インパクトマッピング

英語名 Impact Mapping
読み方 インパクト マッピング
難易度
所要時間 1〜2時間
提唱者 ゴイコ・アジッチ
目次

ひとことで言うと
#

「Why → Who → How → What」の4階層で、ビジネスゴールから逆算してやるべきことを可視化するマインドマップ型のツール。「作ったけど意味がなかった」を防ぐための戦略フレームワーク。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
Why(ゴール)
マップの中心に置くビジネス上の達成目標のこと。計測可能で期限付きの具体的な目標が求められる。
Who(アクター)
ゴール達成に影響を与える人物やグループを指す。直接ユーザーだけでなく、間接的な関係者も含む。
How(インパクト)
アクターに起こしてもらいたい行動変化のこと。「何を作るか」ではなく「相手の行動をどう変えたいか」で考える。
What(デリバラブル)
行動変化を実現するための具体的な施策・機能である。1つのHowに対して複数のWhatを出して比較検討する。

インパクトマッピングの全体像
#

インパクトマッピング:Why→Who→How→Whatの4階層ツリー
Whyビジネスゴール計測可能・期限付きWho既存ユーザー休眠ユーザー 等Who営業チーム外部パートナー 等How利用頻度を週3回にするHow3ヶ月ぶりにログインするHowデモで新機能を効果的に見せるWhatプッシュ通知ストリーク機能What復帰メールチュートリアルWhatデモテンプレトークスクリプトなぜやるか誰に影響するか行動をどう変えるか何を作るか
インパクトマッピングの進め方フロー
1
Why:ゴール設定
計測可能で期限付きのビジネスゴールを定義
2
Who:アクター特定
ゴール達成に影響を与える人物・グループを洗い出す
3
How:行動変化
各アクターにどんな行動変化を起こしてもらうかを定義
What:施策導出
行動変化を実現する具体的な機能・施策を複数出して優先順位づけ

こんな悩みに効く
#

  • 機能はどんどん追加しているのに、ビジネスの成果につながらない
  • 「なぜこの機能を作るのか」をチームに説明できない
  • ロードマップがただの機能リストになっている

基本の使い方
#

ステップ1: Why(ゴール)を定義する

マップの中心に、達成したいビジネスゴールを置く。

ゴールの条件:

  • 計測可能であること: 「売上を伸ばす」ではなく「四半期の売上を20%増加させる」
  • 期限があること: いつまでに達成するか明確にする
  • チームがコントロールできること: 外部要因だけで決まるものは避ける

例: 「6ヶ月以内に月間アクティブユーザー数を1万人から2万人に増やす」

ゴールが曖昧だと、この後のすべてが空回りする。ここに最も時間をかけてよい。

ステップ2: Who(アクター)を特定する

ゴール達成に影響を与える人物・グループを洗い出す。

アクターの種類:

  • 直接ユーザー: プロダクトを使う人
  • 間接ユーザー: ユーザーに影響を与える人(上司、同僚、家族など)
  • 社内ステークホルダー: 営業、カスタマーサポートなど
  • 外部パートナー: メディア、インフルエンサー、APIパートナーなど

例: 「既存ユーザー」「休眠ユーザー」「業界メディア」「営業チーム」

全員に同じ施策を打つのではなく、誰に注力するかを選ぶのがポイント

ステップ3: How(インパクト=行動変化)を考える

各アクターに、どのような行動変化を起こしてもらえばゴールに近づくかを書く。

ここが最重要。「何を作るか」ではなく「相手の行動をどう変えたいか」を考える。

例:

  • 既存ユーザー → 「週1回の利用を週3回にする」
  • 休眠ユーザー → 「3ヶ月ぶりにログインする」
  • 業界メディア → 「プロダクトを記事で紹介する」

行動変化が具体的であるほど、次のステップで的確な施策が出てくる

ステップ4: What(成果物・施策)を導き出す

各行動変化を実現するための具体的な施策や機能を書く。

例:

  • 「週3回利用する」← ①デイリーダイジェストのプッシュ通知 ②ストリーク機能 ③週次レポートメール
  • 「3ヶ月ぶりにログインする」← ①「最近のアップデート」メール ②復帰ユーザー向けチュートリアル
  • 「記事で紹介する」← ①プレスキット整備 ②メディア向け先行体験会

1つの行動変化に対して複数の施策を出し、最も効果が高そうなものから着手する。全部やる必要はない。

具体例
#

例1:BtoB SaaSが月間アクティブユーザーを倍増させる

状況: 従業員60名のプロジェクト管理SaaS。MAU1万人で伸び悩み。機能追加は月2〜3件行っているが、利用率が上がらない。

インパクトマップ:

WhyWhoHow(行動変化)What(施策)
MAU 1万→2万既存ユーザー週1→週3回利用するデイリーダイジェスト通知、ダッシュボード改善
(6ヶ月以内)無料トライアルユーザートライアル中に3つ以上の機能を使うオンボーディングウィザード、初回利用ガイド
休眠ユーザー(3ヶ月未ログイン)再度ログインする「あなた不在中のアップデート」メール
営業チームデモで新機能を効果的に見せるデモ用テンプレート、営業トークスクリプト
業界ブロガーレビュー記事を書くプレスキット、ブロガー向けβアクセス

優先順位の判断: 既存ユーザーの利用頻度向上が最もインパクトが大きいと判断。まず「デイリーダイジェスト通知」と「ダッシュボード改善」から着手。

指標施策前4ヶ月後
既存ユーザーの週間利用日数1.2日2.8日
休眠ユーザー復帰率3%14%
MAU10,00017,500

インパクトマップで「誰のどの行動を変えるか」を明確にしたことで、漫然と機能追加するよりも遥かに効率的にMAUを伸ばせた。

例2:フィットネスアプリが継続率を改善する

状況: DL数50万のフィットネスアプリ。新規DLは順調だが、30日後の継続率が12%と低い。機能は充実しているのに使い続けてもらえない。

インパクトマップ:

WhyWhoHow(行動変化)What(施策)
30日継続率新規ユーザー初日にワークアウトを1回完了する3分間お試しワークアウト
12%→30%2週目ユーザー週3回以上アプリを開くリマインド通知+ストリーク
(Q3中)友人・家族一緒にチャレンジに参加するペアチャレンジ機能
フィットネスインストラクター自分のプログラムをアプリに掲載するクリエイタープログラム

結果:

指標施策前3ヶ月後
初日ワークアウト完了率23%61%
30日継続率12%28%
ペアチャレンジ参加ユーザー0月15,000組

「なぜ継続しないか」をアクターごとに分解したことで、「初日の体験」と「2週目の習慣化」が最重要ポイントだと特定できた。全ユーザーに同じ施策を打つより、段階別に行動変化を設計するほうが効果的。

例3:地方の観光協会がインバウンド観光客を増やす

状況: 人口5万人の温泉地の観光協会。コロナ後のインバウンド回復に乗り遅れ、外国人宿泊者数が近隣の観光地の3分の1。

インパクトマップ:

WhyWhoHow(行動変化)What(施策)
外国人宿泊者数訪日旅行者旅程に当地を組み込む英語版観光サイト、Googleマップ整備
年3,000人→在日外国人コミュニティ週末の日帰り旅行先に選ぶ多言語SNS発信、体験プラン
10,000人旅行代理店ツアーコースに組み込むFAMトリップ招致、素材提供
(2年以内)地元旅館・飲食店外国語メニュー・案内を整備する多言語テンプレ配布、補助金

結果(1年目):

指標施策前1年後
英語版サイトの月間アクセス200PV8,500PV
外国人宿泊者数年3,000人年6,800人
多言語対応店舗数12店47店

観光客だけでなく「旅行代理店」「地元事業者」もアクターとして巻き込むことで、地域全体のインバウンド受入体制が整った。インパクトマッピングは公的機関の戦略立案にも有効。

やりがちな失敗パターン
#

  1. Whatから考え始める — 「プッシュ通知を作ろう」から始めると、それが本当にゴールに貢献するか検証できない。必ずWhyから始める
  2. アクターを「ユーザー」で一括りにする — 「全ユーザー」では行動変化が具体的にならない。セグメントを分けて考えることで、施策の精度が上がる
  3. マップを作って満足する — インパクトマッピングは計画ツールであり、実行後に振り返って更新するまでがセット。施策の効果を検証してマップを育てる
  4. Howが抽象的すぎる — 「ユーザー体験を良くする」はHowではない。「週1回の利用を週3回にする」のように具体的な行動変化で書く。ここが曖昧だとWhatも的外れになる

まとめ
#

インパクトマッピングは「Why→Who→How→What」の順番で考えることで、ビジネスゴールと日々の開発を直結させるフレームワーク。機能リストに振り回されるのではなく、「誰のどんな行動を変えたいから、これを作る」と説明できる状態を作る。ホワイトボード1枚で描けるシンプルさながら、チームの方向性を揃える力は絶大。