ひとことで言うと#
キャパシティプランニングとは、チームが実際に使える作業時間(キャパシティ)を正確に見積もり、それに基づいて仕事量を調整する計画手法。「やりたいこと」ではなく「できること」を基準にすることで、無理のない計画を立てる。
押さえておきたい用語#
- キャパシティ(Capacity)
- チームが一定期間内に投入できる実効作業時間の総量のこと。理論上の勤務時間ではなく、会議や割り込みを差し引いた現実的な数値を使う。
- フォーカスファクター(Focus Factor)
- 勤務時間のうち実際に計画タスクに集中できる割合を指す。一般的に0.6〜0.8(60〜80%)が現実的な値とされる。
- 需要(Demand)
- 計画期間内に完了させたい作業量の合計のこと。バックログから選んだタスクの見積もり合計で算出する。
- バッファ(Buffer)
- 予測できない作業(障害対応・急なリクエスト)に備えてキャパシティの一部を確保しておく余白のこと。一般的にキャパシティの20%を充てる。
キャパシティプランニングの全体像#
こんな悩みに効く#
- チームが常にオーバーワーク状態で残業が常態化している
- スプリントで計画した作業が毎回終わらない
- 新しいプロジェクトを受けるべきか判断できない
基本の使い方#
チームメンバーの実際に使える作業時間を計算する。
- 各メンバーの稼働日数を確認(休暇・祝日・研修などを差し引く)
- 1日の実効作業時間を設定する(8時間勤務でも実効は5〜6時間が現実的)
- 会議・管理業務・割り込み対応の時間を差し引く
- チーム全体の合計キャパシティを算出する
ポイント: 理想の8時間/日ではなく、実績ベースの5〜6時間/日で計算する。フォーカスファクター(集中係数)として0.6〜0.8を掛けるのが一般的。
計画期間内に必要な作業量を洗い出し、優先順位をつける。
- バックログから対象期間のタスクを選定する
- 各タスクの作業量を見積もる(ストーリーポイント or 時間)
- 過去の実績(ベロシティ)と比較して妥当性を確認する
- 優先度に基づいてランク付けする
ポイント: 見積もりは楽観的になりがち。過去3回の実績の平均を使うとより正確になる。
キャパシティと作業量のギャップを特定し、計画を調整する。
- キャパシティの80%を計画タスクに充て、20%をバッファにする
- 需要がキャパシティを超える場合: タスクの削減・延期・外部リソースの追加を検討
- キャパシティに余裕がある場合: 技術的負債の返済や改善タスクを入れる
- 調整結果をステークホルダーと共有し、合意を得る
ポイント: バッファゼロの計画は必ず破綻する。予測できない作業(障害対応・急なリクエスト)は必ず発生する。
具体例#
状況: ソフトウェア開発チーム6名の次スプリント(2週間 = 10営業日)。
キャパシティの算出:
| メンバー | 稼働日数 | 実効時間/日 | キャパシティ |
|---|---|---|---|
| A | 10日 | 6h | 60h |
| B | 8日(2日休暇) | 6h | 48h |
| C | 10日 | 6h | 60h |
| D | 10日 | 5h(リーダー業務) | 50h |
| E | 10日 | 6h | 60h |
| F | 7日(3日研修) | 6h | 42h |
| 合計 | — | — | 320h |
計画に使う量(80%): 256時間
需要の調整:
- バックログ上位のタスク合計: 310時間(キャパシティ超過)
- 優先度Cのタスク60時間を次スプリントに延期
- 最終計画: 250時間分のタスクを選定
キャパシティプランニング導入後、スプリント完了率が従来の65%から92%に向上した。チームの残業は月平均20時間から5時間に減少し、メンバーのエンゲージメントスコアも3.2から4.1に改善している。
状況: 従業員35名の広告代理店。デザイナー4名・ディレクター2名のクリエイティブチームが月次でキャパシティプランニングを実施。新規案件の受注可否を判断する。
月次キャパシティ:
- デザイナー4名 × 20営業日 × 5h = 400時間
- ディレクター2名 × 20営業日 × 4h = 160時間
- 合計: 560時間(計画利用80%: 448時間)
既存案件の需要: 380時間(残キャパ: 68時間)
新規案件の打診: 大手飲料メーカーのキャンペーンLP制作(見積もり120時間)
判断: 残キャパ68時間に対して120時間は超過。選択肢を提示:
- 納期を1.5ヶ月に延長(通常1ヶ月)→ 受注可能
- フリーランス1名を追加投入(月30万円)→ 1ヶ月で受注可能
- 低優先度の既存案件を後ろ倒し → リスクあり
データに基づく受注判断により「やります」と安請け合いして品質低下を招くパターンを回避できた。経営層に対しても「残キャパ68時間に対して120時間の案件」と定量的に説明でき、追加投資の意思決定がスムーズになった。
状況: 人口18万人の地方自治体。IT推進課5名で年間12のシステム改修案件を抱えているが、毎年度末に3〜4件が未完了で繰り越しになっている。
年間キャパシティ算出:
- 5名 × 240営業日 × 5h(会議・庶務除く)= 6,000時間
- 計画利用(80%): 4,800時間
- 突発対応(障害・問い合わせ)実績: 年間800時間 → 残: 4,000時間
12案件の需要見積もり: 合計5,200時間(キャパシティ超過1,200時間)
調整策:
- 優先度の低い3案件(計1,400時間)を次年度に計画的に繰り越し
- 残り9案件を四半期ごとに2〜3件ずつ分散配置
- 各四半期末に進捗を確認し、キャパシティを再計算
| 年度 | 計画案件数 | 繰り越し案件数 | 完了率 |
|---|---|---|---|
| 導入前年度 | 12件 | 4件 | 67% |
| 導入年度 | 9件 | 0件 | 100% |
「12件全部やります」と宣言して4件繰り越すのと、「9件を確実に完了します」と計画して100%達成するのと、組織にとって信頼が残るのはどちらだろうか。キャパシティプランニングは「できないことをできないと言う」ための武器でもある。
やりがちな失敗パターン#
- 理想値でキャパシティを計算する — 1日8時間フルで作業できると想定すると、計画は必ず破綻する。会議・割り込み・集中力の波を考慮して実効5〜6時間で計算する
- バッファを設けない — 「今回は大丈夫」と毎回バッファを削る。不測の事態は必ず起きるので、20%のバッファは保険ではなく必需品
- 属人化を無視する — 特定のメンバーにしかできないタスクが多いと、その人がボトルネックになる。スキルの偏りもキャパシティの制約として考慮する
- キャパシティを固定値として扱う — メンバーの異動・体調・モチベーションで実効時間は変動する。スプリントごとにキャパシティを再計算する習慣をつける
まとめ#
キャパシティプランニングは「できる量」から逆算して計画を立てるアプローチ。実効作業時間を正確に把握し、20%のバッファを確保し、需要と供給のバランスを調整する。これにより、チームは無理なく成果を出せるようになり、計画の信頼性が飛躍的に向上する。