エンパシーマップ

英語名 Empathy Map
読み方 エンパシー マップ
難易度
所要時間 30分〜1時間(ワークショップ)
提唱者 デイブ・グレイ(XPLANE社)
目次

ひとことで言うと
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ユーザーの頭の中を「考えていること」「感じていること」「見ているもの」「聞いていること」「言っていること・やっていること」「痛み」「望み」の7つの観点で整理し、表面的なデモグラフィック情報では見えない深いインサイトを引き出すツール。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Think & Feel(シンク アンド フィール)
ユーザーが心の中で考えていることや感じている感情を指す。本音や不安、期待など、表面に出ない内面を探る領域。
Pain(ペイン)
ユーザーが日常的に感じている痛み・不満・恐れ・障壁のこと。プロダクトが解決すべき課題の核心にあたる。
Gain(ゲイン)
ユーザーが本当に達成したい望み・目標・理想の状態のこと。機能要望の裏にある「本当に欲しい未来」を表す。
インサイト(Insight)
データや観察から導かれる深い気づきや洞察である。「ユーザーが言葉にしていないが本当に求めていること」を表す。

エンパシーマップの全体像
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エンパシーマップ:ユーザーの内面を4象限+2要素で構造化する
ユーザー1人を深く理解Think & Feel ─ 考え・感情何を心配している? 何を大切にしている?本音と建前のギャップに注目See ─ 見ているもの日常的に目にする情報・環境は?競合のプロダクトや周囲の状況Hear ─ 聞いていること上司・同僚・友人から何を言われる?メディアやSNSで何が話題?Say & Do ─ 言動実際にどう行動しているか?人前での振る舞いと本音の差▼ 4象限から浮かび上がるものPain ─ 痛み・課題最大の不満・恐れ・障壁解決すべき課題の核心Gain ─ 望み・目標本当に達成したいことは?成功の定義は何か?
エンパシーマップの進め方フロー
1
対象ユーザーを1人決める
実在の顧客を具体的な名前で設定
2
4象限を埋める
考え・見・聞・言動を付箋で書き出す
3
Pain・Gainを特定
痛みと望みを深掘りして言語化
インサイト抽出
プロダクトに活かせる気づきを3〜5個導出

こんな悩みに効く
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  • ペルソナを作ったが「年齢30代、会社員」程度の情報で止まっている
  • チーム内で「ユーザーはこう思っているはず」の認識がバラバラ
  • 機能の議論ばかりで、ユーザーの感情や文脈を考慮できていない

基本の使い方
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ステップ1: 対象ユーザーを1人決める

エンパシーマップは1人のユーザーに対して作る。複数ユーザーを混ぜない。

決め方:

  • 最も重要なユーザーセグメントの代表的な1人
  • できれば実在の人物(インタビュー済みの顧客など)
  • 名前を付けて具体化する(「営業チームリーダーの佐藤さん、35歳」)

架空のペルソナでも使えるが、実在の顧客データに基づくほうが精度が高い。インタビュー後に作成するのが理想。

ステップ2: 4象限+2要素を埋める

大きな紙やホワイトボードに以下の要素を書き出す。チームで付箋を使って進めるのが効果的。

4象限:

  • Think & Feel(考え・感情): 何を心配しているか? 何を大切にしているか? 何にストレスを感じているか?
  • See(見ているもの): 日常的に目にする情報は? 競合のプロダクトは? 周囲の環境は?
  • Hear(聞いていること): 上司・同僚・友人から何を言われているか? メディアやSNSで何が話題か?
  • Say & Do(言動): 実際にどんな行動をとっているか? 人前でどう振る舞っているか?

+2要素:

  • Pain(痛み・課題): 最大の不満、恐れ、障壁は何か?
  • Gain(望み・目標): 本当に達成したいことは何か? 成功の定義は?

コツ: 「Think & Feel」と「Say & Do」のギャップに注目する。本音と建前の差にインサイトが隠れている。

ステップ3: インサイトを抽出する

埋めた内容からプロダクトに活かせるインサイトを引き出す。

質問:

  • 「ユーザーが本当に解決したい問題は何か?」(表面的な要望の裏にある本質)
  • 「ユーザーの行動を阻んでいる障壁は何か?」
  • 「ユーザーが言葉にしていないが感じている不満は何か?」
  • 「競合ではなく自社を選ぶ理由はどこにあるか?」

3〜5個のインサイトに絞り、プロダクト判断に使える形で言語化する。

具体例
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例1:経理担当者のエンパシーマップで経費精算ツールを改善する

経費精算ツールの改善のため、中堅企業の経理担当者(鈴木さん、28歳)のエンパシーマップを作成。

Think & Feel:

  • 「月末の経費精算が毎回地獄。残業確定」
  • 「ミスがあったら自分の責任になるのが怖い」
  • 「もっと戦略的な仕事がしたいのに、単純作業に追われている」

See:

  • Excelの巨大な経費一覧表
  • 領収書の山
  • 経費精算のリマインドメールを無視する営業チーム

Hear:

  • 上司:「経費の締め、今月も遅れてるよ」
  • 営業:「また差し戻し? 面倒なんだけど」
  • 同業の友人:「うちはクラウドツールで自動化したよ」

Say & Do:

  • 「大丈夫です、なんとかします」(本音は限界)
  • 毎月末に3日間残業して手作業で集計
  • 差し戻しメールを何度も送るが、返信が来ない

Pain: 手作業が多すぎる / 営業に催促するのが精神的に辛い / ミスへの恐怖 Gain: 自動化して月末の残業をゼロにしたい / 経営判断に役立つ分析がしたい

インサイト:

  1. 経理担当者の最大の痛みは「手作業」ではなく**「営業への催促」**というコミュニケーション負荷
  2. 「ミスへの恐怖」が行動を保守的にしている → 自動チェック機能への需要が高い
  3. 本当の望みは「単純作業からの解放」→ 経費分析ダッシュボードが差別化ポイントになりうる

「入力を簡単にする」だけでなく「催促の自動化」と「ミスの自動検出」に投資すべきとわかった。エンパシーマップなしでは気づけなかった優先順位。

例2:フィットネスアプリのターゲットユーザーを深掘りする

月額制フィットネスアプリのリニューアルに向け、メインターゲット(田中さん、32歳、IT企業勤務・デスクワーク中心)のエンパシーマップを作成。

Think & Feel:

  • 「健康診断でメタボ予備軍と言われてやばい」
  • 「ジムに通う時間はないけど、何かしないと…」
  • 「続けられない自分に罪悪感」

See:

  • 同僚が昼休みにランニングしている
  • SNSでフィットネス系インフルエンサーの投稿
  • 通勤途中にあるジムの広告

Hear:

  • 妻:「最近お腹出てきたよね」
  • 友人:「朝5分の筋トレで十分変わるよ」
  • 産業医:「運動習慣をつけてください」

Say & Do:

  • 「来月から本気出す」(3ヶ月連続で言っている)
  • アプリをDLするが、3日で開かなくなる
  • エレベーターではなく階段を使うのは週1回

Pain: 継続できない自分への自己嫌悪 / まとまった時間が取れない / 何から始めていいかわからない Gain: 健康診断で正常値を取りたい / 「続いてる」という自信がほしい

インサイトプロダクトへの示唆
「続けられない自己嫌悪」が最大のペイン失敗を責めない、リセットしやすいUI
5分でもいいから毎日やりたい「5分メニュー」を前面に
数値の変化で自信を得たい体重・体脂肪の小さな変化を可視化

ユーザーは「ハードなトレーニング機能」ではなく「続けられた実感を与える仕組み」を求めている。機能追加より習慣化設計に投資すべき。

例3:地方信用金庫がネットバンキングの若年層利用を増やす

ネットバンキング利用率が12%と低迷する地方信用金庫が、20代顧客(山本さん、27歳、地元メーカー勤務)のエンパシーマップを作成。

Think & Feel:

  • 「給与振込口座だから使ってるだけ。愛着はない」
  • 「アプリがないと不便。でも信金のネットバンキングってなんか古そう」
  • 「メガバンクに変えるのも面倒」

See:

  • スマホ決済アプリのスムーズなUI
  • PayPayや楽天ペイのポイント還元広告
  • 同世代がネット銀行を使っている

Hear:

  • 親:「地元の信金は安心だよ」
  • 友人:「まだ窓口行ってるの? ネット銀行にしなよ」
  • 職場:「給与振込先は変更できますよ」

Say & Do:

  • ATMで現金を下ろして生活(キャッシュレス比率30%)
  • 残高確認のためだけに月2回窓口に行く
  • ネットバンキングの申込書を途中まで書いて放置

Pain: 窓口の待ち時間(平均25分) / ネットバンキングの申し込みが紙ベースで面倒 / セキュリティへの漠然とした不安 Gain: スマホだけで完結させたい / ポイントや特典がほしい / 振込を即座にやりたい

指標現状目標(6ヶ月後)
20代のネットバンキング利用率12%35%
アプリDL数1,2005,000
窓口来店(残高確認目的)月800件月200件

インサイト: 最大の障壁は「機能不足」ではなく「申し込みプロセスの面倒さ」と「古そうという印象」。スマホから3分で申込完了できるフローモダンなUIが突破口。

機能を増やすより「申し込みの摩擦をゼロにする」ことが先。Think & Feelの「古そう」という印象を変えるUIリニューアルも同時に必要。

やりがちな失敗パターン
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  1. デモグラフィック情報で終わる — 「30代、女性、東京在住」はエンパシーマップではない。感情・恐れ・本音まで踏み込んで初めて価値がある
  2. チームの想像だけで埋める — インタビューデータなしに「たぶんこう思っている」と書くと、チームの思い込みを強化するだけ。必ず実データに基づいて作成する
  3. 作って満足して活用しない — エンパシーマップは壁に貼って終わりではない。機能の優先順位付けや、コピーライティング、UXデザインの判断に実際に使ってこそ意味がある
  4. 複数ユーザーの情報を1枚に混ぜる — 「20代OLと50代管理職」を同じマップに詰め込むと、どちらのインサイトも薄まる。セグメントごとに別のマップを作る

まとめ
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エンパシーマップは「ユーザーの靴を履く」ためのツール。考え・感情・環境・行動を構造的に整理することで、アンケートでは見えない深いインサイトが見つかる。特に「言っていること」と「思っていること」のギャップに宝が眠っている。チームで作成して壁に貼り、判断に迷ったら立ち返る習慣をつけよう。