損益分岐点分析

英語名 Break-Even Analysis
読み方 ブレークイーブン アナリシス
難易度
所要時間 30分〜1時間
提唱者 経営工学・管理会計の基本手法
目次

ひとことで言うと
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「何個売れば赤字にならないか?」を計算する手法。 固定費(家賃・人件費など売上に関係なくかかるコスト)と変動費(原材料費など売上に比例するコスト)を分けて考え、売上がコストを上回る「損益分岐点」を算出する。事業の生死を分けるラインが数字で見える。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
固定費
売上がゼロでも発生する売上に連動しないコストを指す。家賃、正社員の人件費、リース料、保険料などが該当する。
変動費
売上に比例して増減する販売量に連動するコストのこと。原材料費、仕入原価、外注費、販売手数料などが該当する。
限界利益
売上から変動費を引いた固定費回収に充てられる利益のこと。1個あたりの限界利益が大きいほど、少ない販売数で損益分岐点に到達する。
限界利益率
売上に対する限界利益の割合のこと。限界利益率が高いほど固定費を回収しやすいビジネスモデルであることを示す。
安全余裕率
実際の売上が損益分岐点をどれだけ上回っているかの比率である。安全余裕率が高いほど経営の安定性が高い。20%以上が望ましい。

損益分岐点分析の全体像
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固定費と変動費を分けて「生存ライン」を算出する
固定費家賃・人件費・リース料売上がゼロでも発生する毎月必ずかかるコスト変動費原材料費・仕入・外注費売上に比例して増える売れた分だけかかるコスト損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率限界利益 = 売上 − 変動費この数字を超えれば黒字、下回れば赤字→ 値上げ・固定費削減・変動費低減のシミュレーションで最適解を探る
損益分岐点分析の実施ステップ
1
コストを分類
全コストを固定費と変動費に分ける
2
分岐点を計算
固定費÷限界利益率で算出
3
シナリオ分析
値上げ・コスト削減の効果を検証
意思決定に活用
最も効果的な施策を実行

こんな悩みに効く
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  • 新しいビジネスを始めたいが、何個売れば元が取れるかわからない
  • 値下げを検討しているが、利益への影響が読めない
  • 固定費が重く、いくら売れば黒字になるのか不安

基本の使い方
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ステップ1: コストを固定費と変動費に分ける

すべてのコストを2つに分類する。

固定費(売上がゼロでもかかるコスト):

  • 家賃、人件費(固定給部分)、リース料、保険料
  • 減価償却費、ソフトウェア利用料

変動費(売上に比例して増えるコスト):

  • 原材料費、仕入原価、外注費
  • 販売手数料、配送料、歩合給

例: カフェの場合

  • 固定費: 家賃30万円 + 人件費50万円 + その他20万円 = 月100万円
  • コーヒー1杯あたりの変動費: 原材料100円 + カップ代20円 = 120円
ステップ2: 損益分岐点を計算する

公式はシンプル。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率 損益分岐点販売数 = 固定費 ÷ 1個あたりの限界利益

限界利益 = 売上 − 変動費 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上

例: コーヒー1杯500円、変動費120円の場合

  • 限界利益 = 500円 − 120円 = 380円
  • 損益分岐点 = 100万円 ÷ 380円 = 約2,632杯/月
  • 1日あたり(30日営業): 約88杯/日

月に2,632杯売れば赤字にならない。これが生存ライン。

ステップ3: シミュレーションで意思決定に活かす

損益分岐点がわかったら、さまざまなシナリオを検証する。

値上げした場合:

  • 550円に値上げ → 限界利益430円 → 損益分岐点 約2,326杯(306杯減)

固定費を削減した場合:

  • 家賃を5万円削減 → 固定費95万円 → 損益分岐点 約2,500杯(132杯減)

変動費を下げた場合:

  • 原材料を10円削減 → 限界利益390円 → 損益分岐点 約2,564杯(68杯減)

どの施策が最も効果的かが数字で比較できる。 この場合は値上げの効果が最も大きい。

具体例
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例1:カフェオーナーが値上げと原価削減の効果を比較する

前提条件:

  • コーヒー1杯500円、変動費120円、限界利益380円
  • 月間固定費100万円、現在の月間販売数3,000杯
  • 現在の月間利益: 3,000杯 × 380円 − 100万円 = 14万円

施策A: 50円値上げ(550円):

  • 新限界利益: 430円
  • 客数10%減を想定: 2,700杯
  • 月間利益: 2,700 × 430 − 100万 = 16.1万円(+2.1万円)

施策B: 原材料を20円削減:

  • 新限界利益: 400円
  • 客数変化なし: 3,000杯
  • 月間利益: 3,000 × 400 − 100万 = 20万円(+6万円)

施策Bの方が月間利益への貢献が大きい。ただし品質低下のリスクがあるため、客の満足度を確認しながら進める必要がある。

例2:フリーランスエンジニアが最低稼働時間を算出する

前提条件:

  • 固定費(月額): オフィス代5万円 + ツール代2万円 + 保険料3万円 + 生活費25万円 = 月35万円
  • 時間単価: 5,000円
  • 変動費(1時間あたり): 交通費・消耗品で約500円
  • 1時間あたりの限界利益: 5,000円 − 500円 = 4,500円

損益分岐点:

  • 35万円 ÷ 4,500円 = 約78時間/月
  • 月20営業日とすると 1日約4時間

余裕を持たせるなら:

  • 目標稼働: 月100時間(1日5時間)
  • 月収: 100時間 × 4,500円 = 45万円
  • 利益: 45万円 − 35万円 = 月10万円の黒字

「最低でも月78時間の稼働が必要」と明確になった場合、単価を6,000円に引き上げたら分岐点はどう変わるだろうか。

例3:SaaSスタートアップが月間必要ユーザー数を逆算する

前提条件:

  • 月額サブスクリプション: 980円/ユーザー
  • 月間固定費: サーバー30万円 + 人件費200万円 + オフィス20万円 = 月250万円
  • 1ユーザーあたりの変動費: サポートコスト80円 + 決済手数料30円 = 110円
  • 1ユーザーあたりの限界利益: 980円 − 110円 = 870円

損益分岐点:

  • 250万円 ÷ 870円 = 約2,874ユーザー/月

現在のユーザー数が1,500名の場合:

  • 安全余裕率: (1,500 − 2,874) / 2,874 = −48%(まだ赤字)
  • 黒字化まであと約1,374ユーザーの獲得が必要

月間ユーザー獲得数が200名/月なら、黒字化まで約7ヶ月。この数字を投資家に示すことで、資金調達の説得力が格段に上がる。

やりがちな失敗パターン
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  1. 固定費と変動費の分類を間違える — 人件費の一部(残業代、歩合)は変動費。分類が曖昧だと損益分岐点の計算が狂う。 迷ったら「売上がゼロでも発生するか?」で判断する
  2. 損益分岐点ギリギリで安心する — 分岐点を超えただけでは利益は微小。分岐点の1.2〜1.5倍の売上を目標にして、初めて健全な経営になる
  3. 一度計算して終わりにする — コストや価格は変動する。毎月または四半期ごとに再計算し、環境変化に対応する
  4. 値下げの影響を過小評価する — 10%の値下げは限界利益率を大幅に悪化させる。値下げ前に必ず損益分岐点を再計算し、必要な販売数増加を確認する

まとめ
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損益分岐点分析は、固定費と変動費を分けて 「赤字と黒字の境目」 を明確にする手法。新規事業の採算性判断、価格設定、コスト削減の効果検証など、あらゆる経営判断の土台になる。計算は簡単なので、ビジネスを始める前に必ずやっておこう。「何個売れば生き残れるか」 を知っているだけで、経営の意思決定が格段にシャープになる。