プレモーテム分析

英語名 Pre-Mortem Analysis
読み方 プレモーテム ぶんせき
難易度
所要時間 30〜60分(チームワークショップ)
提唱者 Gary Klein(1998年)
目次

ひとことで言うと
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プレモーテムは「このプロジェクトは大失敗に終わりました。なぜでしょう?」という問いから始める逆転のリスク分析法。通常のリスク分析が「何が起きるかもしれないか」を聞くのに対し、プレモーテムは「すでに失敗した」前提を置く。この違いが重要で、「失敗した未来」を想像する方が、人は30%多くのリスク要因を挙げられるという研究結果がある。心理学者ゲイリー・クラインが提唱した手法。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
プレモーテム(Pre-Mortem)
プロジェクト開始に「失敗した」と仮定してリスクを洗い出す手法。医学の「ポストモーテム(死後解剖)」をもじった造語。
前向きヒンドサイト(Prospective Hindsight)
未来の出来事をすでに起きたこととして振り返る認知的技法。「もしかしたら失敗するかも」より「失敗した。なぜか」の方が、具体的な原因を想像しやすくなる。
楽観バイアス(Optimism Bias)
計画段階ではうまくいく前提で考えてしまう人間の傾向。プレモーテムはこのバイアスを意図的に打ち消す。
計画の誤謬(Planning Fallacy)
プロジェクトの所要時間やコストを過小に見積もる傾向。楽観バイアスの一種で、プレモーテムによって現実的な見積もりに近づけられる。

プレモーテム分析の全体像
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プレモーテム分析の流れ
失敗を宣言「このPJは大失敗しました」と宣告原因を列挙個人で黙って書き出す「なぜ失敗したか?」共有と対策全員で共有→分類→対策を計画に組み込むなぜ「失敗した前提」が効くのか楽観バイアスを打ち消し、「言いにくいリスク」も出しやすくなるプロジェクト開始前に30分で実施できるリスク分析
プレモーテム分析の実施手順
1
失敗を宣言する
「1年後、このPJは完全に失敗しました」
2
個人で原因を書く
5分間、黙って失敗の原因を列挙する
3
共有して対策を決める
全員発表→重複排除→優先順位→対策をPJ計画に
リスクが計画に反映
盲点だったリスクへの備えが組み込まれる

こんな悩みに効く
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  • プロジェクト計画段階で「リスクは?」と聞いても何も出てこない
  • いつも同じパターンの失敗を繰り返すが、計画時には誰も指摘しなかった
  • チームメンバーが上司の前で懸念を言い出せない雰囲気がある

基本の使い方
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チームを集め、失敗を宣言する

プレモーテムの鍵は「失敗した」という前提を全員で共有するところにある。

  • プロジェクトキックオフまたは計画レビューの場で実施する
  • ファシリテーターが宣言する:「1年後の今日、このプロジェクトは完全に失敗しました。予算超過、納期遅延、顧客からのクレーム殺到。最悪の結果です」
  • この宣言が「リスクを語ること=ネガティブではない」という空気を作る
  • 笑いが起きることもあるが、それは心理的安全性のサイン
5分間、個人で「なぜ失敗したか」を書き出す

声に出さず黙って書くのがポイント。他人の意見に引きずられない。

  • 付箋またはノートに、思いつく限りの失敗原因を書く
  • 「人手が足りなかった」「スコープが膨らんだ」「キーパーソンが退職した」「競合が先に出した」など
  • 技術的なリスクだけでなく、組織・人・政治的なリスクも含める
  • 「言いにくいこと」ほど価値がある。プレモーテムはそれを引き出す仕組み
全員で共有し、対策を計画に組み込む

書き出した原因を1人ずつ発表し、分類→優先順位→対策のステップで処理する。

  • 発表は1人1項目ずつラウンドロビンで回す(全員が発言する機会を確保)
  • 似た原因をグルーピングし、「発生確率×影響度」で優先順位をつける
  • 上位3〜5項目に対して、具体的な予防策をプロジェクト計画に追加する
  • 「このリスクが顕在化したら誰が何をするか」まで決めておく

具体例
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例1:新規Webサービスのローンチ前プレモーテム

状況: スタートアップの新サービスローンチまで3ヶ月。チーム7名。計画は順調に見えるが、PM(プロジェクトマネージャー)は「何か見落としている」という漠然とした不安を感じている

プレモーテムの実施: キックオフ会議の最後30分で実施。「3ヶ月後、ローンチは大失敗でした。なぜ?」と宣言

挙がった失敗原因(抜粋):

  • 「決済APIの審査が間に合わなかった」(エンジニア)— 計画に審査期間が含まれていなかった
  • 「デザインのリテイクが3回以上発生し、開発着手が遅れた」(デザイナー)
  • 「ローンチ直後にサーバーが落ちて、初期ユーザーが離脱した」(インフラ担当)
  • 「共同創業者が途中でピボットを言い出し、スコープが変わった」(PMが書いたが口に出せなかった内容)

対策: 決済API審査を即日申請(1ヶ月のバッファ確保)、デザインレビューの回数を2回に制限、負荷テスト実施日を計画に追加、スコープ凍結の合意を共同創業者と文書化

結果: ローンチは計画通り実施。特に決済API審査は実際に3週間かかり、「プレモーテムで先に動いていなければ間に合わなかった」とPMは振り返っている。

例2:社内基幹システムの移行プロジェクト

状況: 従業員500名のメーカー。20年使った基幹システムのクラウド移行。プロジェクト期間12ヶ月、予算1.5億円。過去2回の類似プロジェクトがいずれも予算超過で炎上した経験がある

プレモーテムの実施: プロジェクト計画承認前に、関係部門(IT、経理、営業、製造)の代表者12名で1時間のプレモーテムセッションを実施

挙がった失敗原因(上位5つ):

  1. 現行システムの仕様が文書化されておらず、移行漏れが発生
  2. 製造部門が新システムの操作に慣れず、生産が一時停止
  3. データ移行でマスターデータの不整合が発覚し、手動修正に3ヶ月
  4. 経営層が途中で追加要件を出し、スコープが1.5倍に膨張
  5. ベンダーの主要担当者が途中で交代し、引き継ぎに2ヶ月

対策: 現行システムの仕様書作成を移行作業に先行して実施(3ヶ月前倒し)、製造部門向け研修を本番3ヶ月前から開始、データクレンジングを独立したフェーズとして計画に追加、スコープ変更委員会を設置

結果: 12ヶ月の計画を13ヶ月で完了(1ヶ月の超過のみ)。予算は1.58億円で着地。過去2回の炎上と比較して大幅に改善。「プレモーテムで出た項目の6割は実際に発生したが、備えがあったので致命傷にならなかった」とPMは評価している。

例3:家族旅行の計画に使う

状況: 4人家族(夫婦+小学生2人)で沖縄旅行を計画。過去の家族旅行では「渋滞で予定が崩壊」「子どもが疲れて不機嫌」「行きたい場所の定休日」などでストレスが溜まった経験あり

プレモーテムの実施: 夕食後に家族4人で「この旅行、最悪でした。何が起きた?」と10分間のプレモーテム

挙がった失敗原因:

  • 「雨で海に行けなかった」(長男)
  • 「車の中が暑くて弟が泣いた」(長女)
  • 「レストランが予約いっぱいだった」(妻)
  • 「レンタカーの渋滞で2時間ロスした」(夫)

対策: 雨の日プランBを2つ用意(水族館+室内アクティビティ)、移動は午前中に集中させ午後は近場で遊ぶ構成に変更、レストランは3日前に全て予約、車内にタブレットとお菓子を準備

結果: 実際に2日目が雨だったが、プランBの水族館が大好評。子どもたちは「プレモーテムやってよかったね」と覚えていた。旅行中のケンカはゼロだった。

やりがちな失敗パターン
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  1. リスクを出しただけで対策を決めない — プレモーテムの価値はリスクの列挙ではなく、その対策をプロジェクト計画に組み込むところにある。ワークショップで終わりにしない
  2. 上司の前だとリスクが出てこない — プレモーテムは匿名性を確保すると効果が上がる。付箋に書いて回収する、オンラインフォームを使うなどの工夫が有効
  3. 楽観バイアスを取り除けていない — 「失敗した前提」のフレーミングを省略して「リスクは何かある?」と聞くだけだと、通常のリスク分析と変わらない。宣言のプロセスが本質
  4. プロジェクト開始後に初めてやる — プレモーテムは計画段階で実施してこそ効果がある。進行中に行っても対策の組み込みが遅れる

まとめ
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プレモーテムは「30分でできる最高のリスク対策」だ。必要なのはチーム、付箋、そして「このプロジェクトは失敗しました」という一言。この宣言が楽観バイアスを解除し、「言いにくいリスク」を表に出す。通常のリスク分析より30%多くのリスク要因が挙がるという研究結果は、この手法の有効性を裏付けている。次のプロジェクトのキックオフで、最後の30分を「プレモーテム」に使ってみてほしい。