ひとことで言うと#
期待リターン = 無リスク金利 + ベータ × 市場リスクプレミアム。「この投資のリスクに見合う適正なリターンはいくらか?」を計算する公式。ベータが高い(=市場より値動きが激しい)株は高いリターンが期待でき、ベータが低い株は低いリターンになる。リスクとリターンの関係を数式にした、現代ファイナンスの基礎理論。
押さえておきたい用語#
- 無リスク金利(Risk-Free Rate / Rf)
- リスクゼロの投資から得られるリターンのこと。通常は10年国債の利回りを使う。CAPMの計算式の出発点となる。
- ベータ(Beta / β)
- 個別株式が市場全体に対してどれだけ連動して動くかを示す感応度のこと。β=1なら市場と同じ動き、β>1なら市場より激しく動く。
- 市場リスクプレミアム(Market Risk Premium)
- 株式市場全体のリターンから無リスク金利を引いた値のこと。リスクを取ることで得られる追加リターンを意味し、歴史的には約4〜7%。
- 証券市場線(SML: Security Market Line)
- CAPMの式をグラフにしたもの。横軸にβ、縦軸に期待リターンを取ると直線になり、この線の上にある銘柄は「割安」、下にある銘柄は「割高」と判断できる。
CAPMの全体像#
こんな悩みに効く#
- 「ハイリスク・ハイリターン」と言うけど、具体的にどれくらいのリターンが妥当なのかわからない
- DCF法で企業価値を計算したいが、割引率の根拠が曖昧
- ポートフォリオのリスク管理を理論的に行いたい
基本の使い方#
CAPMに必要な数値は3つだけ。
無リスク金利(Rf): リスクゼロの投資のリターン。通常は10年国債の利回りを使う(日本なら約0.5〜1.5%、米国なら約3〜5%)
市場リスクプレミアム(Rm − Rf): 株式市場全体のリターンから無リスク金利を引いたもの。歴史的には約4〜7%
ベータ(β): 個別株式の市場全体に対する感応度
- β = 1.0: 市場と同じ値動き
- β > 1.0: 市場より激しく動く(ハイリスク)
- β < 1.0: 市場より穏やかに動く(ローリスク)
期待リターン = Rf + β × (Rm − Rf)
例: ある株式のβ = 1.5、無リスク金利 = 1%、市場リスクプレミアム = 5%の場合
期待リターン = 1% + 1.5 × 5% = 8.5%
これが「この株式のリスクに見合った適正リターン」になる。
実際のリターンがこれより高ければ「お得な投資」、低ければ「リスクに見合わない投資」 と判断できる。
CAPMの計算結果は主に以下の場面で使う:
- DCF法の割引率: 株主資本コストとしてWACCに組み込む
- 投資判断: 期待リターンが要求リターンを上回るかチェック
- ポートフォリオ評価: 各銘柄がリスクに見合ったリターンを出しているか確認
証券会社やデータサイトで個別銘柄のβ値は簡単に調べられる。 まずは自分が保有している銘柄のβを確認してみよう。
具体例#
前提条件:
- 無リスク金利(Rf): 1%
- 市場リスクプレミアム(Rm − Rf): 5%
銘柄A(電力会社 β = 0.5):
- 期待リターン = 1% + 0.5 × 5% = 3.5%
- ディフェンシブ銘柄。安定的だがリターンは控えめ
銘柄B(食品メーカー β = 1.0):
- 期待リターン = 1% + 1.0 × 5% = 6.0%
- 市場平均並みのリスクとリターン
銘柄C(テック企業 β = 1.8):
- 期待リターン = 1% + 1.8 × 5% = 10.0%
- 高リスクだが高リターンが期待できる
もし銘柄Cの実際の期待リターンが12%なら、CAPMの理論値10%を上回っており「割安」(超過リターンが見込める)と判断できる。 これがCAPMの実践的な使い方。
状況: 食品メーカーA社が同業のB社(非上場)の買収を検討。DCF法で企業価値を算出するため、B社の株主資本コストをCAPMで求める。
CAPMの適用:
- Rf(10年国債利回り): 1.2%
- 市場リスクプレミアム: 5.5%
- β: B社は非上場のため、上場している同業3社の平均βを使用
- 類似企業X社: β = 0.8
- 類似企業Y社: β = 0.9
- 類似企業Z社: β = 0.7
- 平均β = 0.8
計算:
- 株主資本コスト = 1.2% + 0.8 × 5.5% = 5.6%
- 中小企業のサイズプレミアム(+2%)を加算: 7.6%
- WACC(負債比率30%、税引後借入金利2%として): 0.7 × 7.6% + 0.3 × 2% = 5.9%
この5.9%をDCF法の割引率に使い、B社のFCF予測を現在価値に割り引いて企業価値を算出。 CAPMが「なんとなく8%」ではなく「根拠ある5.9%」を提供した。
状況: 運用資産500億円の年金基金。運用委員会に「ファンドマネージャーの実力」を報告する必要がある。
CAPMベースの評価(ジェンセンのアルファ):
| ファンド | β | CAPM理論値 | 実績リターン | アルファ |
|---|---|---|---|---|
| 国内株A | 1.2 | 7.0% | 9.5% | +2.5% |
| 国内株B | 0.9 | 5.5% | 5.0% | −0.5% |
| 外国株C | 1.5 | 8.5% | 11.0% | +2.5% |
※ Rf=1%, 市場リスクプレミアム=5%で計算
分析結果:
- ファンドAとCは市場平均を上回る「アルファ(超過リターン)」を生み出している
- ファンドBはリスクに見合ったリターンすら出せていない
CAPMで「単に市場が上がったから儲かった」のか「ファンドマネージャーの実力で儲けた」のかを客観的に区別できた。 委員会はファンドBの運用者変更を決定。
やりがちな失敗パターン#
- ベータ値を固定的に考える — ベータは過去のデータから算出されるため、期間や市場環境で変動する。複数期間のベータを確認し、構造的に安定しているか見極める
- CAPMだけで投資判断する — CAPMは「市場が効率的」という前提に立つモデル。現実には市場の歪みがある。あくまで判断材料の一つとして活用する
- 無リスク金利の選び方を間違える — 短期国債と長期国債では金利が違う。投資期間に合った国債利回りを使うのが原則
- 非上場企業にそのまま適用する — 上場企業のβは市場データから算出できるが、非上場企業には直接使えない。類似上場企業のβを参照し、サイズプレミアムなどの調整を加える
まとめ#
CAPMは 「リスクに見合った適正リターン」 を数式で求めるモデル。無リスク金利+ベータ×市場リスクプレミアムという簡潔な公式で、投資の期待収益率を理論的に算出できる。DCF法の割引率設定やポートフォリオ評価の基盤となる、ファイナンスの必須知識。完璧な理論ではないが、投資判断の出発点として今も広く活用されている。