ひとことで言うと#
「好きなこと」「得意なこと」「社会が必要としていること」「お金になること」 の4つの円が重なる中心に「生きがい」がある、という考え方をベン図で可視化するフレームワーク。日本の「生きがい」概念が海外で再解釈され、キャリア設計のツールとして世界中で使われている。
押さえておきたい用語#
- 生きがい(Ikigai)
- 朝起きる理由となる人生の目的や充実感のこと。4つの要素が重なる領域に存在すると本モデルでは定義する。
- 情熱(Passion)
- 「好きなこと」と「得意なこと」が重なる領域。楽しくて上手にできることだが、社会的需要や収入が伴わない場合がある。
- 天職(Vocation)
- 「好きなこと」と「社会が必要としていること」が重なる領域。やりがいはあるが生活できない状態になりやすい。
- 専門職(Profession)
- 「得意なこと」と「お金になること」が重なる領域。稼げるが充実感がないパターンを生むことがある。
- 使命(Mission)
- 「好きなこと」と「社会が必要としていること」が重なる領域。意味はあるがスキルや収入が不足する場合がある。
生きがいベン図の全体像#
こんな悩みに効く#
- 「自分は何がしたいのか」がずっと分からない
- 仕事は安定しているが、やりがいや充実感がない
- 転職・副業・定年後のキャリアをどう考えればいいか分からない
基本の使い方#
A4の紙を4分割し、以下の問いに答える形で各円に 5〜10個 ずつ書き出す。
好きなこと: 時間を忘れて没頭できることは? 子どもの頃から変わらず好きなことは? お金をもらわなくてもやりたいことは?
得意なこと: 人より短時間でできることは? よく褒められることは? 教えてと言われることは?
社会が必要としていること: 自分の周りで困っている人は誰か、何に困っているか? 解決されていない社会課題は?
お金になること: 現在の収入源は? スキルに対してお金を払ってくれる人はいるか? 市場で需要があるスキルは?
完璧を目指さず、思いつくまま書くのがコツ。
4つのリストを見比べ、2つ以上の円に同時に入る項目をマーキングする。
- 好き×得意 = 情熱(楽しくて上手)
- 好き×社会が必要 = 使命(やりがいがある)
- 得意×お金になる = 専門職(稼げる)
- 社会が必要×お金になる = 天職(社会的意義と収入の両立)
さらに、3つ以上の円に重なる項目があれば、それが生きがいの候補。4つすべてに重なるものが見つかれば理想だが、最初から見つかることは稀。
多くの人は2〜3つの円には項目があるが、残りの1〜2つが足りない。このギャップを埋める方法を考える。
例:
- 好き×得意だがお金にならない → マネタイズの方法を学ぶ(副業、発信、商品化)
- 得意×お金になるが好きでない → 仕事の中で好きな要素を増やす工夫をする
- 好き×社会が必要だが得意でない → そのスキルを学ぶ計画を立てる
まず 1つのギャップ に集中し、3ヶ月以内にできる具体的なアクションを決める。
具体例#
メーカーの経理(34歳)。安定した収入はあるが、仕事に充実感がなく「このまま定年まで同じことを続けるのか」という漠然とした不安を抱えていた。
4つの円を記入:
- 好き: 数字の分析、教えること、文章を書くこと
- 得意: 財務分析、Excelスキル、複雑なことを分かりやすく説明する力
- 社会が必要: 中小企業の経営者は財務の読み方が分からず困っている
- お金になる: 経理スキル、財務コンサルティング
重なり発見: 「財務分析を分かりやすく教える」が4つの円すべてに該当。しかし現状は会社員として「得意×お金になる」の領域(専門職)に偏っていた。
ギャップを埋める行動: (1) 中小企業向けに「財務の読み方」ブログを開始、(2) 週末にセミナー講師を経験、(3) 6ヶ月後に副業として月 3社 のコンサルティングを開始。
1年後、副業収入が月 20万円 に到達。本業の経理スキルを「好き×社会が必要」の領域に展開したことで、「仕事が退屈」という不満が消え、本業にも良い影響が出た。
SIerのインフラエンジニア(29歳)。技術力は高く評価されていたが、「お客さんの顔が見えない仕事」にモヤモヤしていた。転職を考えていたが、まず生きがいベン図を書いてみた。
4つの円:
- 好き: 人と話すこと、問題解決、テクノロジー
- 得意: サーバー構築、障害対応、技術的な説明
- 社会が必要: ITに詳しくない中小企業が多い
- お金になる: インフラ構築、技術サポート
分析: 「人と話すこと」が好きなのに、現在の仕事は「サーバーとの対話」が中心。4つの円の重なりは「技術を分かりやすく伝えてお客さんの課題を解決する」だった。
行動: 転職ではなく、社内のプリセールスエンジニア職への異動を希望。技術力を活かしつつ、顧客と直接対話する役割に移った。
異動後 6ヶ月 で「仕事が楽しい」と初めて感じた。顧客からの「あなたに説明してもらえて安心した」という言葉が、本人にとって最大の報酬になった。年収は変わらなかったが、仕事への満足度は自己評価で 3/10 → 8/10 に上がった。
大手商社を 60歳 で定年退職した男性。40年間海外営業一筋で、退職後は「やることがない」状態に陥り、3ヶ月間を自宅で過ごしていた。
息子の勧めで生きがいベン図を作成:
- 好き: 人と話すこと、異文化交流、旅行、食べること
- 得意: 英語(ビジネスレベル)、交渉力、海外事情に詳しい
- 社会が必要: 地域の外国人住民が増えているが、日本語支援のボランティアが不足
- お金になる: 通訳案内士、英語講師、輸入ビジネスのコンサルティング
重なり: 「英語力×異文化交流×地域の外国人支援」が3つの円に該当。お金になるかは不明だったが、まず動いてみることにした。
行動: (1) 市の国際交流協会でボランティア日本語教師を開始、(2) 月2回の「外国人住民相談会」の通訳を担当、(3) 半年後に有料の英会話サロンを自宅で開始(月 3万円 の収入)。
1年後、「会社員時代より毎朝起きるのが楽しい」と語る。収入は現役時代の 10分の1 だが、4つの円すべてに重なる活動を見つけたことで、充実感は過去最高だと言い切る。
やりがちな失敗パターン#
- 4つの円を同時に完璧に満たそうとする — 最初から4つすべてが重なる仕事を探すのは非現実的。まず2〜3つの重なりを見つけ、残りを徐々に埋めていく。
- 「好きなこと」を深く掘り下げない — 「旅行が好き」で止まらず、「旅行の何が好きか」(計画を立てること? 現地の人と話すこと? 写真を撮ること?)まで分解する。
- 「お金になること」を無視する — 理想論だけでは生活できない。好きで社会に必要なことでも、マネタイズの手段を考えないと持続しない。
- 一度書いて終わりにする — 価値観やスキルは変化する。年に1回は書き直して、現在の自分に合った生きがいを再定義する。
まとめ#
生きがいベン図は、「自分は何のために生きているのか」という大きな問いを、4つの具体的な要素に分解して考えるツールである。4つの円すべてが重なる場所を見つけることが理想だが、現時点で足りない円を認識し、そのギャップを埋める行動を取ることが本質的な使い方だ。生きがいは「見つける」ものではなく「作っていく」もの。このベン図はそのための設計図になる。