ケリー基準

英語名 Kelly Criterion
読み方 ケリー クライテリオン
難易度
所要時間 30分
提唱者 ジョン・ラリー・ケリー・ジュニア(1956年、ベル研究所)
目次

ひとことで言うと
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「勝てる勝負でいくら賭けるか」を数学的に最適化する公式。 ケリー基準は「勝率」と「オッズ(利益と損失の比率)」から、資産の何%を投資すべきかを計算する。賭けすぎると破産リスクが上がり、少なすぎると資産の成長が遅い。その最適点を見つけるのがケリー基準の役割。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ケリー公式
f*=(bp-q)/bで計算する資産の最適投資比率を導く数学的公式。
ハーフケリー
ケリー基準の半分の比率で投資する実務的なアプローチ。ボラティリティを大幅に抑える。
期待値
投資を多数回繰り返した場合の1回あたりの平均的な損益。プラスが投資の前提条件。
ドローダウン
資産がピークから最大何%下落したかを示すリスク指標。
ポジションサイジング
1回の投資に資産の何%を投入するかを決めるリスク管理手法。

ケリー基準の全体像
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勝率とオッズから最適な投資比率を導く
入力勝率(p)オッズ(b)計算f*=(bp-q)/b最適投資比率調整ハーフケリー控えめに運用最適ベットサイズ過信せず控えめに使うのが鉄則
ケリー基準の実践フロー
1
勝率推定
過去データから勝率とオッズを見積もる
2
計算
ケリー公式で最適比率を算出
3
ハーフケリー
実務では半分以下に調整する
4
運用管理
合計が100%を超えないよう監視

こんな悩みに効く
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  • 勝てる見込みの投資でも、いくら投入すべきかわからない
  • 利益が出ているのに、大きく賭けた一回で帳消しになった経験がある
  • ポジションサイズをなんとなくの感覚で決めている

基本の使い方
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ステップ1: ケリー公式を理解する

基本のケリー公式:

f = (bp - q) / b*

  • f*: 資産に対する最適投資比率
  • b: オッズ(勝った場合の利益 ÷ 負けた場合の損失)
  • p: 勝率
  • q: 敗率(1 - p)

例: 勝率60%、勝てば投資額の1.5倍の利益、負ければ投資額を全額失う場合

  • b = 1.5、p = 0.6、q = 0.4
  • f* = (1.5 × 0.6 - 0.4) / 1.5 = 0.333(約33%)

つまり資産の33%を投資するのが、長期的に資産を最大化する最適解。

ステップ2: ハーフケリーで安全マージンを取る

実際の投資では、ケリー基準の**半分(ハーフケリー)**を使うのが一般的。

理由:

  • 勝率やオッズの推定は正確ではない
  • フルケリーは資産変動(ボラティリティ)が非常に大きい
  • ハーフケリーなら、最適成長率の75%を維持しつつ、変動を大幅に抑えられる

先ほどの例なら:

  • フルケリー: 33%
  • ハーフケリー: 約17%

実務ではハーフケリー以下にする。 「自分の予測が完璧だ」と思うこと自体がリスク。

ステップ3: 投資判断に組み込む

ケリー基準をポートフォリオに適用するステップ:

  1. 各投資案件の勝率と期待リターンを見積もる(過去データや分析から)
  2. ケリー公式で最適比率を計算する
  3. ハーフケリーに調整する
  4. 全投資案件のケリー値の合計が100%を超えないようにする

重要: ケリー基準は「期待値がプラスの場合だけ」意味がある。期待値がマイナスなら、最適ベットサイズは0(=投資しない)。

具体例
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例:個別株投資でケリー基準を使ったポジション管理

状況: 資産500万円の投資家が、3つの投資案件を検討している。

案件A:

  • 勝率: 65%、利益率: +30%、損失率: -20%
  • b = 30/20 = 1.5
  • f* = (1.5×0.65 - 0.35) / 1.5 = 0.417 → ハーフケリー: 約21%(105万円)

案件B:

  • 勝率: 55%、利益率: +50%、損失率: -30%
  • b = 50/30 = 1.67
  • f* = (1.67×0.55 - 0.45) / 1.67 = 0.281 → ハーフケリー: 約14%(70万円)

案件C:

  • 勝率: 70%、利益率: +15%、損失率: -15%
  • b = 1.0
  • f* = (1.0×0.70 - 0.30) / 1.0 = 0.400 → ハーフケリー: 約20%(100万円)

ポートフォリオ配分:

  • 案件A: 105万円
  • 案件B: 70万円
  • 案件C: 100万円
  • 現金: 225万円(45%)

「全力投入」でも「過小投資」でもない、数学的に裏付けされた配分。 勝率が高く期待値の大きい案件ほど多く配分する合理的な結果になっている。

例2:FX取引でケリー基準を使って1トレードあたりの最適リスク額を決める

前提条件:

  • FX口座残高: 200万円
  • 過去100トレードの勝率: 55%
  • 平均利益: 3万円、平均損失: 2万円(ペイオフレシオ1.5)

ケリー基準計算:

  • f* = (0.55 × 1.5 - 0.45) / 1.5 = (0.825 - 0.45) / 1.5 = 25%
  • 最適投入額: 200万円 × 25% = 50万円

実務での適用: フルケリーはリスクが高いためハーフケリー(12.5%)= 25万円を1トレードの最大リスク額に設定。

学び: ケリー基準が示す最適値はボラティリティが大きい。実務ではハーフケリー〜1/4ケリーを使い、破産リスクを抑えるのが定石。

例3:ケリー基準を無視して資金の50%を1回の投資に集中させて失敗する

前提条件:

  • 投資資金500万円
  • 「確実に上がる」と確信した銘柄に250万円(50%)を投入
  • 実際の勝率(後から判明): 60%、ペイオフレシオ: 1.2

ケリー基準: f* = (0.6 × 1.2 - 0.4) / 1.2 = 26.7%

  • 最適投入額は133万円だが、250万円(50%)を投入 = オーバーベット

結果: 銘柄が20%下落し、50万円の損失。ケリー基準通りなら損失は26.7万円で済んだ。

学び: 過信によるオーバーベットは長期的に資産を減少させる。ケリー基準の上限を超えた賭けは、期待値がプラスでも破滅への道

やりがちな失敗パターン
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  1. 勝率やオッズを過大評価する — ケリー基準は入力値が間違っていれば出力も間違う。自信過剰は最大の敵。 控えめな推定値を使い、ハーフケリー以下で運用する

  2. フルケリーで運用して資産変動に耐えられない — フルケリーは数学的最適解だが、途中で-50%以上のドローダウンが起こりうる。精神的に耐えられず途中で売却すれば理論は無意味

  3. 期待値がマイナスの投資に適用する — ケリー基準は「勝てる勝負」のサイジング理論。負ける勝負の最適ベットサイズはゼロ。 まず期待値がプラスか確認するのが先

  4. 全体像を見ずに部分最適に走る — 1つの指標や手法だけに集中すると見落としが生まれる。複数の視点を組み合わせて総合判断することが重要

まとめ
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ケリー基準は 「いくら賭けるか」 を数学的に最適化する強力なツール。勝率とオッズから最適投資比率を導くが、実際の運用ではハーフケリー以下に抑えるのが鉄則。最も重要なのは、入力となる勝率とオッズの見積もりが正確であること。過信せず、控えめに使うことで、長期的な資産成長を最大化できる