NPS(ネットプロモータースコア)

英語名 Net Promoter Score
読み方 エヌピーエス
難易度
所要時間 30分〜1時間(調査設計)
提唱者 フレッド・ライクヘルド(ベイン・アンド・カンパニー)
目次

ひとことで言うと
#

**「この商品・サービスを友人や同僚にどの程度勧めたいですか?(0〜10点)」**というたった1つの質問で、顧客ロイヤルティを数値化する指標。シンプルだからこそ継続的に追いやすく、世界中の企業が採用している。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
推奨者(Promoter)
9〜10点をつけた熱狂的なファンのこと。自発的に口コミで広めてくれ、LTVも高い傾向がある。
中立者(Passive)
7〜8点をつけた満足はしているが熱狂的ではない顧客を指す。競合に乗り換える可能性があり、NPS計算では除外される。
批判者(Detractor)
0〜6点をつけた不満を持つ顧客である。ネガティブな口コミを発信する可能性があり、ブランド毀損のリスク要因となる。
トランザクショナルNPS
特定の取引・接点の直後に測定するNPSのこと。購入後・サポート後など、体験と紐づけた改善に使う。
リレーショナルNPS
定期的(四半期・半期ごと)ブランド全体の推奨度を測定するNPSのこと。中長期のロイヤルティ推移を追う。

NPSの全体像
#

NPS:1つの質問で顧客を3グループに分類し、改善に繋げる
究極の質問(0〜10点)「友人や同僚にどの程度勧めたいですか?」推奨者(9〜10点)熱狂的なファン口コミで広めてくれる→ さらに強化する中立者(7〜8点)満足はしているが乗り換えの可能性あり→ 推奨者に引き上げる批判者(0〜6点)不満を持つ顧客ネガティブ口コミのリスク→ 不満要因を解消するNPS = 推奨者% − 批判者%(−100〜+100)中立者は計算に含まない。業界平均との比較と推移が重要理由分析 → 改善アクションスコアではなく「なぜ」を深掘りして改善に繋げる
NPS活用の進め方フロー
1
調査実施
0〜10点の推奨度+自由記述で理由を収集
2
3グループ分類
推奨者・中立者・批判者に分けてNPSを算出
3
理由分析
各グループの自由記述から改善ポイントを特定
改善・再測定
施策を実行し、次回測定でNPS推移を確認

こんな悩みに効く
#

  • 顧客満足度を測りたいが、長いアンケートは回答率が低い
  • 顧客がどのくらい自社を支持しているか把握したい
  • サービス改善の効果を定量的にトラッキングしたい
  • 競合と比較して自社の顧客ロイヤルティがどの水準にあるか知りたい

基本の使い方
#

ステップ1: NPS調査を実施する

0〜10点のスケールで推奨意向を聞く

  • 「この商品(サービス・会社)を友人や同僚にどの程度勧めますか?」
  • 0〜10の11段階で回答してもらう
  • 追加で「その理由を教えてください」を自由記述で聞く

ポイント: 質問文は変えない。他社や過去データと比較するために、標準的な聞き方を維持する。

ステップ2: 3つのグループに分類する

スコアに基づいて顧客を3グループに分ける

  • 推奨者(Promoters): 9〜10点。熱狂的なファン。口コミで広めてくれる
  • 中立者(Passives): 7〜8点。満足はしているが、競合に乗り換える可能性あり
  • 批判者(Detractors): 0〜6点。不満を持ち、ネガティブな口コミをする可能性あり

ポイント: 7〜8点は「良い」ように見えるが、NPSでは**中立者(熱狂的ではない)**に分類される。

ステップ3: NPSスコアを算出する

推奨者の割合から批判者の割合を引く

  • NPS = 推奨者の割合(%) − 批判者の割合(%)
  • 範囲は −100 〜 +100
  • 例:推奨者50%、中立者30%、批判者20% → NPS = 50 − 20 = +30

ポイント: 業界平均と比較すること。NPSの絶対値より、業界内での相対的な位置と推移が重要

ステップ4: フィードバックを分析し改善する

スコアだけでなく、自由記述のコメントを分析して改善に活かす

  • 批判者の不満要因を特定し、優先的に解消する
  • 推奨者が評価しているポイントをさらに強化する
  • 中立者を推奨者に引き上げる施策を検討する

ポイント: NPSは測定して終わりではなく、改善アクションに繋げてこそ価値がある

具体例
#

例1:オンライン英会話サービスがNPSで改善優先度を決める

状況: 会員数12,000人のオンライン英会話サービス。解約率が月4.2%で業界平均(3.0%)を上回っており、原因を特定したい。

調査結果(回答者800人):

  • 推奨者(9-10点): 240人(30%)
  • 中立者(7-8点): 280人(35%)
  • 批判者(0-6点): 280人(35%)

NPS = 30% − 35% = −5(業界平均は+15)

自由記述の分析:

グループ主なコメント出現頻度改善アクション
推奨者「お気に入りの講師が最高」68%人気講師のレッスン枠を増設
中立者「講師によって質にバラつき」52%講師評価制度+研修プログラム導入
批判者「人気時間帯に予約が取れない」74%19-22時の講師数を1.5倍に増員
批判者「通信トラブルが多い」41%通信品質の監視システム導入

施策の優先順位: 予約問題(インパクト大・実装3ヶ月)→ 講師品質(インパクト中・実装6ヶ月)→ 通信品質(インパクト中・実装2ヶ月)

予約改善と通信品質対策を先行実施し、6ヶ月後にNPSを**-5→+12に改善、解約率を4.2%→2.8%に低下させる目標を設定。NPS 1ポイントの改善がLTVで約1,500円**の向上に相当する。

例2:BtoB SaaS企業がトランザクショナルNPSを導入する

状況: 従業員120名の経費精算SaaS(導入企業1,500社)。リレーショナルNPS(四半期測定)は+32と好調だが、サポートへの不満が散発的に寄せられている。

トランザクショナルNPSの設計:

測定タイミング対象目標NPS
導入完了直後新規導入企業+40以上
サポート問い合わせ解決後問い合わせ顧客+30以上
機能アップデート後全ユーザー+25以上

サポート後NPSの結果(3ヶ月間・回答312件):

  • 推奨者: 96人(31%)
  • 中立者: 108人(35%)
  • 批判者: 108人(34%)
  • サポートNPS = −3(リレーショナルNPS+32と大きな乖離)

批判者の不満分析:

  • 「初回対応まで平均18時間かかる」(48%)
  • 「たらい回しにされた」(32%)
  • 「解決まで3往復以上のやり取りが必要」(27%)

改善施策: チャットボットで一次対応を自動化(初回対応を18時間→2時間以内に短縮)、FAQ強化で問い合わせ件数自体を30%削減

リレーショナルNPSが**+32なのにサポートNPSが-3**。この落差こそが問題のありかだった。トランザクショナルNPSの導入で「どの接点で体験が壊れているか」をピンポイントで特定できた。

例3:地方の温泉旅館がNPSでリピート率を改善する

状況: 客室数20室の温泉旅館。年間宿泊者数4,200人、リピート率は22%。じゃらんの口コミ評価は4.0だが、近隣の競合旅館(4.4)に差をつけられている。

NPS調査(チェックアウト時にタブレットで回収、回答率65%・回答数546件):

  • 推奨者: 180人(33%)
  • 中立者: 202人(37%)
  • 批判者: 164人(30%)
  • NPS = +3

グループ別の深掘り:

グループ高評価ポイント低評価ポイント
推奨者「料理が最高」「露天風呂の景色」(特になし)
中立者「温泉は良い」「チェックイン待ちが長い」「Wi-Fiが弱い」
批判者「部屋が古い」「清掃が甘い」「スタッフの対応にバラつき」

改善施策と投資計画:

施策投資額期待効果
チェックイン手続きのデジタル化50万円待ち時間15分→3分、中立者の不満解消
清掃チェックリスト+ダブルチェック体制0円批判者の最大不満要因を解消
Wi-Fi設備の更新80万円中立者の不満解消、ワーケーション需要の取り込み
接客マニュアル+ロールプレイ研修20万円サービス品質の標準化

投資額はわずか150万円。1年後の目標はNPS +3→+25、リピート率22%→35%。リピート率13ポイント改善は年間約1,900万円の売上増に相当し、投資回収は1ヶ月で完了する計算。

やりがちな失敗パターン
#

  1. スコアだけを追いかける — NPSの数値だけを見て一喜一憂しても改善には繋がらない。「なぜそのスコアなのか」の理由分析が本質。自由記述なしのNPS調査は半分しか機能していない
  2. 調査タイミングを間違える — 購入直後は感情が高く、時間が経つと冷める。目的に応じた適切なタイミングで調査する。トランザクショナルとリレーショナルを使い分ける
  3. 満足している顧客にだけ聞く — 回答しやすい顧客だけが答えると結果が偏る。批判者の声こそ重要なので、全顧客に均等に調査する
  4. NPSを現場に共有しない — 経営陣だけが数字を見ていても改善は進まない。顧客の声を現場のスタッフに届ける仕組み(週次共有、改善ミーティング等)を作る

企業での実践例 — Bain & Company
#

NPSはベイン・アンド・カンパニーのフェロー、フレッド・ライクヘルドが2003年にHarvard Business Reviewに発表した論文「The One Number You Need to Grow」から生まれた。ライクヘルドは顧客ロイヤルティ研究の第一人者で、1990年代から「顧客の維持率が5%上がると利益が25〜95%増加する」という調査結果を発表していた。彼が長年追求していたのは「複雑な顧客満足度調査に代わる、シンプルで事業成長と直結する指標」であり、大量の質問パターンを統計的に検証した結果、「友人に勧めるか」という1つの質問が最も事業成長との相関が高いことを突き止めた。

ベインはSatmetrix社と共同でNPSの計測・ベンチマーク基盤を構築し、クライアント企業への導入を推進した。Apple、American Express、Philips、Allianzなど業種を問わずグローバル企業がNPSを経営指標として採用している。Appleでは各Apple Storeが店舗単位のNPSを日次で計測し、批判者に対して24時間以内にストアマネージャーが直接フォローアップする「クローズド・ループ・フィードバック」を運用している。ライクヘルドは2021年に「NPS 3.0」として、推奨者の行動(実際の紹介・口コミ・リピート購入)を追跡する「Earned Growth Rate」を提唱しており、NPSの進化は今も続いている。

まとめ
#

NPSは、たった1つの質問で顧客ロイヤルティを数値化するシンプルかつ強力な指標。推奨者・中立者・批判者に分類し、その理由を深掘りすることで、具体的な改善アクションに繋げられる。スコアの絶対値よりも推移と理由分析が重要であり、定期的に測定→分析→改善のサイクルを回し続けることで顧客体験を継続的に向上させよう。