ひとことで言うと#
退職後の資産を短期・中期・長期の3つのバケット(桶)に分け、生活費は安全資産から取り崩しつつ、残りは成長させ続ける取り崩し戦略。ファイナンシャルプランナーのハロルド・エベンスキーが1980年代に提唱した。
押さえておきたい用語#
- バケット1(短期バケット)
- 今後1〜2年分の生活費を現金や短期債で確保する安全枠。市場の変動に左右されないことが最大の目的。
- バケット2(中期バケット)
- 3〜7年分の生活費を債券やバランスファンドで運用する緩衝枠。バケット1が減ったときに補充する役割を持つ。
- バケット3(長期バケット)
- 8年以上先に使う資金を株式中心で成長させる枠。時間を味方にしてインフレに負けないリターンを狙う。
- シーケンス・オブ・リターンズ・リスク
- 取り崩し期に暴落が重なると、資産の寿命が大幅に縮む現象。バケット戦略はこのリスクを時間分散で緩和する。
- リフィル(補充)
- バケット3の利益が出たタイミングでバケット2へ、バケット2からバケット1へ資金を移す作業。年1回が目安。
バケットアプローチの全体像#
こんな悩みに効く#
- 退職後に毎月いくら取り崩していいかわからず、使うのが怖い
- 株式市場が暴落するたびにパニック売りしてしまう
- 年金だけでは足りないが、資産をどう使えば長持ちするか見えない
- 一括で保守的な運用に切り替えてしまい、インフレに負けている
基本の使い方#
退職後に必要な年間支出を固定費・変動費・臨時費に分けて計算する。
- 住居費、食費、保険料、医療費など大きな項目から積み上げる
- 趣味・旅行など「豊かさの出費」も忘れず計上する
- 年金やその他の定期収入を差し引いた不足額がバケットで賄う金額になる
不足額をもとに、バケットごとの金額を決める。
- バケット1: 年間不足額 × 2年分を現金・短期債で確保
- バケット2: 年間不足額 × 5年分を債券・バランスファンドに配置
- バケット3: 残りすべてを株式中心のポートフォリオで運用
- 合計が総資産と一致するか確認する
日々の生活費はバケット1からのみ引き出す。
- 毎月定額を普通預金口座に移す自動振替を設定する
- バケット2・3には手を触れないのが原則
- 急な大型支出(医療費など)が発生した場合はバケット2から充当する
年に1回、バケット間の資金移動を行う。
- バケット3が目標リターンを超えていれば利益の一部をバケット2へ
- バケット2からバケット1へ1年分の生活費を補充する
- 暴落時はリフィルを見送る(バケット1に2年分あるので焦らなくていい)
具体例#
年間支出は360万円、年金収入は240万円。年間不足額は120万円。
バケット配分:
| バケット | 期間 | 金額 | 運用先 |
|---|---|---|---|
| バケット1 | 1〜2年 | 240万円 | 普通預金・個人向け国債 |
| バケット2 | 3〜7年 | 600万円 | 国内債券ファンド・バランスファンド |
| バケット3 | 8年〜 | 2,160万円 | 全世界株式インデックス |
退職2年目に株式市場が**−28%の暴落に見舞われたが、バケット1の現金から生活費を賄い続けたため、バケット3を安値で売る必要がなかった。3年目に市場が回復した時点でバケット3の利益180万円をバケット2へ移し、バケット2からバケット1へ120万円を補充。暴落を乗り越えつつ、5年後の総資産は2,920万円**を維持できた。
FIRE達成で55歳退職。年間支出300万円、年金受給は65歳から180万円。55〜64歳の10年間は不足額が年300万円、65歳以降は年120万円になる。
年金開始前の10年を重視して、バケット1を厚めに設計した。
| バケット | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| バケット1 | 600万円 | 定期預金・個人向け国債10年 |
| バケット2 | 1,500万円 | 国内外債券ファンド(為替ヘッジあり) |
| バケット3 | 3,900万円 | 全世界株式70%+新興国株式30% |
バケット3は年平均5%で運用できれば、65歳時点で約5,000万円に成長する想定。年金開始後はバケット1の必要額が240万円(2年分120万円×2)に縮小するため、バケット3の比率をさらに上げて成長を狙う。60歳時点で中間チェックした結果、バケット3は4,600万円まで育っており、計画通りに推移していた。
年金月15万円、年間支出240万円。不足額は年60万円。資産は1,200万円で、90歳までの20年を乗り切りたい。
資産が少ないためバケット2を圧縮し、バケット3で成長を狙う設計にした。
| バケット | 金額 | 運用先 |
|---|---|---|
| バケット1 | 120万円 | 普通預金 |
| バケット2 | 300万円 | 国内債券ファンド |
| バケット3 | 780万円 | バランスファンド(株式60%) |
年間不足額60万円に対し、バケット3が年3%で成長すれば年23万円ほど増える。リフィルで毎年バケット1を補充しつつ、バケット3の元本を徐々に取り崩す形になるが、90歳時点でも約280万円が残る計算。暴落年はリフィルを見送り、バケット1の2年分で凌ぐ。
やりがちな失敗パターン#
- バケット1を厚くしすぎる — 安心感のために5年分以上を現金にすると、インフレで購買力が毎年目減りする。2年分で十分に暴落を吸収できる
- リフィルのタイミングを感情で決める — 「もう少し上がるかも」と待ちすぎると利益確定のチャンスを逃す。年1回の定期実施をルール化する
- 暴落時にバケット3を売ってしまう — バケット戦略の最大のメリットは暴落時に長期資産を売らなくて済むこと。ここを崩すと戦略全体が機能しなくなる
- 年間支出を過小評価する — 医療費や住宅修繕など突発的な出費を見落とすと、バケット1がすぐに枯渇する。支出は1.1〜1.2倍のバッファを見込む
まとめ#
バケットアプローチは、退職後の資産を短期・中期・長期の3つの時間軸で分けることで、「今の生活費は安全に確保しつつ、将来のお金は成長させる」を両立させる。暴落が来てもバケット1に2年分の現金があれば慌てて株を売らずに済み、市場回復を待てる。年に1回のリフィルだけで運用を回せるシンプルさも魅力だが、成功の鍵は年間支出の正確な把握と暴落時にルールを崩さない規律にある。