ムーブメント・アセスメント

英語名 Movement Assessment
読み方 ムーブメント アセスメント
難易度
所要時間 評価15〜30分、改善プログラム作成30分
提唱者 Gray Cook『Movement』FMS(Functional Movement Screen)1990年代〜
目次

ひとことで言うと
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スクワット・ヒンジ・ランジ・プッシュ・プルなどの基本動作パターンを体系的にテストし、可動域や安定性の弱点を可視化することで、トレーニングの優先順位を正しく設定する手法。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
FMS(Functional Movement Screen)
Gray Cookが開発した7つの動作テストで構成されるスクリーニングツール。各動作を0〜3点で採点し、合計21点で評価する。
動作パターン(Movement Pattern)
人間の基本動作を「スクワット」「ヒンジ」「ランジ」「プッシュ」「プル」「キャリー」「回旋」の7つに分類したもの。
代償動作(Compensation)
本来使うべき筋群が機能しないとき、別の筋群や関節で動きを補うこと。腰痛の多くは股関節の可動域不足を腰椎で代償した結果生じる。
関節モビリティ(Joint Mobility)
関節が能動的に動ける可動範囲を指す。硬い関節は代償動作を引き起こし、怪我のリスクを高める。
スタビリティ(Stability)
関節や体幹が外力に対して安定を保つ能力。モビリティとスタビリティは交互に必要とされ(Joint-by-Joint Approach)、どちらの欠損も動作不良の原因になる。

ムーブメント・アセスメントの全体像
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ムーブメント・アセスメントの評価から改善への流れ
基本動作パターンをテスト7つの動作を0〜3点で採点(FMS方式)スクワット足首・股関節の可動域と安定性スコア: 2/3ヒンジハムストリングスの柔軟性と股関節制御スコア: 1/3ランジ左右差と片脚安定性スコア: 3/3プッシュ肩甲骨の動きと体幹の安定性スコア: 2/3弱点を特定・優先順位づけスコアが低い動作パターン = 改善最優先改善エクササイズを処方モビリティ→スタビリティ→統合動作の順で改善
ムーブメント・アセスメントの実施フロー
1
動作テスト実施
7つの基本動作を実施し、各0〜3点で採点する
2
弱点を特定
スコアが低い動作パターンと左右差を洗い出す
3
改善エクササイズ
モビリティ→スタビリティ→統合パターンの順で4〜6週間
再テストで効果確認
4〜6週間後に同じテストを再実施し、スコア改善を確認

こんな悩みに効く
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  • トレーニング中に特定の部位ばかり痛めてしまう
  • 自分の弱点がどこなのか客観的に把握したい
  • クライアントに最適なエクササイズを処方するための評価基準が欲しい

基本の使い方
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ステップ1:7つの基本動作パターンをテストする
以下の動作を順に実施する。(1)オーバーヘッドディープスクワット (2)ハードルステップ (3)インラインランジ (4)ショルダーモビリティ (5)アクティブストレートレッグレイズ (6)トランクスタビリティプッシュアップ (7)ロータリースタビリティ。各動作を0〜3点で採点し、痛みがあれば0点とする。
ステップ2:スコアが低い動作と左右差を分析する
合計スコアが14点以下、または個別に1点以下の動作がある場合は、怪我のリスクが高い。左右差が1点以上ある場合も優先的に改善する。「どの関節のモビリティが不足しているか」「どのスタビライザーが弱いか」を動作の崩れ方から推測する。
ステップ3:モビリティ→スタビリティの順で改善する
可動域が不足している場合はまずモビリティドリル(ストレッチ、関節モビライゼーション)を行う。可動域が確保できたら、その範囲を安定させるスタビリティトレーニング(片脚バランス、体幹エクササイズ)を加える。最後に統合動作(スクワットやデッドリフト)で全体を仕上げる。
ステップ4:4〜6週間後に再テストする
同じ条件で再テストし、スコアの変化を確認する。改善した動作はメンテナンス頻度に切り替え、変化がない動作はアプローチを変更する。定期的な再テスト(3〜6か月ごと)でトレーニングプログラムの方向性を修正し続ける。

具体例
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例1:市民ランナーがひざ痛の原因を特定し再発を防ぐ

35歳女性。フルマラソンに向けてトレーニング中、左ひざの内側に痛みが出て走れなくなった。整形外科では「使いすぎ」と診断されたが、走行量を減らしても再発を繰り返す。

ムーブメント・アセスメントの結果は以下の通り。

テスト
ディープスクワット22
ハードルステップ13
インラインランジ12
ストレートレッグレイズ23

左の股関節モビリティとスタビリティに明確な左右差があった。左股関節の可動域不足を左ひざで代償していたことが痛みの原因と推定。

4週間の股関節モビリティドリル+片脚スクワットプログラムを実施したところ、ハードルステップが1 → 2点に改善。ランニングを再開して3か月、ひざ痛の再発はゼロ。

例2:パーソナルジムが入会時スクリーニングとして導入する

会員数250名のパーソナルジム。入会時に体組成測定のみを行い、すぐにトレーニングメニューを組んでいたが、入会3か月以内の怪我発生率が**11%**と高かった。

全入会者にFMSを導入し、合計14点以下の場合は最初の4週間を「コレクティブエクササイズ期間」とする運用に変更。通常のウエイトトレーニングは15点以上になってから開始する方針にした。

導入後1年で入会3か月以内の怪我発生率は**11% → 3.8%に低下。退会率も月2.4% → 1.6%**に改善された。トレーナーいわく「最初の1か月を投資に使うことで、その後の伸びが加速する」。

例3:高校サッカー部がシーズン前の怪我予防に活用する

部員55名の高校サッカー部。前シーズンはACL(前十字靭帯)損傷が2件、ハムストリング肉離れが8件発生していた。

シーズン前にFMSを全選手に実施。合計スコアの平均は12.8点で、とくにディープスクワットとロータリースタビリティのスコアが低かった。

スコア14点以下の選手23名に対し、週3回のコレクティブプログラム(股関節モビリティ+体幹スタビリティ、各15分)を6週間実施。プログラム後の再テストでチーム平均は12.8 → 15.4点に上昇。

そのシーズンのACL損傷は0件、ハムストリング肉離れは2件に減少した。

やりがちな失敗パターン
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  1. テスト結果を無視してトレーニングを始める — スコア1の動作があるのに高負荷トレーニングを開始すると、代償動作の上に重さが乗り、怪我のリスクが跳ね上がる。
  2. スコアの数字だけ見て動きの質を見ない — 2点でも代償パターンが入っている場合がある。採点だけでなく、動きの崩れ方(膝が内側に入る、腰が丸まるなど)を観察する。
  3. モビリティとスタビリティの区別をつけない — 硬いのか弱いのかで処方は真逆になる。硬い関節にはストレッチ、弱い筋群にはアクティベーションエクササイズ。
  4. 一度テストしたら二度とやらない — 動作能力は変化する。改善プログラム後の再テスト、シーズン前後の定期テストを組み込まないと効果検証ができない。

まとめ
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ムーブメント・アセスメントは基本動作パターンを体系的に評価し、弱点と改善優先度を可視化する手法である。スコアが低い動作パターンに対して 「モビリティ→スタビリティ→統合動作」 の順に介入し、4〜6週間後に再テストで効果を確認する。怪我の予防だけでなく、トレーニング効果を最大化するための出発点としても有用だ。