ひとことで言うと#
PMI法は、アイデアや提案を**Plus(良い点)、Minus(悪い点)、Interesting(興味深い点)**の3つの視点から評価する思考ツール。エドワード・デ・ボーノが考案したこの手法の特徴は、賛成/反対の二項対立を「Interesting(面白い・気になる点)」という第3の視点で崩すこと。直感的に「良い」「悪い」と判断する前に3つの欄を埋めることで、見落としていた側面に気づける。
押さえておきたい用語#
- Plus(プラス)
- そのアイデアの肯定的な側面。メリット、利点、良い影響、ワクワクする点など。
- Minus(マイナス)
- そのアイデアの否定的な側面。デメリット、リスク、コスト、不安要素など。
- Interesting(インタレスティング)
- 良いとも悪いとも言えないが注目すべき側面。意外な点、さらに調べる価値がある点、条件によって評価が変わる点など。PMI法独自の視点であり、この欄が思考を最も拡張する。
- 判断保留(Suspension of Judgment)
- 評価を即座に下さず、まず多角的に情報を集めてから判断する態度。PMI法はこの原則を構造化した手法。
PMI法の全体像#
こんな悩みに効く#
- アイデアが出ても「いいね」か「ダメだね」の二択で終わってしまう
- 会議で賛成派と反対派が対立し、建設的な議論にならない
- 自分の直感が正しいのか、バイアスがかかっているのか判断できない
基本の使い方#
PMI法は1テーマにつき1枚で使う。
- ホワイトボード、紙、スプレッドシートなどに「P」「M」「I」の3列を作る
- テーマは具体的に書く(「リモートワーク」ではなく「週3日のリモートワーク制度の導入」)
- グループで使う場合は、まず個人で書いてから共有する方が多様な視点が出る
- 制限時間を設ける(各欄3分が目安)
順番に意味がある。まずPから始めることで、批判モードに入る前にメリットを見つけられる。
- P(良い点):「このアイデアのメリットは?」「誰にとって嬉しいか?」を3〜5個
- M(悪い点):「リスクは?」「コストは?」「誰が困るか?」を3〜5個
- I(興味深い点):「意外な発見は?」「条件次第で変わる点は?」「もっと調べるべきことは?」を3〜5個
- Iの欄が最も重要。ここに書かれた項目が、議論を深める材料になる
P・M・Iをすべて見た上で、初めて「やるか・やらないか」を判断する。
- PがMを大きく上回り、Iにも興味深い可能性がある → 実行の方向で詳細を詰める
- MがPを上回るが、Iに重要な条件が見つかった → 条件を変えれば実行可能かもしれない
- Iの「もっと調べるべきこと」が多い → 判断を保留し、情報収集に移る
- 最初の直感と結論が変わることがよくある。それがPMI法の価値
具体例#
状況: IT企業の人事部長が「週4日勤務(金曜休み)」の導入を経営会議に提案したい。直感的には良さそうだが、反対も予想されるため事前にPMI法で整理
PMIの結果:
- P: 社員の満足度向上 / 採用競争力の強化 / 通勤コスト削減 / 集中力のある4日で効率向上の可能性
- M: 顧客対応の空白(金曜連絡不可) / 管理職の負荷増 / 給与は維持するのか削減するのか / 業績が落ちたとき元に戻しにくい
- I: 競合他社でまだ導入例がない→差別化になるか、採用市場での反応は? / 金曜ではなく水曜を休みにした方がリフレッシュ効果が高いかもしれない / 3ヶ月のトライアル導入なら「元に戻しにくい」リスクを軽減できる
結果: Iの「3ヶ月トライアル」が突破口になり、経営会議で「まず1チームで試す」提案に切り替えて承認を得た。直感では「全社一斉導入」を提案するつもりだったが、PMI法でリスクと突破口の両方が見えた。
状況: 地方の和菓子店。息子が「ECサイトで全国に売ろう」と提案。父親は「うちは地元密着でやってきた」と否定的。親子の意見が平行線
PMIの結果(父親と息子で一緒に記入):
- P: 地元以外の顧客が増える / 季節商品の売れ残りが減る / 店の知名度向上 / 若い世代にリーチできる
- M: 梱包・発送の手間とコスト / 賞味期限の短い商品は発送困難 / クレーム対応が増える可能性 / 初期費用(写真撮影、サイト構築)
- I: 全商品ではなく「日持ちする3商品」だけなら発送の問題をクリアできる / 父の日・母の日のギフト需要に特化する手もある / 既存の常連客に「贈り物用」として使ってもらえるかもしれない
結果: 「全商品をEC展開」ではなく「日持ちする3商品をギフト特化で出す」という折衷案に着地。父親も「それなら品質を落とさず試せる」と合意。Iの欄から生まれた案が、対立を解消する着地点になった。
状況: 公立中学校のPTA会議。「スマホの校内持ち込みを許可すべきか」で保護者の意見が真っ二つ。感情的な議論が続き、結論が出ない
PMI法を導入(賛成派・反対派混合の4人グループで実施):
- P: 災害時の連絡手段になる / 下校後の塾・習い事への連絡がスムーズ / デジタルリテラシー教育の機会 / 保護者の安心感
- M: 授業中の使用による集中力低下 / SNSトラブルの増加リスク / 盗難・紛失の対応 / 持っていない生徒への心理的影響
- I: 「持ち込み可・使用不可」というルールなら多くの懸念が解消する / ロッカーに保管するルールを作れば授業への影響はゼロにできる / 他校の導入事例を調べる価値がある / 生徒自身にルールを考えさせる教育機会にできるかもしれない
結果: 「賛成か反対か」ではなく「どういう条件なら許可できるか」に議論がシフト。「登校時にロッカーに預け、下校時に回収」ルールで試行導入が決定。Iの欄が対立を「条件設計」に変換する役割を果たした。
やりがちな失敗パターン#
- Iの欄を軽視する — P(良い点)とM(悪い点)だけなら普通のメリデメ分析と変わらない。Iこそがデ・ボーノの独自貢献であり、思考を拡張する鍵
- 記入前に結論を決めている — 「やると決めているが、根拠を整理するためにPMIを使う」のは本来の使い方ではない。3つの欄を埋めた後に判断する
- グループワークで最初から声に出して議論する — 声の大きい人の意見に引きずられる。まず個人で黙って書き、その後に共有する手順が効果的
- 1つのアイデアだけに使う — 2〜3の選択肢それぞれにPMIを実施し、比較する使い方が意思決定の質を高める
まとめ#
PMI法の最大の武器は「Interesting」の欄にある。良い/悪いの二項対立を超えて、「条件次第で変わる」「もっと調べるべき」「意外な可能性がある」という第3の視点を強制的に生み出す。10分あれば1テーマを評価でき、会議の冒頭に取り入れるだけで議論の質が変わる。次にアイデアを評価するときは、直感で「いいね」「ダメだね」と言う前に、紙を3列に区切るところから始めてみてほしい。