ひとことで言うと#
意思決定に関わる人を**Driver(推進者)・Approver(承認者)・Contributor(助言者)・Informed(報告先)**の4役割に分け、「誰が決めるか」を事前に明確にすることで、合議の迷走や決定の先送りを防ぐ手法。
押さえておきたい用語#
- Driver(ドライバー)
- 意思決定プロセスを推進する責任者。情報を集め、選択肢を整理し、会議をファシリテートする。決定権そのものは持たない。
- Approver(アプルーバー)
- 最終的にYes/Noを判断する唯一の人。意見が割れた場合にこの人の判断が最終決定となる。原則1名に限定する。
- Contributor(コントリビューター)
- 専門知識や現場の視点から助言・意見を提供する人。Approverの判断材料を豊かにする役割で、決定権は持たない。
- Informed(インフォームド)
- 決定結果を事後に通知される関係者。決定プロセスには参加しないが、結果の影響を受けるため知らされる必要がある。
DACI意思決定フレームワークの全体像#
こんな悩みに効く#
- 会議で議論はするが誰も決めずに持ち帰りになる
- 関係者全員の合意を取ろうとして決定が遅れる
- 「あの件、誰が決めるんでしたっけ?」が頻発する
- 決まった後に「聞いてない」と言われる人が出てくる
基本の使い方#
具体例#
エンジニア15名のSaaSスタートアップ。新機能で外部API連携が必要になったが、候補が3つあり、2週間議論しても決まらなかった。
DACIを導入し、以下の通り役割を割り当てた。
| 役割 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| Driver | テックリード | 技術情報を最も集約できる |
| Approver | CTO | 技術戦略の最終決定者 |
| Contributor | バックエンド2名、インフラ1名 | 各専門領域の知見 |
| Informed | PM、デザイナー、営業 | 機能のスケジュールに影響する |
Driverが3日でContributorからの意見を集め、比較表を作成してCTOに提示。CTOが翌日に判断し、合計 4日 で決定が完了した。それまで2週間かかっていた決定プロセスが大幅に短縮されている。
食品メーカー(従業員400名)の新商品開発。パッケージデザインの最終候補3案に対し、マーケティング・営業・製造・経営企画の4部門から意見が出て収拾がつかなくなった。
DACIで役割を整理した。
Driverはブランドマネージャー、Approverはマーケティング部長(1名)に絞った。営業部長と製造部長はContributor、経営企画と広報はInformedに設定。
Contributorからの意見を「ブランド戦略との整合性」「店頭での視認性」「製造コスト」の3軸で整理し、Approverに提示。1週間で最終決定 に至り、発売スケジュールの2週間前倒しに成功した。
人口20万人の自治体。DX推進室(5名)がクラウドサービスの導入を検討していたが、情報システム課・総務課・財政課の間で意見が割れ、3か月間決定が保留されていた。
DX推進室長がDACIの説明資料を作り、副市長を交えた会議で役割を正式に決めた。
Driver:DX推進室の主任、Approver:副市長、Contributor:情報システム課長・総務課長・外部コンサルタント、Informed:各課の担当者・議会報告用の企画課。
Approverが副市長に一本化されたことで「どちらの課の意見を優先するか」の調整が不要になり、Driverの提案から 2週間で正式決定。3か月の停滞が嘘のように動き出したという。
やりがちな失敗パターン#
- Approverを複数名にする ─ 2名以上のApproverは「誰が最終判断するか」で再び詰まる原因になる。原則1名に限定する
- Driverが情報を集めずにApproverに丸投げする ─ DriverはApproverが判断しやすい状態を作る責任がある。選択肢の整理・比較表の作成はDriverの仕事
- ContributorとApproverの区別が曖昧 ─ 「意見は聞くが決定権はない」ことを明示しないと、Contributorが事実上の拒否権を持ってしまう
- Informedへの共有を忘れる ─ 決定プロセスに参加しなかった人が結果を知らないと、実行段階で抵抗が生まれる。共有は決定翌日までに行う
企業での実践例 — Atlassian#
DACIフレームワークを全社的に導入し、広く普及させたのがAtlassianである。Jira、Confluence、Trelloなどのコラボレーションツールを開発するAtlassianは、自社の急成長に伴い「関係者が増えるほど意思決定が遅くなる」問題に直面した。そこでDACIを全社の意思決定プロセスの標準として採用し、Confluenceのテンプレートとして組み込んだ。Atlassianの社内では、技術選定からマーケティング施策の決定まで、あらゆる重要な意思決定にDACIテーブルの記入が求められる。
Atlassianが公開している「Team Playbook」では、DACIの具体的な運用方法が無償で公開されている。特に強調されているのが「Approverは原則1名」というルールの徹底である。Atlassianの共同CEO(当時)のマイク・キャノン=ブルックスは「Approverを2人にした瞬間、意見が割れたときに誰も決められなくなる。1人のApproverが間違った判断をするリスクより、誰も決められないリスクのほうがはるかに大きい」と述べている。Atlassianの実践を通じて、DACIはソフトウェア業界を中心にグローバルに広まり、現在ではテック企業以外の製造業や行政機関でも採用されている。
まとめ#
DACIは、意思決定に関わる人をDriver・Approver・Contributor・Informedの4役割に分け、「誰が推進し、誰が最終判断し、誰が助言し、誰に共有するか」を事前に明確にする手法。Approverを1名に限定することで合議の迷走を防ぎ、Driverが情報を整理して判断材料を揃えることで決定のスピードと質を両立させる。