」という無駄を防ぐ入口のチェックリスト。バックログリファインメントでDoRを満たし、プランニングでは準備万端のアイテムだけを採用する。DoDとセットで運用すれば、スプリントの入口も出口も品質が安定する。