ひとことで言うと#
今の貯蓄で収入がゼロになっても何ヶ月暮らせるかを算出し、生活の安全余裕を見える化するフレームワーク。もともとスタートアップが「資金が尽きるまでの期間」を管理する用語だったが、個人の家計設計にも応用される。
押さえておきたい用語#
- ランウェイ(Runway)
- 飛行機の滑走路が語源で、手持ち資金で走り続けられる期間を指す。スタートアップでは「あと何ヶ月で資金ショートするか」の意味で使われる。
- バーンレート(Burn Rate)
- 毎月どれだけ資金が減っていくかを示す月間支出額のこと。「月に燃やすお金」と考えるとわかりやすい。
- 生活防衛資金
- 失業・病気など不測の事態に備えて確保しておく最低限の現預金。一般的には生活費の3〜6ヶ月分が目安とされる。
- ネットバーンレート
- 支出から副収入・不労所得などを差し引いた実質的な月間減少額。副業収入がある場合、バーンレートより小さくなる。
ファイナンシャル・ランウェイの全体像#
こんな悩みに効く#
- 転職や独立を考えているが、貯金が足りるか不安で一歩踏み出せない
- 漠然と「お金が足りなくなったらどうしよう」と心配している
- 生活防衛資金をいくら貯めればいいのか、自分に合った金額がわからない
基本の使い方#
普通預金・定期預金・タンス預金など、1ヶ月以内に現金化できる資産を合計する。
- 投資信託や株式は「時価の70%」で見積もる(下落リスク考慮)
- 確定拠出年金やiDeCoは60歳まで引き出せないため含めない
- クレジットカードの未払い残高があれば差し引く
過去3〜6ヶ月の支出を平均して月間バーンレートを出す。
- 固定費: 家賃、保険料、通信費、ローン返済、サブスク
- 変動費: 食費、日用品、交通費、交際費、医療費
- 季節変動(冬の暖房費、年末の出費など)があるため、最低3ヶ月分で平均をとる
貯蓄総額 ÷ 月間バーンレート = ランウェイ(月数)
| ランウェイ | 評価 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| 3ヶ月未満 | 危険 | 最優先で貯蓄を増やす |
| 3〜6ヶ月 | 最低限 | 会社員なら一旦OK、フリーランスは不十分 |
| 6〜12ヶ月 | 安全圏 | 転職活動・スキル投資に踏み出せる |
| 12ヶ月以上 | 余裕あり | 独立・起業の準備に着手可能 |
目標に足りない場合、2つのレバーで調整する。
- バーンレートを下げる: 固定費の見直し(格安SIM、保険の解約、サブスク整理)
- 貯蓄を増やす: 副業、ボーナスの全額貯蓄、不要品の売却
- まず固定費の削減から着手するのが効果が持続しやすい
具体例#
状況
- 年収520万円(手取り月33万円)、妻と子ども1人の3人家族
- 普通預金280万円、定期預金100万円、投資信託150万円(時価)
貯蓄の集計
| 資産 | 金額 | ランウェイ算入額 |
|---|---|---|
| 普通預金 | 280万円 | 280万円 |
| 定期預金 | 100万円 | 100万円 |
| 投資信託 | 150万円 | 105万円(70%換算) |
| 合計 | 485万円 |
月間バーンレート: 家賃12万、食費6万、保険2.5万、通信1万、教育1.5万、その他5万 = 28万円/月
ランウェイ: 485万 ÷ 28万 = 約17.3ヶ月
12ヶ月以上あるため、転職活動中に収入が途絶えても1年以上は持つ。半年以内に転職先を決める前提なら十分な安全余裕がある。
状況
- 28歳、一人暮らし、フリーランスへの転向を計画中
- 貯蓄は普通預金のみ180万円
- 月間バーンレート: 家賃8万、食費3.5万、通信1万、その他4.5万 = 17万円/月
現在のランウェイ: 180万 ÷ 17万 = 約10.6ヶ月
フリーランスは収入が安定するまで半年〜1年かかるため、ランウェイ 12ヶ月以上 が目標。
| 施策 | 効果 |
|---|---|
| 格安SIMに変更 | ▲0.5万円/月 → バーンレート16.5万円 |
| サブスク3件解約 | ▲0.4万円/月 → バーンレート16.1万円 |
| 副業で月5万円稼ぐ(独立前) | 3ヶ月で+15万円 |
バーンレート16.1万円に圧縮し、3ヶ月副業すれば貯蓄195万円 ÷ 16.1万円 = 12.1ヶ月。ギリギリ12ヶ月に到達する。
状況
- 60歳で早期退職、年金受給は65歳から(月額22万円の見込み)
- 退職金1,800万円、預貯金600万円 → 合計 2,400万円
- 月間バーンレート: 家賃なし(持ち家)、食費6万、光熱費2万、保険3万、医療費1.5万、趣味・交際3万、その他2.5万 = 18万円/月
ランウェイ: 2,400万 ÷ 18万 = 約133ヶ月(11年)
年金受給まで5年間(60ヶ月)の必要資金は 18万 × 60 = 1,080万円。手持ち2,400万円から差し引いても1,320万円が残り、65歳以降は年金でバーンレートの大部分をカバーできる。ただし医療費の増加を見込んで、70歳時点で500万円以上を維持する計画にしておくと安心感が増す。
やりがちな失敗パターン#
- 投資資産を額面通り含めてしまう — 株式や投信は暴落時に半値になりうる。ランウェイの計算では時価の70%以下で見積もるのが安全
- 固定費だけで計算する — 変動費(交際費、医療費、季節の出費)を含めないと、実際のバーンレートが計算より2〜3割多くなる
- 一度計算して放置する — 昇給、引越し、家族構成の変化でバーンレートは変わる。少なくとも半年に1回は再計算する
- ランウェイを伸ばすことだけに執着する — 極端な節約で生活の質を下げすぎると精神的に疲弊する。「収入を増やす」レバーも併用すること
まとめ#
ファイナンシャル・ランウェイは 「貯蓄÷月間支出」 という単純な割り算で、自分の経済的な安全余裕を数値化できるツール。転職・独立・退職など大きなライフイベントの前に必ず計算しておきたい。目安は会社員なら6ヶ月、フリーランスなら12ヶ月以上。足りなければ 「支出を減らす」 「収入を増やす」の両面から対策を立てて、安心して次のステップに踏み出せる状態をつくろう。