ひとことで言うと#
顧客に**「この操作/問い合わせはどれくらい簡単でしたか?」と1問だけ聞き、体験の「楽さ」を7段階で測定する指標。NPS(推奨度)よりも解約予測の精度が高い**ことが研究で示されており、「感動させる」より「苦労させない」ことの重要性を教えてくれる。
押さえておきたい用語#
- CES(Customer Effort Score)
- 顧客が特定の体験で感じた労力の大きさを7段階で測定する指標。スコアが高いほど「簡単だった」ことを意味する。
- NPS(Net Promoter Score)
- 「このプロダクトを友人に勧めますか?」と聞く推奨度指標。CESとは異なり、全体的なロイヤルティを測るが改善ポイントの特定には弱い。
- タッチポイント
- 顧客とプロダクトが接触するすべての接点のこと。サインアップ、初期設定、サポート問い合わせなど、CES測定の対象となる。
- CSAT(Customer Satisfaction Score)
- 特定の体験に対する満足度を測る指標。CESが「楽さ」を測るのに対し、CSATは「満足感」を測る。CESと併用すると多角的な分析が可能。
カスタマーエフォートスコアの全体像#
こんな悩みに効く#
- NPSは測っているが、具体的に何を改善すればいいかわからない
- サポート対応後の満足度が低いが原因がつかめない
- プロダクトの使い勝手が悪いと言われるが、どこが悪いか特定できない
基本の使い方#
CESの基本形はシンプルな1問。
質問文: 「〇〇はどれくらい簡単でしたか?」
7段階スケール:
- 非常に難しい
- 難しい
- やや難しい
- どちらでもない
- やや簡単
- 簡単
- 非常に簡単
測定タイミング: 特定の体験の直後に聞く。後日聞くと記憶が薄れて精度が下がる。
主な測定ポイント:
- サインアップ完了後
- 初期設定完了後
- サポート問い合わせ解決後
- 主要機能の初回利用後
- 支払い・プラン変更後
CESスコアの計算と解釈。
計算方法: 全回答の平均値(7点満点)
- 6.0以上: 優秀。体験がスムーズ
- 5.0〜5.9: 普通。改善余地あり
- 5.0未満: 要改善。摩擦が大きい
深掘り分析:
- スコアが低い接点を特定: どのタッチポイントでスコアが低いか
- セグメント別に比較: 新規 vs 既存、プラン別、デバイス別
- 自由記述を併用: 「何が大変でしたか?」の1問を追加すると具体的な改善点が見える
CESと解約の関係: スコアが1〜3(難しい)と回答した顧客の96%は将来的に不誠実な行動(解約・悪い口コミ)を取るという研究結果がある。
CESが低いタッチポイントに対して、顧客の労力を減らす改善を行う。
労力を減らす典型的な施策:
- ステップ数の削減: 5クリック必要だった操作を2クリックに
- 情報の事前入力: 過去の入力内容を自動補完
- セルフサービスの充実: FAQやヘルプセンターで自己解決できるようにする
- チャネルの統一: 問い合わせ時に「別の窓口に転送」されないようにする
- 待ち時間の削減: チャットボットで即時回答できる質問を自動化
重要な発見: 顧客ロイヤルティの向上には「期待を超える感動体験」より「期待を下回らないスムーズな体験」のほうが効果的。苦労させない=最大の顧客体験戦略。
CESは一度測って終わりではなく、継続的にトラッキングする。
運用のコツ:
- 週次でダッシュボードを確認: スコアの推移を追う
- 新機能リリース後に必ず測定: 新機能がユーザーの労力を増やしていないか検証
- サポートチームと共有: CESが低い問い合わせパターンを改善の優先課題に
- NPS・CSATと組み合わせる: CES(労力)+ NPS(推奨度)+ CSAT(満足度)の3指標で多角的に測定
目標設定: 「全タッチポイントのCESを6.0以上にする」のような数値目標を設定する。
具体例#
クラウド会計ソフト(月額利用者8,000社)が「サポート問い合わせ後のCESが3.8」と低い問題を改善した事例。
CES調査結果:
| タッチポイント | CES | 判定 |
|---|---|---|
| サインアップ | 6.2 | 良好 |
| 初期設定 | 4.5 | 要改善 |
| 日常利用 | 5.8 | 普通 |
| サポート問い合わせ | 3.8 | 深刻 |
| プラン変更 | 5.5 | 普通 |
サポートCESが低い原因(自由記述分析):
- 「チャットで問い合わせたのにメールで返信が来た。2日後」(40%)
- 「同じ説明を3回した。担当者が変わるたびに最初から」(25%)
- 「FAQの記事が古くて画面と合っていない」(20%)
施策:
- チャットで問い合わせたらチャットで回答を徹底(チャネル統一)
- 問い合わせ履歴を担当者間で共有(引き継ぎ改善)
- FAQを最新版に更新し、検索精度を向上(セルフサービス強化)
結果(2ヶ月後):
- サポートCES: 3.8 → 5.9
- 問い合わせ後の解約率: 12% → 4%
- サポート対応時間: 平均24時間 → 平均3時間
「チャネルを統一する」だけで解約率が1/3に。感動体験より摩擦の除去がロイヤルティを作った。
月間アクティブユーザー15万人のフィットネスアプリ。初期設定のCESが3.2と深刻で、登録後3日以内の離脱率が65%。
原因分析:
| 設定ステップ | 離脱率 | CES |
|---|---|---|
| アカウント作成 | 8% | 5.9 |
| プロフィール入力(12項目) | 28% | 3.0 |
| 目標設定 | 15% | 4.2 |
| デバイス連携 | 22% | 2.8 |
| 初回メニュー作成 | 12% | 4.5 |
施策:
- プロフィール入力を12項目→4項目に削減(残りは利用中に段階的に収集)
- デバイス連携を「後からでもOK」にし、連携なしでも使える設計に変更
- 初回メニューをAIが自動生成(目標から逆算して提案)
結果(6週間後):
- 初期設定CES: 3.2 → 6.1
- 登録後3日以内の離脱率: 65% → 32%
- 7日目継続率: 22% → 41%
「後からでもOK」という選択肢を増やしただけで、初期の摩擦が劇的に減った。
人口25万人の地方自治体が、住民のオンライン手続きにCESを導入した事例。窓口の混雑緩和のためにオンライン化を進めたが、利用率が12%と低迷。
全手続きのCES調査結果(n=1,200):
| 手続き | CES | オンライン利用率 |
|---|---|---|
| 住民票の写し請求 | 5.8 | 35% |
| 税証明書の取得 | 4.1 | 15% |
| 転入届 | 2.9 | 5% |
| 各種届出の予約 | 6.3 | 42% |
転入届CESが低い原因:
- 入力項目が48個あり、PCで30分以上かかる
- マイナンバーカードの読み取りエラーが頻発
- 途中保存ができず、最初からやり直しになる
施策:
- 入力フォームを4ページ分割+進捗バー表示+途中保存機能を追加
- マイナンバーカード読み取りの代替手段としてSMS認証を導入
- 事前入力された項目の自動補完(住所から郵便番号など)
結果(3ヶ月後):
- 転入届CES: 2.9 → 5.4
- オンライン利用率: 5% → 28%
- 窓口来庁者数: 月間340件 → 月間210件(38%削減)
行政サービスこそCESが効く。住民は「感動」を求めていない。「面倒でない」だけで十分。
やりがちな失敗パターン#
- NPSだけ測ってCESを無視する — NPSは「推奨するか」を聞くが、具体的に何を改善すべきかがわからない。CESは特定のタッチポイントの改善点を直接示してくれる
- 良いスコアのタッチポイントに投資する — CESが高い場所をさらに良くするより、低い場所を底上げするほうがROIが高い。最も苦労しているポイントに集中する
- 測定するだけで改善しない — CESを測っても改善アクションに繋げなければ意味がない。スコアが5.0未満のタッチポイントは即座に改善プロジェクトを立ち上げる
- 測定タイミングが遅すぎる — 体験から3日後にアンケートを送っても記憶が薄れている。体験直後(30秒以内)に聞くのが鉄則。画面内のポップアップやチャット内アンケートが最適
まとめ#
カスタマーエフォートスコアは「顧客を感動させる」のではなく「苦労させない」ことの重要性を教えてくれる指標。特定の体験の直後に1問だけ聞き、摩擦の大きいポイントを特定して改善する。「簡単だった」と言ってもらえる体験の積み重ねが、最も強いロイヤルティを生む。