ひとことで言うと#
心拍変動(HRV)・睡眠の質・主観的体調の3つの指標を毎朝スコア化し、その日のトレーニング強度を「追い込む・通常・軽め・休む」の4段階で判断する仕組み。WHOOPやOura Ringなどのウェアラブルデバイスの普及とともに広まったが、デバイスなしでも簡易版を実践できる。
押さえておきたい用語#
- HRV(Heart Rate Variability / 心拍変動)
- 心拍の間隔のばらつきのこと。副交感神経が優位なほどばらつきが大きく、値が高いほど回復が進んでいるサイン。
- rMSSD
- HRVの代表的な指標で、連続する心拍間隔の差の二乗平均平方根。ウェアラブルデバイスが多く採用する計測値。
- 睡眠効率(Sleep Efficiency)
- ベッドにいた時間のうち、実際に眠っていた割合。85%以上が良好とされる。
- RPE(Rating of Perceived Exertion)
- 運動の主観的きつさを1〜10で評価する尺度。リカバリースコアと組み合わせて負荷管理に使う。
- スーパーコンペンセーション(超回復)
- 適切な負荷と回復のサイクルにより、トレーニング前より高いレベルにパフォーマンスが上がる現象。
リカバリースコアの全体像#
こんな悩みに効く#
- 疲労が溜まっているのに「サボっている気がして」休めない
- トレーニングの強度を感覚で決めていて、追い込みすぎたり甘すぎたりする
- オーバートレーニングで体調を崩した経験がある
- ウェアラブルデバイスの数値をどう活用すればいいかわからない
基本の使い方#
起床後5分以内に以下を記録する。
- HRV: ウェアラブルデバイスの値を記録(デバイスがない場合は安静時心拍数で代用。低いほど回復◎)
- 睡眠: 睡眠時間と睡眠効率(デバイスの自動記録、またはベッドイン〜起床の差分)
- 主観: 気分・筋肉痛・食欲・モチベーションを1〜5の5段階で自己評価
3指標をそれぞれ0〜100に変換し、加重平均する。
- HRV(40%): 個人の7日平均を基準に、±の偏差でスコア化。平均以上=70〜100、やや下=40〜69、大幅下=0〜39
- 睡眠(35%): 7時間以上+効率85%以上=80〜100、6〜7時間=50〜79、6時間未満=0〜49
- 主観(25%): 5段階評価を0〜100に変換(1=0, 2=25, 3=50, 4=75, 5=100)
- デバイスなしの簡易版: 主観を50%に、安静時心拍を30%に、睡眠時間を20%に配分
算出したスコアで今日の運動強度を決定する。
- 80〜100(グリーン): 高強度OK。HIIT、重量挙げのPR挑戦、インターバル走など
- 56〜79(イエロー): 通常強度。計画通りのメニューを実施
- 34〜55(オレンジ): 軽め。Zone2の有酸素、ヨガ、軽いストレッチ
- 0〜33(レッド): 完全休養または散歩程度。身体の回復を最優先
毎週末に7日分のスコア推移を振り返る。
- 7日平均が50を下回り続けている場合は慢性疲労のサイン。1週間のディロード(負荷軽減)を検討
- 逆に7日平均が80以上なら、トレーニング負荷を上げる余地がある
- スコアの推移と体重・パフォーマンスの変化を照合し、スコアリングの精度を検証する
具体例#
35歳、週4回の筋トレ。Oura Ringを使用。先月から記録が右肩下がりだった。
ある週のリカバリースコア推移:
| 曜日 | HRV(ms) | 睡眠 | 主観 | スコア | 行動 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月 | 52(平均) | 7.2h/88% | 4 | 72 | 通常:上半身の筋トレ |
| 火 | 38(低い) | 5.8h/72% | 2 | 35 | 軽め:軽い散歩30分 |
| 水 | 45(やや低) | 7.5h/90% | 3 | 58 | 通常:下半身の筋トレ |
| 木 | 55(高い) | 7.8h/92% | 5 | 85 | 追込み:デッドリフトPR |
| 金 | 35(低い) | 6.2h/78% | 2 | 32 | 休養:完全オフ |
| 土 | 48(平均) | 8.0h/91% | 4 | 72 | 通常:有酸素+軽い筋トレ |
| 日 | 50(平均) | 7.5h/89% | 4 | 70 | 軽め:ヨガ |
火曜日にスコアが急落したのは、月曜の筋トレ後に睡眠が短くなったため。以前はここで「予定だから」と通常強度でやっていたが、スコアに従って軽めに変更。結果、木曜にスコア85で追い込み日を確保でき、デッドリフトで5kgの自己記録を更新できた。
42歳、フルマラソンのタイム目標は3時間30分。レース4週前からテーパリング(練習量を減らす)に入るが、どこまで減らすかの判断基準がなかった。
リカバリースコアを使ったテーパリング:
| 週 | 週平均スコア | 走行距離 | 強度調整 |
|---|---|---|---|
| 4週前 | 55 | 60km | 通常:ポイント練習は維持 |
| 3週前 | 62 | 45km | やや軽め:ロング走を15kmに短縮 |
| 2週前 | 70 | 35km | 軽め:ジョグ中心 |
| 1週前 | 82 | 20km | 軽め+REST:刺激入れのみ |
| レース当日 | 88 | — | 最高の状態でスタート |
4週前はスコアが低かったため、強度を落とすタイミングが1週早いことを検知。3週前から意図的に距離を減らした結果、レース当日のスコアが88まで回復。目標を上回る3時間24分でフィニッシュできた。
52歳、運動初心者。ウェアラブルデバイスは持っていないが、健康のために週3回のウォーキングとジムを始めた。
簡易版リカバリースコア(10点満点):
- 安静時心拍(指で15秒測定×4): 平均以下=3点、平均=2点、平均以上=1点
- 睡眠時間: 7h以上=3点、6〜7h=2点、6h未満=1点
- 主観(気分+筋肉痛+やる気の平均): 良好=4点、普通=3点、不調=1〜2点
スコアと行動:
- 8〜10点: ジムで筋トレ+有酸素30分
- 5〜7点: ウォーキング30〜45分
- 1〜4点: ストレッチのみ or 完全休養
3か月間のデータを蓄積した結果:
- 週3回の運動が**週2.5回(月10回)**に自動調整された
- 「体調が悪い日は休む」を数値で判断できるようになり、罪悪感なく休養を取れるようになった
- 始めた当初は安静時心拍76bpmだったのが、3か月後に68bpmに低下。回復力の改善が数値で確認できた
やりがちな失敗パターン#
- スコアが低くても「予定だから」とトレーニングする — スコアに基づいて強度を変える柔軟性がないと、リカバリースコアを導入する意味がない。「計画は目安、スコアが判断基準」の原則を守る
- HRVだけで判断する — HRVは強力な指標だが、睡眠不足や精神的ストレスを拾えないこともある。必ず3指標を組み合わせる
- 他人の数値と比較する — HRVの絶対値は個人差が大きい。大事なのは自分の7日平均からの偏差。他人のスコアと比べて一喜一憂しない
- データを記録するだけで行動を変えない — スコアを見るだけで満足し、実際のトレーニングに反映しないのは記録の浪費。「スコア→行動変更」を必ずセットにする
まとめ#
リカバリースコアは、HRV・睡眠・主観の3指標を毎朝スコア化し、今日のトレーニング強度を客観的に判断する仕組みだ。高スコアの日に追い込み、低スコアの日に休む――この当たり前のことを「数値」で裏付けることで、オーバートレーニングを防ぎながら超回復を最大化できる。デバイスがなくても安静時心拍と主観評価で簡易版を作れるため、まずは2週間記録をつけて自分のベースラインを知ることから始めたい。