ひとことで言うと#
ある業務・機能・部品を**自社で作るか(Make)、外部から買うか(Buy)**を、コスト・品質・スピード・戦略的重要性の4つの視点で比較し、最適な選択を導く意思決定フレームワーク。「安いから外注」「コアだから内製」という短絡的な判断ではなく、総合的なメリット・デメリットを見える化して決める。
押さえておきたい用語#
- Make(内製)
- 自社のリソース(人材・設備・時間)を使って社内で開発・製造する選択肢。ノウハウが蓄積されるが、固定費が増える。
- Buy(外注・調達)
- 外部のベンダーやサプライヤーから購入・委託する選択肢。立ち上がりが早いが、依存リスクが生じる。
- 総所有コスト(TCO)
- 購入価格だけでなく、導入・運用・保守・廃棄までを含めたライフサイクル全体のコスト。外注の「見えないコスト」を可視化するために使う。
- コアコンピタンス
- 自社の競争優位の源泉となる核心的な能力。コアに関わる領域は内製が原則、非コアは外注候補になる。
メイク・オア・バイ分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- 新機能の開発を自社でやるかSaaSを導入するかで、チーム内の意見が割れている
- 外注コストが年々上がっているが、内製に切り替えるべきか判断できない
- 「コアだから内製」と言われるが、本当にコアかどうかの基準が曖昧
基本の使い方#
初期費用だけでなく、運用・保守・人件費・機会費用を含めた総コストで比較する。
- 内製コスト: 開発人件費+設備投資+保守運用+教育訓練+管理コスト
- 外注コスト: 契約費用+導入・移行費用+カスタマイズ費用+コミュニケーションコスト+ベンダーロックインのリスクコスト
- 3〜5年のスパンで比較するのが原則(初年度だけの比較は判断を誤る)
コストが同程度の場合、他の3軸で判断が分かれる。
- 品質: 仕様変更に素早く対応できるのはどちらか。品質基準を自社でコントロールできるか
- スピード: 市場投入までの時間はどちらが短いか。特にスタートアップでは「間に合うかどうか」が最優先の場合がある
- 戦略的重要性: その領域は自社の差別化の源泉か。コアコンピタンスに直結するなら内製、非コアなら外注が基本方針
Make/Buyそれぞれのリスクを洗い出し、許容できるかどうかで最終決定する。
- 内製のリスク: 開発の遅延、技術的負債の蓄積、人材の離脱
- 外注のリスク: ベンダー依存、ノウハウのブラックボックス化、契約終了時の移行コスト
- 判断は白黒ではない。「コア部分は内製、周辺は外注」というハイブリッドも有力な選択肢
具体例#
状況: 15店舗を展開する飲食チェーン。紙の予約台帳をデジタル化したい。SaaS(月額1店舗5,000円)を使うか、自社で予約システムを開発するかで迷っている
4軸評価:
| 評価軸 | Make(内製) | Buy(SaaS) |
|---|---|---|
| コスト(3年TCO) | 開発費500万+保守年120万=860万円 | 月7.5万×36ヶ月=270万円 |
| 品質・柔軟性 | 自社の業務フローに完全対応 | 汎用的で一部機能が合わない |
| スピード | 開発に6ヶ月 | 即日導入可能 |
| 戦略的重要性 | 予約管理はコア業務ではない | — |
判断: Buy(SaaS導入)。コストが3分の1以下で即日使えるうえ、予約管理は差別化の源泉ではない。ただし、将来的に顧客データを活用したマーケティングが重要になるなら、データのエクスポート条件を契約で確保した。
状況: ARR 5億円のBtoB SaaS。サブスクリプションの課金処理をStripe(外部サービス)に依存しているが、取引額の2.5%が手数料として出ていく。年間1,250万円
4軸評価:
| 評価軸 | Make(自社課金基盤) | Buy(Stripe継続) |
|---|---|---|
| コスト(3年) | 開発1,500万+保守年300万=2,400万円 | 手数料1,250万×3年=3,750万円 |
| 品質・柔軟性 | 複雑な料金体系にも対応可能 | 標準的な課金モデルなら十分 |
| スピード | 8ヶ月 | 既に稼働中 |
| 戦略的重要性 | 課金は事業の根幹だがコア技術ではない | — |
判断: ハイブリッド。Stripeをベースに使い続けつつ、独自の請求管理レイヤーだけを内製する。手数料は許容するが、課金ロジック(プラン変更・按分計算・請求書発行)は自社でコントロール。3年TCOは2,000万円程度で、フルMakeよりも安く、フルBuyよりも柔軟性がある。
状況: 従業員60名の金属加工工場。目視検査を行う熟練工が2名いるが、1名が来年定年退職。画像認識AIによる自動検査を導入したい
4軸評価:
| 評価軸 | Make(自社AI開発) | Buy(検査AI SaaS) |
|---|---|---|
| コスト(3年) | AIエンジニア採用+開発=3,000万円超 | 年間480万×3年=1,440万円 |
| 品質・柔軟性 | 自社製品に完全最適化できる | 汎用モデルで精度90%。自社データで追加学習可能 |
| スピード | エンジニア採用から1年以上 | 3ヶ月で稼働 |
| 戦略的重要性 | 品質は差別化の源泉だが、AI技術自体はコアではない | — |
判断: Buy。AI技術は自社のコアコンピタンスではなく、採用の難易度も高い。SaaSの精度90%を起点に、自社データの追加学習で95%まで改善する方針とした。熟練工の退職前に稼働を間に合わせることが最優先で、スピードの観点からもBuyが合理的だった。
やりがちな失敗パターン#
- 初期コストだけで比較する — SaaSの月額は安く見えるが3年で積み上がると高額になることもある。逆に内製の初期投資は高く見えるが長期で回収できる場合もある。必ずTCOで比較する
- 「全部内製」にこだわる — 技術力の高いチームほど「自分たちで作りたい」と考えがちだが、非コア領域まで内製するとリソースが分散する。コアに集中するための外注という発想が重要
- 外注のリスクを過小評価する — ベンダーが値上げしてきた、サービスが終了した、仕様変更に対応してくれない——外注は「依存」のリスクと隣り合わせであることを忘れない
- 一度決めたら見直さない — 事業規模や技術環境は変化する。外注で始めたものを規模拡大後に内製に切り替える、あるいはその逆のタイミングを定期的に検討する
まとめ#
メイク・オア・バイの判断でもっとも危険なのは、1つの軸(たいていはコスト)だけで決めてしまうことだ。コスト・品質・スピード・戦略的重要性の4軸で評価し、さらにリスクを加味することで、納得感のある意思決定ができる。迷ったときの原則は「コアコンピタンスに直結する領域は内製、それ以外は外注」。そして白か黒かではなく、ハイブリッドという第三の選択肢も常に検討に入れておくとよい。