ひとことで言うと#
1つのブランドに1人の「ブランドマネージャー」を配置し、そのブランドの戦略・マーケティング・損益に全責任を持たせる組織体制。P&Gが1931年に考案し、現在の消費財マーケティングの基盤となっている。
押さえておきたい用語#
- ブランドマネージャー
- 特定ブランドの戦略策定・マーケティング・損益管理を一手に担う責任者。ミニCEOとも呼ばれる。
- ブランドエクイティ
- ブランドが持つ無形の資産価値のこと。認知度・品質イメージ・ロイヤルティなどで構成される。
- カニバリゼーション
- 同じ企業の複数ブランドが互いの売上を食い合う現象。P&Gはこれを「健全な社内競争」と捉えることもある。
- ブランドポートフォリオ
- 企業が保有するブランド群の全体構成を指す。各ブランドの役割(成長ドライバー、キャッシュカウ等)を明確にして管理する。
ブランド・マネジメント・システムの全体像#
こんな悩みに効く#
- 複数の商品ラインがあるのに、マーケティングが一律で差別化できていない
- ブランドごとの損益が不明確で、どれが利益を生んでいるかわからない
- マーケティング施策の責任の所在が曖昧で、改善が進まない
基本の使い方#
自社が持つブランド(商品ライン)を棚卸しし、それぞれの役割を明確にする。
- 成長ドライバー: 今後伸ばすべき注力ブランド
- キャッシュカウ: 安定した利益を生む既存ブランド
- チャレンジャー: 新市場を開拓する実験的ブランド
- ブランド間のターゲットが重複していないか確認する
各ブランドに専任の責任者を置き、戦略から実行までの権限を与える。
- 権限: マーケティング予算の配分、商品企画、価格設定
- 責任: ブランド単体のP/L(損益計算書)に対する説明責任
- スキル: マーケティング・財務・商品開発の幅広い知識
- 小規模であれば1人が2〜3ブランドを兼任してもよいが、独立した意思決定は維持する
同じカテゴリ内で複数ブランドが競合することを恐れない。
- P&Gは洗剤カテゴリだけで「アリエール」「ボールド」「タイド」を展開
- 各ブランドが異なるセグメントを狙うことで、市場全体のシェアを最大化する
- カニバリゼーションが起きた場合は、ポジショニングの再調整で対応する
具体例#
P&Gは1931年、ニール・マケルロイの社内メモがきっかけでブランドマネジメントシステムを導入した。当時、同社の石鹸ブランド「カメイ」と「アイボリー」が互いの売上を食い合っていたことが問題だった。
マケルロイの提案は「1ブランドに1人の責任者を置き、競合ブランドと同じように社内ブランドとも競争させる」というもの。
| ブランド | ターゲット | ポジション |
|---|---|---|
| タイド | 汚れ落ちを重視する家庭 | 洗浄力No.1 |
| アリエール | 衣類ケアを重視する家庭 | 繊維に優しい |
| ボールド | コスパ重視の家庭 | 柔軟剤入りで手軽 |
この「社内競争」モデルにより、P&Gは米国洗剤市場で 60%超 のシェアを獲得。3つのブランドが異なるセグメントをカバーすることで、競合他社の入り込む余地を最小化した。このシステムはその後ユニリーバ、ネスレなど世界中の消費財企業に波及した。
東京の飲料メーカー(従業員300名、年商120億円)は、10種類の飲料ブランドを展開していたが、全体の利益率が年々低下。マーケティング部門は一括管理で、どのブランドが利益を生んでいるか不明だった。
ブランドマネジメントシステムを導入し、各ブランドにマネージャーを配置。ブランド別P/Lを作成したところ、衝撃的な事実が判明。
| ブランド | 売上 | 営業利益率 |
|---|---|---|
| ブランドA(主力) | 45億円 | +12% |
| ブランドB | 22億円 | +8% |
| ブランドC | 18億円 | -3% |
| ブランドD | 12億円 | -11% |
| その他6ブランド | 23億円 | +2% |
赤字のブランドC・Dに全社マーケティング予算の 35% が投下されていた。ブランドDは廃止、ブランドCはリポジショニングを実施。浮いた予算をブランドA・Bに集中投下した結果、全社の営業利益率は翌年 3.2% → 7.8% に改善した。
北海道の化粧品メーカー(従業員45名)は、3つのスキンケアブランドを展開。社長が全ブランドのマーケティングを兼任しており、SNS投稿もキャンペーンも「まとめてやる」状態だった。
ブランドマネジメントを導入し、各ブランドに担当者を配置。
- ブランドX(エイジングケア、40代女性向け)→ 担当A
- ブランドY(敏感肌、20代女性向け)→ 担当B
- ブランドZ(メンズ、30代男性向け)→ 担当C
それぞれがSNSアカウント・広告予算・EC施策を独立運営。担当Bは「敏感肌あるある」のTikTok投稿がバズり、ブランドYの月間EC売上が 180万円 → 720万円 に急伸。一方、ブランドZは3ヶ月で採算が合わないことが判明し、撤退を決定。
全社のEC売上は年間で 2,400万円 → 7,200万円 に成長。社長は「全部自分で見ていたときより、各担当の方がよほど市場を理解している」と認めた。
やりがちな失敗パターン#
- ブランド間の連携がゼロになる — 独立採算を重視しすぎて、原材料の共同購買やノウハウの共有が失われる。コーポレート本部の調整機能は必要
- マネージャーに権限を与えない — 名前だけのブランドマネージャーで、実際の予算配分は上が決める構造では機能しない。P/Lの責任を持たせるなら、それに見合う権限も渡す
- ブランドを増やしすぎる — 1ブランドあたりの投資が薄まり、どれも中途半端になる。P&Gも定期的にブランドを整理(2014年に100以上のブランドを売却)している
- カニバリゼーションを放置する — 同じターゲットに同じ価値提案のブランドが2つあると、社内で消耗戦になる。ポジショニングの差別化を定期的に確認する
まとめ#
ブランド・マネジメント・システムは、P&Gが1931年に確立した「1ブランドに1責任者」の体制。ブランドごとに独立採算で運営し、社内競争を通じて市場全体のシェアを最大化する仕組みになっている。複数ブランドを持つ企業にとって、「どのブランドが利益を生んでいるか」を可視化する第一歩として極めて有効。