VC法バリュエーション

英語名 Venture Capital Method
読み方 ベンチャー キャピタル メソッド
難易度
所要時間 1〜2時間
提唱者 ハーバード・ビジネス・スクールのウィリアム・サールマン教授が体系化(1987年)
目次

ひとことで言うと
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スタートアップの将来のExit時の企業価値(ターミナルバリュー)を推定し、投資家の目標リターン(IRR)で割り引くことで、現時点の妥当な評価額と投資条件を算出する手法。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ターミナルバリュー(Terminal Value)
Exit時(IPOやM&A時)に想定される企業の将来価値。売上やEBITDAに業界の平均マルチプルを掛けて推定する。
プレマネー・バリュエーション
資金調達の企業価値。投資家の出資額を加えた後の価値がポストマネー・バリュエーション。
IRR(Internal Rate of Return)
投資の年率換算リターン。VCは通常30〜50%のIRRを目標とする。
希薄化(Dilution)
追加の資金調達ラウンドによって既存株主の持分比率が下がる現象のこと。VCは将来の希薄化を織り込んで評価額を算出する。

VC法バリュエーションの全体像
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VC法:Exit価値を目標IRRで割り引き、現在の企業価値を逆算する
Exit価値(5年後)5年後の売上予測: 10億円PSR(売上倍率): 5倍= 50億円目標IRR・希薄化目標IRR: 40%(5年で5.4倍)将来の希薄化想定: 30%実効マルチプル: 5.4 ÷ 0.7 = 7.7倍ポストマネーExit価値 ÷ 実効マルチプル50億 ÷ 7.7= 約6.5億円プレマネーポストマネー − 投資額6.5億 − 1億= 5.5億円ディール条件投資額1億円でポストマネー6.5億 → 持分15.4%Exit時のリターン: 50億 × 15.4% × 0.7 = 5.4億円
VC法バリュエーションの計算フロー
1
Exit価値を推定
将来の売上 × 業界マルチプルで算出
2
目標リターンで割り引く
IRR 30〜50%で現在価値に変換
3
希薄化を織り込む
将来ラウンドの希薄化20〜40%を加味
ディール条件を提示
プレマネー・持分比率・投資額を決定

こんな悩みに効く
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  • 初めての資金調達で、自社のバリュエーションをどう設定すればいいかわからない
  • エンジェル投資を検討しているが、提示されたバリュエーションが妥当か判断できない
  • VCとの交渉で使われる用語(プレマネー、ポストマネー、希薄化)の関係を整理したい

基本の使い方
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Exit時の企業価値(ターミナルバリュー)を推定する
5〜7年後のExitを想定し、その時点の売上またはEBITDAを予測する。同業の上場企業やM&A事例のマルチプル(PSR、EV/EBITDA)を適用して企業価値を算出。SaaS企業なら売上の5〜15倍、製造業なら3〜6倍が目安。
目標IRRで現在価値に割り引く
VCの目標IRRは一般に30〜50%。シード期は50%以上、シリーズA以降は30〜40%が相場。IRR 40%で5年なら、必要マルチプルは (1.4)^5 = 5.4倍。Exit価値を5.4で割ったものがポストマネー・バリュエーション。
将来の希薄化を織り込む
シリーズA→B→Cで追加調達が行われるたびに持分が薄まる。シード投資家は最終的に30〜50%希薄化されることが多い。希薄化30%なら、必要マルチプルは 5.4 ÷ 0.7 = 7.7倍。ポストマネーをこの値で再計算する。

具体例
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例1:SaaS スタートアップのシリーズA調達条件を算出する

ARR(年間経常収益)1.5億円のBtoB SaaSが、シリーズAで3億円の調達を計画。

Exit想定:

  • 5年後のARR: 30億円(年率82%成長)
  • 類似企業のPSR: 8倍
  • ターミナルバリュー: 30億 × 8 = 240億円

投資家の目標:

  • IRR: 35%(5年で4.5倍)
  • 将来の希薄化: 35%
  • 実効マルチプル: 4.5 ÷ 0.65 = 6.9倍

ポストマネー: 240億 ÷ 6.9 = 約34.8億円 プレマネー: 34.8億 − 3億 = 31.8億円 投資家の持分: 3億 ÷ 34.8億 = 8.6%

創業者にとって「プレマネー31.8億でシリーズA」は、現在のARR 1.5億に対して約21倍。成長率が計画通りに進めば投資家も目標IRR 35%を達成できる計算。

例2:エンジェル投資家がシード期の投資判断をする

エンジェル投資家がシード期のフードテックスタートアップに500万円の投資を検討。創業者はプレマネー2億円を主張している。

投資家の検証:

  • 5年後のExit想定売上: 5億円
  • PSR: 4倍(食品業界は低め)
  • ターミナルバリュー: 5億 × 4 = 20億円
  • 目標IRR: 50%(シードのため高め)→ 5年で7.6倍
  • 希薄化想定: 45%(シードからExitまで3回の追加調達)
  • 実効マルチプル: 7.6 ÷ 0.55 = 13.8倍
  • ポストマネー: 20億 ÷ 13.8 = 約1.45億円
  • プレマネー: 1.45億 − 0.05億 = 1.4億円

創業者の提示するプレマネー2億円は、投資家の計算(1.4億円)より 43%高い。交渉の選択肢として、(a) プレマネー1.4億で交渉する、(b) 2億を受け入れる代わりに優先株の清算優先権を設定する、(c) マイルストーン達成時のトランシェ(分割)投資にする、などを提案。

例3:創業者が複数VCの提案を比較する

ARR 8,000万円のヘルスケアSaaSの創業者が、2社のVCからターム提案を受けた。

条件VC-AVC-B
投資額2億円1.5億円
プレマネー8億円10億円
ポストマネー10億円11.5億円
持分20%13%
清算優先権1倍・参加型1倍・非参加型

単純にプレマネーだけ見るとVC-Bのほうが高いが、VC法で逆算:

VC-Aの場合(Exit 100億円想定):

  • 創業者の取り分: 100億 × 80% = 80億円

VC-Bの場合(Exit 100億円想定):

  • 創業者の取り分: 100億 × 87% = 87億円

VC-Bのほうが創業者の取り分は7億円多いが、調達額が5,000万円少ないため成長速度に影響する可能性がある。一方、VC-Aの「参加型」清算優先権はダウンラウンド時に不利に働く。最終的にVC-Bを選び、不足する5,000万円は別のエンジェルから調達する方針を決めた。

やりがちな失敗パターン
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  1. Exit価値を楽観的に見積もりすぎる — 「5年で売上100億」のような計画を前提にするとバリュエーションが膨らみすぎる。保守・中立・楽観の3シナリオで検証する
  2. 希薄化を無視する — シードからExitまでに40〜60%の希薄化は一般的。これを織り込まないと投資家のリターンが計画を大幅に下回る
  3. マルチプルの選び方が雑 — 同じSaaSでも成長率によってPSRは3〜20倍と幅がある。比較対象企業の成長率・利益率・市場規模を揃えて選ぶ
  4. バリュエーションだけで投資判断する — VCの付加価値(ネットワーク、採用支援、次ラウンド紹介)はバリュエーションには表れない。条件だけでなく「誰に投資してもらうか」も重要

まとめ
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VC法バリュエーションは 「将来のExit価値から逆算して今の企業価値を決める」 というシンプルな構造だが、売上予測・マルチプル・IRR・希薄化の4つの変数の置き方で結果が大きく変わる。創業者は自社のバリュエーションを守りつつ適正な条件で調達するために、投資家はリスクに見合ったリターンを確保するために、双方がこの計算ロジックを理解しておくことが健全な交渉の前提となる。