ボルグRPEスケール(詳細)

英語名 Borg RPE Scale (Detailed)
読み方 ボルグ アールピーイー スケール ディテールド
難易度
所要時間 運動中の自己評価
提唱者 Gunnar Borg(1982年)
目次

ひとことで言うと
#

ボルグRPEスケールの原版(6-20)と修正版(CR-10)の両方を詳しく解説し、運動処方・リハビリ・スポーツ科学の場面でどう使い分けるかまで踏み込んだ記事。RPEの「なぜ6から始まるのか」を知ると、このスケールの精度が理解できる。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
ボルグ6-20スケール
元祖のRPEスケール。6(安静時心拍≒60bpm)〜20(最大心拍≒200bpm)で、数値×10が心拍数の近似値になるよう設計されている。
CR-10スケール(Category Ratio Scale)
Borgが後年に開発した0〜10の修正版。カテゴリ評価と比率尺度を組み合わせ、筋力トレーニングや疼痛評価にも適用可能。
セッションRPE
運動終了30分後に「今日のトレーニング全体のきつさ」を0〜10で評価する手法を指す。トレーニング負荷の定量化に使われる。
TRIMP(Training Impulse)
心拍数ベースのトレーニング負荷指標。セッションRPE × 運動時間(分)で算出する簡易版もある。
RPEアンカリング
スケール使用前に「6が安静、20が全力」を体験させ、主観評価の精度を高める手続き。

ボルグRPEスケール(詳細)の全体像
#

2つのRPEスケール:6-20(原版)とCR-10(修正版)の比較
6-20 スケール(原版)設計思想数値×10 ≒ 心拍数(bpm)6=60bpm(安静), 20=200bpm主な用途有酸素運動の強度管理心臓リハビリテーション運動負荷試験中の主観評価利点心拍数との対応が直感的研究での信頼性が高い限界15段階は覚えにくい筋力運動では精度が落ちる高齢者には選択肢が多すぎるCR-10 スケール(修正版)設計思想0〜10のシンプルな尺度比率特性あり(5は2.5の2倍)主な用途筋力トレーニングの負荷管理セッションRPE(練習の負荷定量化)疼痛・呼吸困難の評価利点覚えやすくて使いやすい有酸素にも筋力にも使える限界心拍数との直接対応なし6-20版ほどの研究蓄積がない「10」の上に「∗ 最大」があり混乱もセッションRPE:トレーニング負荷の定量化練習終了30分後にCR-10で評価 × 運動時間(分) = トレーニング負荷(AU)例: RPE 7 × 60分 = 420AU → 週の合計負荷で疲労と適応のバランスを管理週の負荷増加は前週比+10%以内が安全ライン(ACWR: 急性-慢性負荷比)
RPEスケールの選び方と使い方
1
用途を確認
有酸素→6-20、筋力/全般→CR-10を選ぶ
2
アンカリング
最低値と最高値を実体験させてスケールを校正
3
運動中に評価
5〜10分ごとに現在のRPEを確認・記録
負荷を定量管理
セッションRPEで週の負荷トレンドを追跡

こんな悩みに効く
#

  • チームの選手に個別の心拍計を配れないが、強度管理をしたい
  • 筋力トレーニングの追い込み具合を客観的に評価したい
  • 週のトレーニング負荷をシンプルに定量化したい

基本の使い方
#

場面に応じてスケールを選ぶ
場面推奨スケール理由
有酸素運動の強度管理6-20心拍数との対応が直感的
筋力トレーニングCR-10局所的な「きつさ」を評価しやすい
セッション全体の負荷評価CR-10計算(RPE × 時間)に使う
高齢者・リハビリCR-10選択肢が少なく分かりやすい
研究・論文執筆6-20先行研究との比較可能性
アンカリングで精度を高める

スケールを初めて使う人には、事前に「基準点」を体験させる。

  • 6-20スケール: 安静状態(6)と、30秒全力ダッシュ後(19〜20)を体験
  • CR-10スケール: 椅子に座った状態(0)と、全力で壁を押す(10)を体験
  • これにより「自分にとっての最低と最高」が定まり、中間の精度が上がる
セッションRPEで週の負荷を管理する

練習終了30分後にCR-10で「今日の練習全体のきつさ」を評価し、運動時間を掛ける。

  • 例: 火曜の練習 → RPE 6 × 90分 = 540AU
  • 例: 木曜の練習 → RPE 8 × 60分 = 480AU
  • 週の合計: 1,020AU + 土曜分 → 週1,500AU前後

週の合計負荷が前週比 +10% を超えたら要注意(怪我リスク上昇)。

具体例
#

例1:パーソナルトレーナーがクライアントの筋トレ強度を管理

パーソナルトレーナー(32歳)が、50代女性クライアントの筋力トレーニングにCR-10を導入。以前は「あと何回できる?」で聞いていたが、回答が曖昧で追い込みすぎることがあった。

導入方法:

  • 各セットの直後にCR-10で評価
  • 目標: 筋肥大メニューはRPE 7〜8、維持メニューはRPE 5〜6
エクササイズ重量レップ数RPE
スクワット30kg10回7
ベンチプレス20kg10回8
ラットプルダウン25kg12回6

RPEが8を超えたら重量を下げる、6以下なら重量を上げるルールを設定。3ヶ月でスクワットの重量は 30kg → 42.5kg に増加し、クライアントは一度も怪我をしていない。「きつさの自己申告」が信頼できる指標になった。

例2:大学サッカー部がセッションRPEで怪我を予防

大学サッカー部(部員35名)のコンディショニングコーチが、セッションRPEを導入。従来はGPSデバイスで走行距離を管理していたが、心理的負荷やコンタクトの強度が反映されなかった。

運用:

  • 練習後30分にLINEグループで「今日のRPEは?(0-10)」と報告
  • スプレッドシートでRPE × 練習時間 = 負荷(AU)を自動計算
  • 週の合計と4週平均のACWR(急性:慢性負荷比)をモニタリング
選手週の負荷(AU)ACWR判定
選手A2,8001.05適正
選手B3,2001.32危険域→練習量を減らす
選手C1,6000.72負荷不足→追加メニュー

導入1シーズンで、筋肉系の怪我が 前年比42%減。特にACWRが1.3を超えた選手を事前に特定し、練習を調整できたのが大きかった。コストはLINEとスプレッドシートだけ。

例3:呼吸器リハビリで修正ボルグスケールを使う

COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者向けの呼吸器リハビリプログラム。68歳の男性患者。階段を1フロア上がるだけで息切れし、外出を避けるようになっていた。

理学療法士はCR-10の「呼吸困難感」バージョンを使用:

  • 0 = まったく息苦しくない
  • 3 = 中程度の息苦しさ
  • 5 = 強い息苦しさ
  • 10 = 最大の息苦しさ

目標: 呼吸困難感RPE 3〜4で運動を維持

リハビリ内容:

  • トレッドミル歩行: 時速2.5kmから開始、RPE 3〜4を維持
  • 上肢エルゴメーター: 10分間、RPE 3を超えたら負荷を下げる

12週後、同じ呼吸困難RPE 4で歩ける速度が 2.5km/h → 3.8km/h に向上。6分間歩行テストの距離は 280m → 380m に改善した。RPEは患者の「安全圏」を可視化し、「苦しいからやめる」と「もう少しいける」の判断基準を提供してくれる。

やりがちな失敗パターン
#

  1. アンカリングなしでいきなり使い始める — 基準点を体験させないと、個人間で数値の意味がバラバラになる。特にチームで使う場合は初回のキャリブレーションが必須
  2. セッションRPEを練習直後に取る — 練習直後は最後のメニューの印象に引きずられる。30分後に評価することで「全体のきつさ」を正確に捉えられる
  3. 6-20スケールを筋トレに使う — 筋力トレーニングは心拍数との対応が弱いため、6-20スケールでは精度が落ちる。筋トレにはCR-10を使う
  4. RPEだけに頼りすぎる — RPEは主観指標であり、うつ状態や睡眠不足で歪む。心拍数、血中乳酸、GPSデータなど客観指標との組み合わせが理想

まとめ
#

ボルグRPEスケールには原版(6-20)と修正版(CR-10)があり、目的に応じて使い分ける。有酸素運動なら6-20、筋トレやセッション全体の評価ならCR-10。セッションRPEを使えば、スプレッドシート1枚でチーム全体のトレーニング負荷を定量管理できる。高価な機材がなくても 「主観」 は立派なデータソースになる。