ひとことで言うと#
今後3〜12ヶ月の収入と支出を月単位で予測し、いつ・いくら手元資金が増減するかを見える化する手法。企業会計のキャッシュフロー計算書を個人や家計に応用したもの。
押さえておきたい用語#
- キャッシュフロー(Cash Flow)
- 一定期間に入ってくるお金(収入)と出ていくお金(支出)の流れのこと。残高ではなく「動き」を見る点が貯蓄額との違い。
- キャッシュインフロー
- 給与・副業収入・配当・還付金など、手元に入ってくるお金を指す。
- キャッシュアウトフロー
- 家賃・食費・ローン返済・税金など、手元から出ていくお金。固定費と変動費に分けて把握する。
- ランニングバランス
- 月ごとの収支を累積した手元資金の推移のこと。この数字がマイナスに転じるタイミングが「資金ショート」である。
キャッシュフロー予測の全体像#
こんな悩みに効く#
- 毎月の収支は把握しているが、3ヶ月先の資金繰りがイメージできない
- ボーナスや税金の支払い月に資金が足りなくなることがある
- フリーランスで収入が不安定なため、先の見通しを立てたい
基本の使い方#
銀行口座の明細やクレジットカードの利用履歴から、過去6ヶ月の収支を月別に分類する。
- 収入: 給与(手取り)、副業、配当、還付金、その他
- 固定支出: 家賃、保険、通信費、サブスク、ローン返済
- 変動支出: 食費、日用品、交通費、交際費、医療費
- 特別支出: 旅行、冠婚葬祭、家電購入、税金
過去データをベースに、今後のイベントを反映する。
- 確定している収入: 給与、ボーナス(支給月と概算額)
- 確定している支出: 税金(住民税、固定資産税)、保険の年払い、車検
- 見込みの支出: 旅行計画、引越し、家電買い替え
- 変動費は過去6ヶ月の平均値を使う(季節変動が大きければ前年同月を参照)
スプレッドシートで以下の列を作る。
| 月 | 収入合計 | 支出合計 | 月次収支 | 累計残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 35万 | 28万 | +7万 | 207万 |
| 5月 | 35万 | 32万 | +3万 | 210万 |
| … |
累計残高が生活費2ヶ月分を下回る月が「危険月」。その月までに支出を前倒しで削るか、収入を増やす対策を打つ。
具体例#
状況: 32歳、手取り月28万円、ボーナス年2回(6月・12月に各45万円)
予測表を作ったところ、5月に残高が危険ラインを割ることが判明。
| 月 | 収入 | 支出 | 月次収支 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 3月 | 28万 | 26万 | +2万 | 82万 |
| 4月 | 28万 | 38万(引越し) | −10万 | 72万 |
| 5月 | 28万 | 35万(GW旅行) | −7万 | 65万 |
| 6月 | 73万 | 28万 | +45万 | 110万 |
残高65万円は生活費2ヶ月分(52万円)をギリギリ上回るが余裕がない。対策としてGW旅行の予算を5万円削減し、残高72万円を確保した。
状況: 月の売上が30〜80万円で変動するフリーランス。過去12ヶ月の平均売上55万円、月間支出32万円
| 月 | 売上見込 | 支出 | 月次収支 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 60万 | 32万 | +28万 | 228万 |
| 5月 | 45万 | 32万 | +13万 | 241万 |
| 6月 | 30万(閑散期) | 42万(税金) | −12万 | 229万 |
| 7月 | 35万 | 32万 | +3万 | 232万 |
| 8月 | 70万(大型案件) | 32万 | +38万 | 270万 |
6〜7月の収入減と税金支払いが重なっても残高は229万円で安全圏。ただし売上見込みが外れて6月が15万円になると残高は 214万円 まで下がる。悲観シナリオ(売上が見込みの50%)でも残高が100万円を切らないか確認しておくのがフリーランスの鉄則になる。
状況: 自己資金300万円+融資500万円の計800万円で小さなカフェを開業予定
| 月 | 売上 | 支出(原価+経費) | 月次収支 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 開業前 | 0 | 350万(内装・設備) | −350万 | 450万 |
| 1ヶ月目 | 40万 | 65万 | −25万 | 425万 |
| 2ヶ月目 | 55万 | 62万 | −7万 | 418万 |
| 3ヶ月目 | 70万 | 60万 | +10万 | 428万 |
| 6ヶ月目 | 90万 | 62万 | +28万 | 463万 |
| 12ヶ月目 | 100万 | 65万 | +35万 | 570万 |
月次収支が黒字化するのは3ヶ月目。融資の返済(月8万円)を含めても、残高が300万円を下回る月はない。ただし売上が計画の70%しか達成できないケースでは、6ヶ月目に残高が 340万円 まで減少し、追加の運転資金が必要になる可能性がある。この予測があるから、開業前に「売上70%シナリオ」用の追加融資枠を銀行と交渉できる。
やりがちな失敗パターン#
- 収入を楽観的に見積もる — ボーナスは「前年同額」ではなく「前年の80%」で見積もる。フリーランスは直近3ヶ月の最低月を基準にする
- 年1回の支出を忘れる — 固定資産税、自動車税、保険の年払い、車検など。年間カレンダーに大きな支出を先にプロットしておく
- 予測を1パターンしか作らない — 楽観・標準・悲観の3パターンを用意する。特に悲観シナリオで残高がマイナスにならないかが重要
- 作って満足し更新しない — 予測は毎月、実績との差異を確認して翌月以降を修正する。3ヶ月更新しないと予測の精度が急落する
まとめ#
キャッシュフロー予測は 「いつ、いくら足りなくなるか」 を事前に見つけるための仕組み。過去のデータ+将来のイベントを月別に並べて、残高の推移を追うだけでいい。ポイントは楽観シナリオに頼らず悲観パターンも用意すること、そして月1回は実績と照合して予測を更新すること。資金ショートは 「起きてから対処」 では遅い。見える化しておけば、3ヶ月前に手を打てる。