ひとことで言うと#
イノベーションの 50%を社外から調達する ことを目標に、大学・スタートアップ・個人発明家・異業種企業から技術やアイデアを取り込む戦略。P&GのCEOアラン・ラフリーが2000年に打ち出し、自前主義からオープンイノベーションへの大転換を実現した。
押さえておきたい用語#
- Connect+Develop(C+D)
- P&Gのオープンイノベーション戦略の名称。社外との「接続(Connect)」と社内での「開発(Develop)」を組み合わせる考え方。
- NIH症候群(Not Invented Here)
- 「自社で発明したものでなければ価値がない」という排他的な思考パターン。C+Dが克服すべき最大の障壁になる。
- テクノロジー・ブリーフ
- P&Gが社外に公開する技術ニーズのリスト。「こういう技術を探している」と明示することで、世界中の研究者からアイデアが集まる仕組み。
- PBN(Proudly Borrowed from Nowhere)
- C+Dの精神を表すフレーズ。「どこから借りてきたかは関係ない。良いアイデアは良いアイデアだ」という意味。
Connect+Developの全体像#
こんな悩みに効く#
- R&D投資に対するリターンが低く、新製品のヒット率が下がっている
- 「自社で全部やる」前提で、開発スピードが競合に追いつかない
- 社外に有望な技術があるのに、取り込む仕組みがない
基本の使い方#
「何を探しているか」を明確にし、社外に発信する。
- P&Gは「テクノロジー・ブリーフ」として技術ニーズをWebサイトで公開
- 「こういう機能を持つ素材を探している」「この問題を解決する技術を求む」と具体的に書く
- オープンイノベーションプラットフォーム(NineSigma、InnoCentiveなど)も活用する
集まったアイデアを自社の戦略・技術・市場に照らして評価する。
- 適合性: 自社のブランドや市場に合うか
- 技術的実現性: 製品レベルにスケールできるか
- 独自性: 競合が容易に模倣できないか
- 評価はクロスファンクショナルチーム(R&D×マーケ×事業開発)で行う
外部から取り込んだ技術を、自社の品質基準・ブランド基準に合わせて製品化する。
- 外部パートナーとのライセンス契約・共同開発契約を締結
- 社内のR&Dチームが品質管理、量産化、規制対応を担当
- 「外部のアイデア + 社内の実行力」の掛け算がC+Dの真価
具体例#
P&Gの掃除用品ブランド「スウィッファー(Swiffer)」は、C+D戦略の代表的成功例。
日本の花王が持っていたフロアワイパーの技術に着目し、ライセンス契約を締結。P&Gの消費者インサイト(「掃除機は重くて面倒」)と組み合わせ、使い捨てシートの床掃除ツールとして開発した。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 発売年 | 1999年 |
| 開発期間 | 通常の自社R&Dより 40%短縮 |
| 年間売上 | 10億ドル 超(2010年代) |
| 派生商品数 | 20種以上 |
C+D導入後のP&G全体の数字:イノベーションの成功率は 15% → 50% に向上し、R&D投資対効率は 60% 改善した。現在、P&Gの新製品の約 35% が社外との連携から生まれている。
静岡の食品メーカー(従業員200名、年商80億円)は、健康食品市場への参入を目指していたが、社内にバイオ技術の知見がなかった。
C+Dアプローチで地元大学の農学部に「腸内環境を改善する食品素材」のニーズを公開。3つの研究室から提案があり、そのうち1つの乳酸菌株が自社の既存製造ラインと相性が良かった。
| フェーズ | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| Connect | 3ヶ月 | 大学3研究室と面談、1つを選定 |
| 共同研究 | 12ヶ月 | 大学が基礎研究、自社が応用・量産化 |
| Develop | 6ヶ月 | 自社で商品化、パッケージ開発 |
| 市場投入 | — | 「腸活ヨーグルト」として発売 |
共同研究の費用は 1,200万円(自社で一からR&Dする場合の見積もりは 8,000万円)。発売初年度の売上は 4.5億円 で、同社の成長率を 5.6% 押し上げた。
名古屋の化学メーカー(従業員800名)は、主力の工業用接着剤市場が成熟し、新事業の柱を探していた。自社R&Dは既存事業の改良に偏り、新領域の探索に人員を割けない状態。
C+D型の「テクノロジースカウティング」チーム(3名)を設置し、以下を実施。
- オープンイノベーションプラットフォームに10件の技術ニーズを掲載
- 国内外のスタートアップ展示会に年6回参加
- 月1回の「外部技術レビュー会」で経営層に報告
2年間で 47件 の技術候補を評価し、3件のPoC(概念実証)を実施。そのうち1件、バイオプラスチック分野のスタートアップとの連携が成功し、新事業として年商 6億円 を達成。
スカウティングチームの年間コストは 2,400万円。自社でゼロからバイオ技術を開発していた場合、同等の成果に 5〜7年 かかると試算された。
やりがちな失敗パターン#
- NIH症候群が根強い — 「うちの技術じゃないから」とR&D部門が外部アイデアを拒絶する。経営層がC+Dの方針を明確に示し、評価制度にも反映する必要がある
- 「受け身」で待ってしまう — 技術ニーズを公開しただけで応募が来ると思うのは甘い。能動的に展示会・学会・スタートアップイベントに足を運ぶ
- 契約・知財の整理ができない — 社外連携は知的財産権やライセンス条件が複雑になる。法務との連携体制を先に整えておく
- 外部アイデアを「丸投げ」する — C+DのDevelop部分(社内での製品化)がなければ、ただの技術仲介になる。自社のR&D力とブランド力を掛け合わせることが価値の源泉
- 短期成果を求めすぎる — P&Gも成果が出るまで3〜5年かかった。パイプラインとして管理し、すぐに結果が出なくても継続する
まとめ#
Connect+Developは、P&Gが「イノベーションの50%を社外から」という大胆な目標を掲げて実践したオープンイノベーション戦略。自前主義を捨て、世界中のアイデアと技術を自社のR&D・ブランド力と掛け合わせることで、開発スピードと成功率を劇的に向上させた。自社だけでは到達できない領域に手を伸ばすための、実績のあるフレームワークになっている。