ひとことで言うと#
製品やプロセスに潜む「どこが・どう壊れるか(故障モード)」を網羅的に洗い出し、影響の大きさ・発生頻度・検出の難しさを数値で評価して、優先的に対策すべきリスクを特定する手法。
押さえておきたい用語#
- 故障モード(Failure Mode)
- 部品や工程がどのように機能を失うかを表す具体的な壊れ方。「亀裂」「腐食」「誤配線」「データ欠損」など。
- 影響度(Severity / S)
- その故障が顧客や後工程に与える被害の深刻さを1〜10で評価したスコア。10が最も深刻。
- 発生度(Occurrence / O)
- その故障がどの程度の頻度で起きるかを1〜10で評価したスコアを指す。
- 検出度(Detection / D)
- 出荷前・次工程に流れる前に故障を見つけられる確率の低さを1〜10で評価した値。10は「ほぼ検出不可能」を意味する。
- RPN(Risk Priority Number)
- S × O × D で算出するリスク優先度数。最大1,000で、数値が高いほど優先的に対策すべき故障モードである。
FMEA(故障モード影響解析)の全体像#
こんな悩みに効く#
- 新製品をリリースした後にクレームが多発して手戻りが大きい
- 製造工程のどこにリスクがあるか体系的に把握できていない
- 品質問題が起きてから対処する「もぐら叩き」の繰り返しになっている
- どのリスクから先に手を打つべきか優先順位がつけられない
- 顧客要求や規格(IATF 16949など)でFMEAの実施を求められている
基本の使い方#
具体例#
従業員200名の家電メーカーが、新型電気ケトルの設計FMEAを実施した。過去に蓋のロック不良による火傷クレームが2件発生しており、再発防止が急務だった。
主要な故障モードとRPNの評価結果:
| 構成要素 | 故障モード | S | O | D | RPN |
|---|---|---|---|---|---|
| 蓋ロック機構 | ロック不完全で傾けると蓋が外れる | 9 | 4 | 6 | 216 |
| ヒーター | 過熱による底面変形 | 8 | 2 | 3 | 48 |
| 温度センサー | 沸騰検知の遅延 | 7 | 3 | 4 | 84 |
| 電源コード接続部 | 接触不良によるスパーク | 10 | 2 | 5 | 100 |
| 注ぎ口 | 湯量制御不能で過剰注出 | 5 | 3 | 7 | 105 |
RPN最大の蓋ロック機構(216)に最優先で着手。ロック機構を二重構造に変更し(O: 4→2)、組立工程で全数のロック動作試験を追加した(D: 6→2)。対策後のRPNは 9×2×2 = 36 に低下。電源コード接続部もスパーク防止のシールド追加で100→40に改善した。
月間取引額8億円を処理するECプラットフォームのSaaS企業が、決済モジュールのソフトウェアFMEAを実施した。過去1年で決済エラーによるユーザー離脱が月平均120件発生していた。
| 機能要素 | 故障モード | S | O | D | RPN |
|---|---|---|---|---|---|
| カード認証API | タイムアウトで決済不能 | 8 | 6 | 3 | 144 |
| 二重決済防止 | 冪等キー衝突で二重課金 | 10 | 3 | 4 | 120 |
| 金額計算 | 通貨変換の丸め誤差 | 7 | 5 | 8 | 280 |
| 決済ステータス管理 | 非同期更新の競合で状態不整合 | 9 | 4 | 6 | 216 |
| 返金処理 | 部分返金時の残高計算ミス | 8 | 3 | 7 | 168 |
RPN最大の金額計算(280)は、検出度Dが8と高い(=見つけにくい)ことが問題だった。単体テストに通貨変換の境界値テストを48パターン追加し(D: 8→3)、本番環境に金額差異の自動アラートを導入(D→2で再計算)。対策後のRPNは 7×5×2 = 70 に低下。決済エラーは月平均120件から 28件 に減少した。
従業員45名の菓子工場が、小麦アレルギー対応のグルテンフリー製品ラインを新設するにあたり、工程FMEAを実施した。アレルゲン混入は健康被害に直結するため、Sは一律10で評価。
| 工程 | 故障モード | S | O | D | RPN |
|---|---|---|---|---|---|
| 原材料受入 | 納品書とラベルの不一致見落とし | 10 | 3 | 5 | 150 |
| 計量 | 小麦含有原料の計量器共用 | 10 | 6 | 7 | 420 |
| 混合 | ミキサーの洗浄不足で残留 | 10 | 4 | 6 | 240 |
| 包装 | 通常品とGFラインの包材取り違え | 10 | 2 | 4 | 80 |
| 出荷検査 | アレルゲン検査キットの感度不足 | 10 | 2 | 8 | 160 |
RPN最大の計量工程(420)は、小麦原料とGF原料で計量器を共用していたことが根本原因。GF専用の計量器を導入し(O: 6→1)、計量室を物理的に分離した。さらに計量後のアレルゲン簡易検査を追加(D: 7→2)。対策後RPN: 10×1×2 = 20。
工場全体で対策を実施した結果、FSSC 22000の審査でもアレルゲン管理体制が高く評価され、大手コンビニチェーンへのOEM供給契約につながった。
やりがちな失敗パターン#
RPNの数値だけで判断する — RPN 100(S=10, O=2, D=5)とRPN 100(S=2, O=10, D=5)は同じ数値だが、前者は安全問題を含む。Sが9〜10の故障モードはRPNに関係なく最優先で対策する。
故障モードが抽象的すぎる — 「品質不良」「動作不良」のような曖昧な記述では対策が打てない。「はんだクラックによる接触不良」のように、原因と壊れ方を具体的に書く。
FMEAシートを一度作って放置する — 設計変更や工程変更があってもFMEAを更新しないと、新たなリスクが見逃される。変更管理プロセスとFMEAの更新を連動させる。
評価基準が属人的 — 同じ故障モードでもAさんはS=6、BさんはS=9とつけるケースがある。1〜10の各レベルに具体的な判断基準(例: S=9は「火災・感電のリスクあり」)を明文化しておく。
対策後のRPN再計算をしない — 対策を打っても効果を数値で確認しなければ、本当にリスクが下がったかわからない。対策前後のRPN比較がFMEAの価値の半分を占める。
まとめ#
FMEAは「故障モードの洗い出し → S・O・Dの3軸評価 → RPN算出 → 優先対策 → 再評価」のサイクルで、製品や工程の潜在リスクを事前に潰す手法。RPN一辺倒ではなく影響度Sの高さにも注目し、評価基準をチームで統一し、対策後に必ず再計算する。設計段階で回せば市場クレームを未然に防げるため、品質コストの削減効果が大きい。