ひとことで言うと#
将来の不確実な変数(株式リターン、インフレ率、寿命など)に乱数を使って何千回もシミュレーションし、「成功する確率は何%か」を数値で出す分析手法。1回の予測ではなく、確率分布で未来を捉える。
押さえておきたい用語#
- モンテカルロ法
- 乱数を用いた多数回のシミュレーションで確率的な結果を求める計算手法。名前はカジノで有名なモナコのモンテカルロに由来する。
- シミュレーション試行(Trial)
- 1回分の仮想的なシナリオ実行のこと。通常は 1,000〜10,000回 試行して結果の分布を見る。
- 成功確率(Success Rate)
- 目標(例: 資産が30年間枯渇しない)を達成できた試行の割合。80%以上が一般的な安心ラインとされる。
- パーセンタイル
- 結果を小さい順に並べたときの位置を指す。10パーセンタイルは「最悪から10%の位置」で、悲観シナリオの目安になる。
モンテカルロシミュレーションの全体像#
こんな悩みに効く#
- 「年利5%で30年運用したら…」という一本線の予測だけでは不安
- リタイア後に資産が枯渇するリスクを具体的な確率で知りたい
- 楽観と悲観の両方を含めた現実的な資産計画を立てたい
基本の使い方#
シミュレーションに必要な変数を決める。
| パラメータ | 例 | 備考 |
|---|---|---|
| 初期資産額 | 3,000万円 | 運用に回せる金額 |
| 期待リターン | 年5% | 資産配分に応じて設定 |
| 標準偏差(リスク) | 年15% | 株式多めなら高くなる |
| 年間取り崩し額 | 150万円 | インフレ調整あり/なし |
| シミュレーション期間 | 30年 | リタイア〜寿命 |
| 試行回数 | 10,000回 | 多いほど精度が上がる |
無料ツールやスプレッドシートで実行できる。
- Webツール: FIRECalc、cFIREsim(英語だが直感的に使える)
- スプレッドシート: Excelの
NORM.INV(RAND(), μ, σ)でランダムリターンを生成し、資産推移を計算 - Python: NumPyで正規乱数を生成、ループで1万回回す(20行程度のコードで実装可能)
| 指標 | 見方 |
|---|---|
| 成功確率 | 資産が枯渇しなかった試行の割合。80%以上が安心ライン |
| 中央値 | 全試行の真ん中の結果。「平均的な未来」の目安 |
| 10パーセンタイル | 悲観シナリオ。ここでも生活できればプランは堅い |
| 90パーセンタイル | 楽観シナリオ。ここを期待値にすると危険 |
成功確率が80%未満なら、取り崩し額を減らすか、リスクの低い資産配分に変更する。
具体例#
前提
- 資産5,000万円、年間取り崩し200万円(月16.7万円)
- 資産配分: 株式60%/債券40%(期待リターン5%、標準偏差12%)
- 65歳から年金150万円 → 取り崩しを50万円に減額
- シミュレーション期間: 40年(95歳まで)
結果(10,000回試行)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 成功確率 | 88% |
| 中央値(40年後残高) | 2,800万円 |
| 10パーセンタイル | 200万円(ギリギリ枯渇回避) |
| 90パーセンタイル | 8,500万円 |
成功確率88%は合格ラインだが、10パーセンタイルで200万円はほぼ枯渇。年間取り崩しを180万円に減らすと成功確率が 93% に上がり、10パーセンタイルも600万円になった。
前提
- 現在の運用資産: 800万円、月額積立8万円
- 10年後に教育費で600万円を一括取り崩し
- その後は再び月8万円を積み立て、60歳で引退
- 資産配分: 全世界株式100%(期待リターン6%、標準偏差18%)
結果
| 指標 | 60歳時点の資産 |
|---|---|
| 成功確率(目標3,000万円以上) | 72% |
| 中央値 | 3,400万円 |
| 10パーセンタイル | 1,600万円 |
| 90パーセンタイル | 6,800万円 |
72%は目標の80%に届かない。月額積立を10万円に増やすと成功確率は 81% に上昇。あるいは教育費を奨学金と併用して一括取り崩しを400万円に抑えると、成功確率は 85% になる。どのレバーが最も効果的かをシミュレーションで比較できるのがモンテカルロ法の強みだ。
顧客の状況: 62歳、資産4,500万円、年金受給まで3年
3つのプランをモンテカルロで比較(10,000回試行、配分: 株40%/債60%)
| プラン | 年間取り崩し | 成功確率(30年) | 10%タイル残高 |
|---|---|---|---|
| A: 保守的 | 150万円 | 95% | 1,200万円 |
| B: 標準 | 200万円 | 85% | 400万円 |
| C: 積極的 | 250万円 | 68% | −200万円(枯渇) |
プランCは成功確率68%で危険。プランAは安全だが生活が窮屈。プランBを基本とし、「株式市場が20%以上下落した年は取り崩しを150万円に抑える」というルールを追加すると成功確率が 90% に改善。この定量的な根拠があるから、顧客も納得して取り崩し計画にサインできた。
やりがちな失敗パターン#
- 入力パラメータを楽観的に設定する — 期待リターンを年8%、標準偏差を10%にすると「ほぼ成功」と出るが現実離れしている。過去データに基づいた保守的な値を使う
- 成功確率100%を目指す — 100%にするには極端に低い取り崩し額が必要で、資産を使わずに死ぬことになる。80〜90%が現実的な目標
- 結果の中央値だけ見る — 中央値は「半分の確率でこれ以下」という意味。10パーセンタイル(悲観ケース)でも生活できるかを確認する
- 一度シミュレーションして放置する — 実際のリターンが想定と大きくずれたら、前提を更新して再シミュレーションする。最低でも年1回は見直す
まとめ#
モンテカルロシミュレーションは「1つの未来予測」ではなく 「何千通りの未来の確率分布」 を見せてくれるツール。リタイア計画の安全性検証、教育資金の達成確率、投資プランの比較など、不確実性を伴うあらゆる資金計画に使える。無料のWebツールでも実行可能なので、一本線の予測で安心するのではなく、確率で判断する習慣をつけたい。