HEARTフレームワーク

英語名 HEART Framework
読み方 ハート フレームワーク
難易度
所要時間 2〜4時間
提唱者 Google
目次

ひとことで言うと
#

Happiness・Engagement・Adoption・Retention・Task Success の5つの軸でユーザー体験を定量的に測るフレームワーク。Google のリサーチチームが社内プロダクトの改善指標として開発し、現在は業界標準のUX計測手法となっている。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
Happiness(ハピネス)
ユーザーの主観的な満足度を示す指標。NPS やアンケートスコアで計測するのが一般的。
Engagement(エンゲージメント)
ユーザーがプロダクトにどれだけ深く関与しているかを表す。セッション頻度や滞在時間などで測る。
Adoption(アドプション)
新規ユーザーや新機能の利用開始率。プロダクトの成長フェーズで特に重視される指標。
Retention(リテンション)
一定期間後にユーザーが戻ってきているかを示す継続率を指す。
Task Success(タスク サクセス)
ユーザーが目的のタスクを効率的かつ正確に完了できたかを測る指標。完了率やエラー率で計測する。
GSM(Goals-Signals-Metrics)
HEARTの各軸に対してゴール→シグナル→指標の順で具体化する手法。HEARTとセットで使われる。

HEARTフレームワークの全体像
#

HEART:5軸でUXを立体的に捉える
H E A R THappiness満足度・NPS主観的な幸福感Engagement利用頻度・深度行動的な関与Adoption新規利用開始率機能の浸透度Retention継続率・復帰率長期的な定着Task Successタスク完了率効率性・正確性GSM で具体化するGoals各軸で達成したいこと(例: 満足度を上げたい)Signals成功・失敗を示す行動(例: 星評価をつける)Metrics計測する数値(例: NPS +40以上)
HEARTフレームワークの進め方フロー
1
軸を選ぶ
5軸のうち今注力すべき軸を1〜3つ選定する
2
Goals設定
各軸で達成したいゴールを言語化する
3
Signals特定
ゴール達成を示すユーザー行動を洗い出す
Metrics決定
計測可能な指標に落とし込み追跡を開始する

こんな悩みに効く
#

  • プロダクトの改善をしたいが、何を指標にすればいいかわからない
  • DAU や PV だけ追っていて、ユーザー体験の全体像が見えない
  • チーム内で「何が成功なのか」の認識がバラバラ

基本の使い方
#

注力する軸を選ぶ

5つすべてを同時に追うのは現実的ではない。プロダクトのフェーズに応じて優先する軸を1〜3つに絞る。

  • ローンチ直後: Adoption(使い始めてもらえるか)と Task Success(問題なく使えるか)
  • 成長期: Engagement(深く使ってもらえるか)と Retention(戻ってきてもらえるか)
  • 成熟期: Happiness(満足しているか)と Retention(離れていないか)
各軸にGoals-Signals-Metricsを設定する

選んだ軸ごとに、GSMの3層で具体化する。

  • Goals: その軸で実現したい状態を一文で書く(例:「ユーザーが迷わずタスクを完了できる」)
  • Signals: ゴールが達成されたときに観察できるユーザー行動を列挙する(例:「ヘルプページの閲覧が減る」「途中離脱が減る」)
  • Metrics: シグナルを数値で計測する方法を決める(例:「タスク完了率 90%以上」「平均完了時間 30秒以内」)
ダッシュボードで追跡し改善サイクルを回す

設定した指標をダッシュボードに集約し、週次または隔週で確認する。

  • 指標が悪化した軸に対して仮説を立て、改善施策を打つ
  • 四半期に1回はGoals自体を見直す。プロダクトのフェーズが変われば注力軸も変わる
  • 施策の効果は A/Bテストで検証し、数字で判断する

具体例
#

例1:Google マップが新機能のUXを評価する

Google マップチームが「リアルタイム混雑状況表示」機能をリリースした際のHEART適用例。

GoalsSignalsMetrics
Happiness混雑情報に満足してもらうアプリ内評価の星の数機能利用者の平均評価 4.2以上
Adoptionリリース1ヶ月で認知させる混雑情報パネルのタップ週間タップユーザー率 35%
Task Success混雑を避けた訪問ができる混雑情報閲覧→出発のコンバージョン情報確認後の出発率 60%以上

チームは3軸に絞り、Engagement と Retention は次フェーズに先送りした。リリース後4週間で Adoption が 42% に到達し、Task Success も 67% を記録。Happiness の評価は 4.0 にとどまったため、混雑予測の精度改善を次スプリントの優先課題に設定した。

例2:BtoB SaaS企業がオンボーディング改善の指標を設計する

従業員200名のプロジェクト管理SaaS企業。無料トライアルからの有料転換率が 12% と低迷しており、HEARTで原因を切り分けることにした。

注力軸は AdoptionTask Success の2つ。

GoalsSignalsMetrics
Adoptionトライアル初日にプロジェクトを作ってもらうプロジェクト作成ボタンのクリック初日のプロジェクト作成率
Task Success初回タスク登録を3分以内に完了してもらうタスク登録の完了 / 途中離脱完了率・平均所要時間

計測の結果、初日のプロジェクト作成率はわずか 28%、タスク登録の途中離脱率が 45% だった。原因はプロジェクト作成画面の入力項目が多すぎること。必須項目を12個から3個に減らしたところ、プロジェクト作成率は 61% に、タスク登録完了率は 82% に改善。有料転換率も 12% → 19% に上がった。

例3:地方自治体がオンライン申請システムの利用者満足度を測る

人口8万人の市役所が、住民票のオンライン申請システムを導入して半年。窓口は混んだままで、オンライン利用率は 15% にとどまっている。

HEARTの5軸すべてで現状を棚卸しした結果がこちら。

現状の数値問題点
Happiness満足度アンケート 2.8/5.0「わかりにくい」という自由記述が最多
Engagement月間ログイン 1.1回/人1回使って終わり
Adoptionオンライン利用率 15%高齢者層の登録率が 3%
Retention2回目利用率 22%リピーターがほぼいない
Task Success申請完了率 58%途中でエラーになり窓口に来る人が多い

最優先は Task Success。申請フォームのエラーメッセージを改善し、入力補助を追加した結果、完了率は 58% → 84% に向上。「途中でやめて窓口に来た」件数が月200件から月45件に減り、結果として窓口の待ち時間も平均38分から22分に短縮された。

やりがちな失敗パターン
#

  1. 5軸すべてを同時に追う ── リソースが分散して何も改善できない。フェーズに応じて1〜3軸に絞ることが鉄則
  2. Metricsだけ決めてGoalsを飛ばす ── 「DAUを追おう」といきなり指標を決めると、なぜその数字を上げたいのかがチーム内で共有されない。必ずGoals→Signals→Metricsの順で考える
  3. Happinessを軽視する ── 行動指標(Engagement, Retention)は追いやすいが、ユーザーの主観的な満足度を無視すると「使われているが嫌われている」状態を見逃す
  4. 指標を一度設定して放置する ── プロダクトのフェーズが変わったのに同じ指標を追い続けると、改善の方向がズレる。四半期ごとにGoalsを再評価する

まとめ
#

HEARTフレームワークは、UXを「なんとなく良い・悪い」で語るのをやめて、5つの軸で構造的に計測するためのツール。5軸すべてを追うのではなく、プロダクトのフェーズに合わせて注力軸を選び、GSMで具体的な指標に落とし込むのがポイント。Google社内で磨かれた実績があり、スタートアップから行政サービスまで幅広く応用できる。