ひとことで言うと#
1人の顧客を獲得するコスト(CAC)と、その顧客が生涯にもたらす収益(LTV)の比率で、事業の経済性を判断する。LTV ÷ CAC が3以上で健全、1以下なら赤字体質。
押さえておきたい用語#
- CAC(Customer Acquisition Cost)
- 1人の顧客を獲得するためにかかる総コストのこと。広告費・営業人件費・ツール費用などを含む。
- LTV(Lifetime Value)
- 1人の顧客が取引期間全体で生み出す累計収益。月額課金 × 平均継続月数で概算できる。
- チャーンレート(Churn Rate)
- 一定期間内に解約する顧客の割合を指す。LTVの算出に直結する重要指標。
- ペイバック期間(Payback Period)
- CACを回収するまでにかかる月数。12か月以内が健全とされる。
- ユニットエコノミクス(Unit Economics)
- 顧客1人あたりの収益性を示す指標群の総称。CAC/LTV比率はその中核にあたる。
CAC/LTV比率の全体像#
こんな悩みに効く#
- マーケティング予算を増やすべきか判断材料がない
- 顧客数は増えているのに利益が出ない
- 投資家から「ユニットエコノミクスを見せてくれ」と言われた
- 広告チャネルごとの費用対効果を比較したい
- 解約率が高いがどこまで許容できるかわからない
基本の使い方#
見落としがちなコストまで含めて計算する。
CACの内訳:
| 費目 | 含めるもの |
|---|---|
| 広告費 | Google Ads、Meta Ads、記事広告など全チャネル |
| 営業人件費 | インサイドセールス・フィールドセールスの給与・賞与 |
| マーケ人件費 | マーケチームの給与 |
| ツール費 | MA、CRM、ABMツール等の月額費用 |
| 外注費 | 代理店手数料、LP制作費、SEOコンサル費 |
計算式: CAC = 上記合計 ÷ 同期間の新規有料顧客数
注意: 無料ユーザーは分母に含めない(有料転換した顧客のみ)。
シンプルな算出式と精密な算出式がある。
| 算出方法 | 計算式 | 使い分け |
|---|---|---|
| シンプル版 | ARPU × 粗利率 ÷ 月次チャーンレート | 初期段階、概算 |
| コホート版 | 月次コホートの累積粗利の加重平均 | データが蓄積された段階 |
例(シンプル版):
- 月額課金(ARPU): 15,000円
- 粗利率: 80%
- 月次チャーンレート: 3%
- LTV = 15,000 × 0.8 ÷ 0.03 = 400,000円
LTV ÷ CACの値で方針が変わる。
| 比率 | 判定 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 1未満 | 赤字体質 | 価格改定、ターゲット変更、チャネル見直し |
| 1〜3 | 改善余地あり | LTV向上(アップセル・チャーン対策)or CAC削減 |
| 3〜5 | 健全 | 成長投資を加速 |
| 5以上 | 投資不足の可能性 | 獲得ペースを上げても回収できるはず |
ペイバック期間(CAC ÷ 月間粗利)も併せて確認する。LTV/CACが3でもペイバックが24か月だとキャッシュが持たない場合がある。
具体例#
ARR(年間経常収益)2.4億円のプロジェクト管理SaaS。月額15,000円/アカウント、粗利率82%、月次チャーン2.5%。
全体LTV: 15,000 × 0.82 ÷ 0.025 = 492,000円
チャネル別CACを算出:
| チャネル | 月間コスト | 月間獲得数 | CAC | LTV/CAC |
|---|---|---|---|---|
| Google Ads | 180万円 | 12社 | 150,000円 | 3.3 |
| コンテンツSEO | 60万円 | 8社 | 75,000円 | 6.6 |
| 展示会 | 120万円 | 4社 | 300,000円 | 1.6 |
| 紹介 | 10万円 | 5社 | 20,000円 | 24.6 |
展示会(LTV/CAC 1.6)は費用対効果が低いことが判明。展示会予算の半分をコンテンツSEOに移管し、紹介プログラムの強化に充てた。四半期後、全体のブレンデッドCACは 118,000円 → 82,000円 に改善。
月額3,980円のサブスク型スキンケアD2C。月次チャーン 12% と高く、LTVは 3,980 × 0.65 ÷ 0.12 = 21,558円。CACは12,000円で、LTV/CACは 1.8。
LTVが低い原因を分析:
- 初月解約が全解約の 45% を占める
- 解約理由の1位は「効果を実感できなかった」(62%)
改善施策:
- 初月に使い方ガイド動画を3本配信(LINEで自動送信)
- 2週目にスキンケアアドバイザーからパーソナルメッセージ
- 初回特典を「安い」から「効果実感キット付き」に変更
結果(6か月後):
- 月次チャーン: 12% → 6.5%
- LTV: 21,558円 → 39,785円
- LTV/CAC: 1.8 → 3.3
CACは変えずにLTVを 1.85倍 にすることで、健全ラインの3を超えた。
3教室展開の個別指導塾(月謝32,000円、平均在籍18か月)。これまでCACを計算したことがなかった。
まずLTVを算出: 32,000 × 0.6(粗利率)÷ (1/18) = 345,600円
次にCACを分解:
| 費目 | 年間コスト | 備考 |
|---|---|---|
| チラシ配布 | 180万円 | 年4回×3教室 |
| 看板・交通広告 | 96万円 | 駅前看板 |
| Web広告 | 48万円 | Google Ads |
| 紹介謝礼 | 24万円 | 図書カード等 |
| 合計 | 348万円 | |
| 年間新規入塾数 | 72名 | |
| CAC | 48,333円 |
LTV/CAC = 345,600 ÷ 48,333 = 7.1
比率7.1は「投資不足」の水準。つまり、もっと広告に投資しても十分回収できる。チラシの効果測定(教室ごとのクーポンコード)を導入し、効果の高いエリアに配布を集中させたところ、翌年の新規入塾数は 72名 → 94名 に増加。CACは 52,000円 に微増したが、LTV/CACは 6.6 と依然健全。
やりがちな失敗パターン#
- CACに人件費を含めない — 広告費だけでCACを計算すると実態より低く見え、過剰投資の判断ミスにつながる。
- LTVを「希望的」に計算する — チャーンレートを低めに見積もったり、将来のアップセルを含めたりして水増しする。現在の実績値で計算する。
- ブレンデッドCACだけ見てチャネル別を見ない — 全体では3でも、特定チャネルが1以下で足を引っ張っている場合がある。
- LTV/CACが5以上なのに投資を増やさない — 過度に保守的だと成長機会を逃す。比率が高すぎるのは「もっと顧客を獲得できる余地がある」サイン。
- ペイバック期間を無視する — LTV/CACが3でもペイバックが36か月なら、手元の資金が3年持つかを確認する必要がある。
まとめ#
CAC/LTV比率はビジネスの「1人あたりの採算」を1つの数字に凝縮した指標。計算自体は単純だが、CACの定義とLTVの算出精度で結果が大きく変わるため、何を含めて何を含めないかの定義を最初に揃えることが肝心。まずは現状の数字を出し、チャネル別に分解するところから始めるのが現実的なアプローチになる。