CAC/LTV比率

英語名 CAC LTV Ratio
読み方 シーエーシー エルティーブイ ヒリツ
難易度
所要時間 1〜2時間(初回計算)
提唱者 ベンチャーキャピタリストのデイビッド・スコック(David Skok)が2010年代にSaaSビジネスの健全性指標として体系化。LTV/CAC > 3が「健全」の目安として広く知られるようになった。
目次

ひとことで言うと
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1人の顧客を獲得するコスト(CAC)と、その顧客が生涯にもたらす収益(LTV)の比率で、事業の経済性を判断する。LTV ÷ CAC が3以上で健全、1以下なら赤字体質。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
CAC(Customer Acquisition Cost)
1人の顧客を獲得するためにかかる総コストのこと。広告費・営業人件費・ツール費用などを含む。
LTV(Lifetime Value)
1人の顧客が取引期間全体で生み出す累計収益。月額課金 × 平均継続月数で概算できる。
チャーンレート(Churn Rate)
一定期間内に解約する顧客の割合を指す。LTVの算出に直結する重要指標。
ペイバック期間(Payback Period)
CACを回収するまでにかかる月数。12か月以内が健全とされる。
ユニットエコノミクス(Unit Economics)
顧客1人あたりの収益性を示す指標群の総称。CAC/LTV比率はその中核にあたる。

CAC/LTV比率の全体像
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CAC/LTV比率の構造と健全性の目安
CAC(顧客獲得コスト)広告費 + 営業人件費 + ツール費÷ 新規獲得顧客数低いほど効率が良いLTV(顧客生涯価値)月額課金 × 粗利率÷ 月次チャーンレート高いほど収益性が良いLTV ÷ CAC = ?3以上が健全ライン1未満:危険獲得するほど赤字ビジネスモデルを根本的に見直す1〜3:要改善利益は出るが薄いCACを下げるかLTVを上げる施策を3以上:健全投資回収が順調成長投資にアクセルを踏めるペイバック期間 = CAC ÷ 月間粗利(12か月以内が目安)
CAC/LTV比率の計算と改善フロー
1
CACを算出する
マーケティング・営業の総コスト ÷ 新規獲得顧客数
2
LTVを算出する
月額課金 × 粗利率 ÷ 月次チャーンレート
3
比率を判定する
LTV ÷ CAC で健全性を確認し、改善施策を検討する
投資判断に反映
比率3以上なら成長投資を加速、1〜3ならCACかLTVを改善

こんな悩みに効く
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  • マーケティング予算を増やすべきか判断材料がない
  • 顧客数は増えているのに利益が出ない
  • 投資家から「ユニットエコノミクスを見せてくれ」と言われた
  • 広告チャネルごとの費用対効果を比較したい
  • 解約率が高いがどこまで許容できるかわからない

基本の使い方
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ステップ1:CACを正確に計算する

見落としがちなコストまで含めて計算する。

CACの内訳:

費目含めるもの
広告費Google Ads、Meta Ads、記事広告など全チャネル
営業人件費インサイドセールス・フィールドセールスの給与・賞与
マーケ人件費マーケチームの給与
ツール費MA、CRM、ABMツール等の月額費用
外注費代理店手数料、LP制作費、SEOコンサル費

計算式: CAC = 上記合計 ÷ 同期間の新規有料顧客数

注意: 無料ユーザーは分母に含めない(有料転換した顧客のみ)。

ステップ2:LTVを算出する

シンプルな算出式と精密な算出式がある。

算出方法計算式使い分け
シンプル版ARPU × 粗利率 ÷ 月次チャーンレート初期段階、概算
コホート版月次コホートの累積粗利の加重平均データが蓄積された段階

例(シンプル版):

  • 月額課金(ARPU): 15,000円
  • 粗利率: 80%
  • 月次チャーンレート: 3%
  • LTV = 15,000 × 0.8 ÷ 0.03 = 400,000円
ステップ3:比率を判定し、打ち手を決める

LTV ÷ CACの値で方針が変わる。

比率判定打ち手
1未満赤字体質価格改定、ターゲット変更、チャネル見直し
1〜3改善余地ありLTV向上(アップセル・チャーン対策)or CAC削減
3〜5健全成長投資を加速
5以上投資不足の可能性獲得ペースを上げても回収できるはず

ペイバック期間(CAC ÷ 月間粗利)も併せて確認する。LTV/CACが3でもペイバックが24か月だとキャッシュが持たない場合がある。

具体例
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例1:BtoB SaaS企業がチャネル別にCACを比較する

ARR(年間経常収益)2.4億円のプロジェクト管理SaaS。月額15,000円/アカウント、粗利率82%、月次チャーン2.5%。

全体LTV: 15,000 × 0.82 ÷ 0.025 = 492,000円

チャネル別CACを算出:

チャネル月間コスト月間獲得数CACLTV/CAC
Google Ads180万円12社150,000円3.3
コンテンツSEO60万円8社75,000円6.6
展示会120万円4社300,000円1.6
紹介10万円5社20,000円24.6

展示会(LTV/CAC 1.6)は費用対効果が低いことが判明。展示会予算の半分をコンテンツSEOに移管し、紹介プログラムの強化に充てた。四半期後、全体のブレンデッドCACは 118,000円 → 82,000円 に改善。

例2:D2Cブランドが解約率を改善してLTVを2倍にする

月額3,980円のサブスク型スキンケアD2C。月次チャーン 12% と高く、LTVは 3,980 × 0.65 ÷ 0.12 = 21,558円。CACは12,000円で、LTV/CACは 1.8

LTVが低い原因を分析:

  • 初月解約が全解約の 45% を占める
  • 解約理由の1位は「効果を実感できなかった」(62%)

改善施策:

  1. 初月に使い方ガイド動画を3本配信(LINEで自動送信)
  2. 2週目にスキンケアアドバイザーからパーソナルメッセージ
  3. 初回特典を「安い」から「効果実感キット付き」に変更

結果(6か月後):

  • 月次チャーン: 12% → 6.5%
  • LTV: 21,558円 → 39,785円
  • LTV/CAC: 1.8 → 3.3

CACは変えずにLTVを 1.85倍 にすることで、健全ラインの3を超えた。

例3:地方の学習塾がオフラインのCACを可視化する

3教室展開の個別指導塾(月謝32,000円、平均在籍18か月)。これまでCACを計算したことがなかった。

まずLTVを算出: 32,000 × 0.6(粗利率)÷ (1/18) = 345,600円

次にCACを分解:

費目年間コスト備考
チラシ配布180万円年4回×3教室
看板・交通広告96万円駅前看板
Web広告48万円Google Ads
紹介謝礼24万円図書カード等
合計348万円
年間新規入塾数72名
CAC48,333円

LTV/CAC = 345,600 ÷ 48,333 = 7.1

比率7.1は「投資不足」の水準。つまり、もっと広告に投資しても十分回収できる。チラシの効果測定(教室ごとのクーポンコード)を導入し、効果の高いエリアに配布を集中させたところ、翌年の新規入塾数は 72名 → 94名 に増加。CACは 52,000円 に微増したが、LTV/CACは 6.6 と依然健全。

やりがちな失敗パターン
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  1. CACに人件費を含めない — 広告費だけでCACを計算すると実態より低く見え、過剰投資の判断ミスにつながる。
  2. LTVを「希望的」に計算する — チャーンレートを低めに見積もったり、将来のアップセルを含めたりして水増しする。現在の実績値で計算する。
  3. ブレンデッドCACだけ見てチャネル別を見ない — 全体では3でも、特定チャネルが1以下で足を引っ張っている場合がある。
  4. LTV/CACが5以上なのに投資を増やさない — 過度に保守的だと成長機会を逃す。比率が高すぎるのは「もっと顧客を獲得できる余地がある」サイン。
  5. ペイバック期間を無視する — LTV/CACが3でもペイバックが36か月なら、手元の資金が3年持つかを確認する必要がある。

まとめ
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CAC/LTV比率はビジネスの「1人あたりの採算」を1つの数字に凝縮した指標。計算自体は単純だが、CACの定義とLTVの算出精度で結果が大きく変わるため、何を含めて何を含めないかの定義を最初に揃えることが肝心。まずは現状の数字を出し、チャネル別に分解するところから始めるのが現実的なアプローチになる。