ファンクショナル・ムーブメント・スクリーン

英語名 Functional Movement Screen
読み方 ファンクショナル ムーブメント スクリーン
難易度
所要時間 15〜20分
提唱者 Gray Cook & Lee Burton(1990年代後半に開発)
目次

ひとことで言うと
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7つの基本動作パターンをそれぞれ0〜3点で採点し、合計21点満点で身体の動きの質・左右差・制限を数値化する評価法。グレイ・クックとリー・バートンが開発し、怪我リスクの予測とトレーニングの優先順位づけに広く使われている。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
FMS(Functional Movement Screen)
7つの動作テストと3つのクリアリングテストで構成される動作評価システム。スコアが低い動作パターンから優先的に改善する。
動作パターン(Movement Pattern)
スクワット、ランジ、回旋など人間の基本的な動きの型。個別の筋力ではなく「動きの質」を評価する。
左右非対称(Asymmetry)
左右で行うテスト(ハードルステップ、インラインランジなど)のスコアが異なる状態。非対称がある動作は怪我リスクが高いとされる。
クリアリングテスト(Clearing Test)
特定の動作で痛みの有無を確認する補助テスト。痛みがあればその動作パターンは自動的に0点となり、医療専門家への紹介が推奨される。
コレクティブエクササイズ(Corrective Exercise)
FMSで発見された動作制限を改善するための修正エクササイズ。弱点パターンに対して処方される。

ファンクショナル・ムーブメント・スクリーンの全体像
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FMS:7つの動作テストと採点基準
FMS 7テスト概要(各0〜3点 / 合計21点)1. ディープスクワット両側の可動性・安定性足首・股関節・胸椎・肩2. ハードルステップ片脚の安定性・歩行パターン股関節屈曲・膝の安定3. インラインランジ減速・左右の非対称性股関節・膝・足首の協調4. ショルダーモビリティ肩の複合的な可動性内旋・外旋・伸展・屈曲5. ASLRハムストリングスの柔軟性骨盤の安定性・体幹制御6. 体幹安定性プッシュアップ体幹の前面安定性反射的コア制御7. ロータリースタビリティ体幹の回旋安定性上下肢の協調動作採点基準3制限なく完遂2代償動作あり1実施不能0痛みあり合計14点以下は怪我リスクが有意に高いとされる
FMSの実施フロー
1
7テストを実施
各動作を3回試行し最高スコアを採用
2
スコアと非対称を記録
合計点と左右差のあるテストを特定
3
コレクティブ処方
最も低いスコアの動作から修正エクササイズを実施
再テストで効果確認
4〜6週後に再スクリーニングしスコア改善を検証

こんな悩みに効く
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  • トレーニングを頑張っているのに、同じ箇所を繰り返し怪我する
  • 自分の体のどこが弱いのか、客観的に知りたい
  • パーソナルトレーニングのプログラムに根拠がなく不安
  • 左右で動きの違いがある気がするが、具体的に何が問題か分からない

基本の使い方
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7つの動作テストを順番に実施する

各テストは裸足で行い、3回まで試行して最も良いスコアを記録する。

  1. ディープスクワット: バーを頭上に持ち、しゃがみ込む
  2. ハードルステップ: 脛の高さのハードルをまたぐ(左右)
  3. インラインランジ: 一直線上で前後に踏み込む(左右)
  4. ショルダーモビリティ: 背中で両手を近づける(左右)
  5. ASLR(Active Straight Leg Raise): 仰向けで片脚を上げる(左右)
  6. 体幹安定性プッシュアップ: 手を特定位置に置いてプッシュアップ
  7. ロータリースタビリティ: 四つ這いで対角の手脚を動かす(左右)
スコアシートに記録する

各テストを0〜3点で採点する。左右があるテストは低い方のスコアを採用する。

  • 3点: 制限や代償なく完璧に実施できた
  • 2点: 何らかの代償動作を使って実施できた
  • 1点: 代償動作を使っても実施できなかった
  • 0点: テスト中またはクリアリングテストで痛みが出た
優先順位をつけて修正する

スコアが低い動作パターンから優先的に改善する。

  • 0点のテスト: 医療専門家に紹介(痛みの原因を解決してからトレーニング)
  • 1点のテスト: その動作パターンの可動性ドリルを毎日5〜10分
  • 左右非対称: 弱い側を追加セットで強化する
  • 複数の1点がある場合は「可動性の問題」を「安定性の問題」より先に解決する
4〜6週後に再テストする

コレクティブエクササイズを継続し、改善を数値で確認する。

  • 同じ条件(時間帯・ウォームアップ量)で再テスト
  • 1点→2点以上への改善が確認できたら、次に低いスコアのテストに着手
  • 合計14点以上を最初の目標にする

具体例
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例1:腰痛を繰り返す30代デスクワーカーがジムを始める前に

32歳、デスクワーク歴10年。年に2〜3回ぎっくり腰になる。「体幹を鍛えれば治る」と思いジムに入会したが、トレーナーの勧めでまずFMSを受けた。

FMS結果:

テストスコア備考
ディープスクワット1踵が浮き、上体が前倒
ハードルステップ2/2左右対称
インラインランジ2/1右脚で膝がブレる
ショルダーモビリティ2/2左右対称
ASLR1/2左脚が50°しか上がらない
体幹安定性プッシュアップ2骨盤が先に持ち上がる
ロータリースタビリティ1/1対角パターンで崩れる
合計11点14点未満=高リスク

発見された問題:

  • 足首と股関節の可動域不足(スクワット1点の原因)
  • 左ハムストリングスの硬さ(ASLR左1点)
  • 体幹の回旋安定性不足(ロータリー1点 → 腰痛の根本原因の可能性大)

処方されたコレクティブプログラム(1日15分):

  • 足首モビリティドリル: 壁に向かってニートゥウォール 各脚20回
  • 左ハムストリングスストレッチ: アクティブストレッチ 30秒×3
  • デッドバグ: 体幹回旋安定性の基礎ドリル 10回×3セット

6週間後の再テストで合計11点→16点に改善。特にロータリースタビリティが1→2に上がり、その後8か月間ぎっくり腰は一度も再発しなかった。

例2:高校サッカー部のプレシーズン怪我予防

部員38名の高校サッカー部。前シーズンで12名が何らかの下肢の怪我をした(肉離れ5名、足首捻挫4名、膝靭帯損傷3名)。フィジカルコーチが全員にFMSを実施。

チーム全体の結果:

  • 平均スコア: 12.8点(14点未満が全体の63%
  • 最も低かったテスト: ASLR(平均1.6点)、ロータリースタビリティ(平均1.4点)
  • 左右非対称率: **47%**の選手に1点以上の左右差あり

チーム対策:

  1. ウォームアップにASLR改善ドリルとデッドバグを毎日10分追加
  2. 左右非対称のある選手は弱い側の片脚トレーニングを週2回追加
  3. 14点未満の選手はフルコンタクト練習前にコレクティブ期間を2週間設定

結果:

  • 8週後の再テストで平均スコア12.8→15.6点
  • 14点未満の選手が**63%→18%**に減少
  • シーズン中の下肢怪我は前年比58%減(12名→5名)
  • 特に肉離れが5名→1名に激減(ASLR改善の効果と推定)
例3:50代ゴルファーが飛距離低下の原因を特定する

55歳、ゴルフ歴20年。ここ3年でドライバーの飛距離が240ヤード→210ヤードに落ちた。新しいクラブ(15万円)を購入したが効果なし。レッスンプロに「体が回っていない」と言われ、FMSを受けることに。

FMS結果:

テストスコア備考
ディープスクワット2やや前傾が大きい
ハードルステップ2/2問題なし
インラインランジ2/2問題なし
ショルダーモビリティ1/2左肩(リード側)の可動域不足
ASLR2/2問題なし
体幹安定性プッシュアップ2問題なし
ロータリースタビリティ1/1両側とも対角パターン不可
合計13点

分析:

  • ショルダーモビリティ左1点: バックスイングでのトップ位置が浅くなっている原因
  • ロータリースタビリティ左右1点: 体幹の回旋パワーがスイングに伝わっていない根本原因
  • この2つが飛距離低下の動作的なボトルネック

処方されたプログラム(週3回・20分):

  • スリーパーストレッチ(左肩内旋改善): 30秒×3
  • オープンブックドリル(胸椎回旋改善): 各側10回×2
  • バードドッグ → チョップ&リフト(回旋安定性の段階的強化)

8週間後、ショルダーモビリティが1→3、ロータリースタビリティが1→2に改善。ドライバー飛距離は210→228ヤードに回復。クラブを変えるより体の動きを変える方が効果的だった。

やりがちな失敗パターン
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  1. スコアの高いテストからトレーニングする — 得意な動作をさらに伸ばしても怪我リスクは下がらない。最もスコアの低いパターン、特に0点と1点から着手する
  2. 左右差を無視して両側均等にトレーニングする — 非対称があるのに同じメニューを左右同じ量で行うと、差は縮まらない。弱い側に追加セットを入れる
  3. 安定性の問題に可動域ドリルだけで対処する — 体幹安定性プッシュアップやロータリースタビリティが低い場合、ストレッチだけでは改善しない。安定性のドリルが必要
  4. 一度テストして終わりにする — FMSは定期的な再テストで改善を追跡するものである。最低でも4〜6週ごとに再評価し、プログラムを修正する

まとめ
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FMSは7つの基本動作を0〜3点で採点し、身体の「動きの弱点」を数値で可視化するスクリーニングツールである。合計14点未満は怪我リスクが高く、最も低いスコアの動作パターンから優先的に修正する。大切なのは筋力不足を疑う前に動きの質を確認すること。怪我の多くは「弱い」のではなく「うまく動けていない」ことから起きている。