ひとことで言うと#
ボルグRPEスケールの原版(6-20)と修正版(CR-10)の両方を詳しく解説し、運動処方・リハビリ・スポーツ科学の場面でどう使い分けるかまで踏み込んだ記事。RPEの「なぜ6から始まるのか」を知ると、このスケールの精度が理解できる。
押さえておきたい用語#
- ボルグ6-20スケール
- 元祖のRPEスケール。6(安静時心拍≒60bpm)〜20(最大心拍≒200bpm)で、数値×10が心拍数の近似値になるよう設計されている。
- CR-10スケール(Category Ratio Scale)
- Borgが後年に開発した0〜10の修正版。カテゴリ評価と比率尺度を組み合わせ、筋力トレーニングや疼痛評価にも適用可能。
- セッションRPE
- 運動終了30分後に「今日のトレーニング全体のきつさ」を0〜10で評価する手法を指す。トレーニング負荷の定量化に使われる。
- TRIMP(Training Impulse)
- 心拍数ベースのトレーニング負荷指標。セッションRPE × 運動時間(分)で算出する簡易版もある。
- RPEアンカリング
- スケール使用前に「6が安静、20が全力」を体験させ、主観評価の精度を高める手続き。
ボルグRPEスケール(詳細)の全体像#
こんな悩みに効く#
- チームの選手に個別の心拍計を配れないが、強度管理をしたい
- 筋力トレーニングの追い込み具合を客観的に評価したい
- 週のトレーニング負荷をシンプルに定量化したい
基本の使い方#
| 場面 | 推奨スケール | 理由 |
|---|---|---|
| 有酸素運動の強度管理 | 6-20 | 心拍数との対応が直感的 |
| 筋力トレーニング | CR-10 | 局所的な「きつさ」を評価しやすい |
| セッション全体の負荷評価 | CR-10 | 計算(RPE × 時間)に使う |
| 高齢者・リハビリ | CR-10 | 選択肢が少なく分かりやすい |
| 研究・論文執筆 | 6-20 | 先行研究との比較可能性 |
スケールを初めて使う人には、事前に「基準点」を体験させる。
- 6-20スケール: 安静状態(6)と、30秒全力ダッシュ後(19〜20)を体験
- CR-10スケール: 椅子に座った状態(0)と、全力で壁を押す(10)を体験
- これにより「自分にとっての最低と最高」が定まり、中間の精度が上がる
練習終了30分後にCR-10で「今日の練習全体のきつさ」を評価し、運動時間を掛ける。
- 例: 火曜の練習 → RPE 6 × 90分 = 540AU
- 例: 木曜の練習 → RPE 8 × 60分 = 480AU
- 週の合計: 1,020AU + 土曜分 → 週1,500AU前後
週の合計負荷が前週比 +10% を超えたら要注意(怪我リスク上昇)。
具体例#
パーソナルトレーナー(32歳)が、50代女性クライアントの筋力トレーニングにCR-10を導入。以前は「あと何回できる?」で聞いていたが、回答が曖昧で追い込みすぎることがあった。
導入方法:
- 各セットの直後にCR-10で評価
- 目標: 筋肥大メニューはRPE 7〜8、維持メニューはRPE 5〜6
| エクササイズ | 重量 | レップ数 | RPE |
|---|---|---|---|
| スクワット | 30kg | 10回 | 7 |
| ベンチプレス | 20kg | 10回 | 8 |
| ラットプルダウン | 25kg | 12回 | 6 |
RPEが8を超えたら重量を下げる、6以下なら重量を上げるルールを設定。3ヶ月でスクワットの重量は 30kg → 42.5kg に増加し、クライアントは一度も怪我をしていない。「きつさの自己申告」が信頼できる指標になった。
大学サッカー部(部員35名)のコンディショニングコーチが、セッションRPEを導入。従来はGPSデバイスで走行距離を管理していたが、心理的負荷やコンタクトの強度が反映されなかった。
運用:
- 練習後30分にLINEグループで「今日のRPEは?(0-10)」と報告
- スプレッドシートでRPE × 練習時間 = 負荷(AU)を自動計算
- 週の合計と4週平均のACWR(急性:慢性負荷比)をモニタリング
| 選手 | 週の負荷(AU) | ACWR | 判定 |
|---|---|---|---|
| 選手A | 2,800 | 1.05 | 適正 |
| 選手B | 3,200 | 1.32 | 危険域→練習量を減らす |
| 選手C | 1,600 | 0.72 | 負荷不足→追加メニュー |
導入1シーズンで、筋肉系の怪我が 前年比42%減。特にACWRが1.3を超えた選手を事前に特定し、練習を調整できたのが大きかった。コストはLINEとスプレッドシートだけ。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者向けの呼吸器リハビリプログラム。68歳の男性患者。階段を1フロア上がるだけで息切れし、外出を避けるようになっていた。
理学療法士はCR-10の「呼吸困難感」バージョンを使用:
- 0 = まったく息苦しくない
- 3 = 中程度の息苦しさ
- 5 = 強い息苦しさ
- 10 = 最大の息苦しさ
目標: 呼吸困難感RPE 3〜4で運動を維持
リハビリ内容:
- トレッドミル歩行: 時速2.5kmから開始、RPE 3〜4を維持
- 上肢エルゴメーター: 10分間、RPE 3を超えたら負荷を下げる
12週後、同じ呼吸困難RPE 4で歩ける速度が 2.5km/h → 3.8km/h に向上。6分間歩行テストの距離は 280m → 380m に改善した。RPEは患者の「安全圏」を可視化し、「苦しいからやめる」と「もう少しいける」の判断基準を提供してくれる。
やりがちな失敗パターン#
- アンカリングなしでいきなり使い始める — 基準点を体験させないと、個人間で数値の意味がバラバラになる。特にチームで使う場合は初回のキャリブレーションが必須
- セッションRPEを練習直後に取る — 練習直後は最後のメニューの印象に引きずられる。30分後に評価することで「全体のきつさ」を正確に捉えられる
- 6-20スケールを筋トレに使う — 筋力トレーニングは心拍数との対応が弱いため、6-20スケールでは精度が落ちる。筋トレにはCR-10を使う
- RPEだけに頼りすぎる — RPEは主観指標であり、うつ状態や睡眠不足で歪む。心拍数、血中乳酸、GPSデータなど客観指標との組み合わせが理想
まとめ#
ボルグRPEスケールには原版(6-20)と修正版(CR-10)があり、目的に応じて使い分ける。有酸素運動なら6-20、筋トレやセッション全体の評価ならCR-10。セッションRPEを使えば、スプレッドシート1枚でチーム全体のトレーニング負荷を定量管理できる。高価な機材がなくても 「主観」 は立派なデータソースになる。