ビルド vs バイ判断フレームワーク

英語名 Build vs Buy Framework
読み方 ビルド バーサス バイ フレームワーク
難易度
所要時間 30分〜1時間
提唱者 ソフトウェア工学一般
目次

ひとことで言うと
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ある機能やシステムを「自前で開発する(Build)」か「既存の製品・サービスを買う(Buy)」かを、コスト・戦略・リスクの観点から判断するフレームワーク。「作れるから作る」という罠を避けるための思考法。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Build(ビルド)
必要な機能やシステムを自社で開発する選択肢。カスタマイズ性は高いが、開発・保守コストを自社で負担する。
Buy(バイ)
既存のSaaS・パッケージ・OSSを購入・導入する選択肢。初期コストは低いが、カスタマイズに制約がある。
TCO(Total Cost of Ownership)
初期費用だけでなく、運用・保守・移行・廃棄まで含めた総保有コストを指す。Build vs Buyの比較では5年間で算出するのが一般的。
Core Domain(コアドメイン)
自社の競争優位の源泉となる領域のこと。ここは自前で作るべきという判断基準になる。
Commodity(コモディティ)
差別化要因にならない汎用的な機能。認証・決済・メール送信などが典型例で、Buy寄りの判断になりやすい。

ビルド vs バイ判断の全体像
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Build vs Buy:判断軸と意思決定フロー
判断軸1:競争優位に関わるか?Core Domain → Build寄りCommodity → Buy寄り「これで勝つのか?」が判断基準判断軸2:5年間TCOは?Build: 開発+運用+保守コストBuy: ライセンス+カスタマイズ+連携隠れコストを見逃さない追加の判断要素チームのスキル | 市場投入速度 | ベンダーロックイン | セキュリティ要件 | 規制対応これらを加味して最終判断Build(自前開発)完全なカスタマイズ性知的財産の保持長期的なコスト優位の可能性リスク: 開発遅延・保守負荷Buy(外部導入)即座に利用開始ベンダーが保守を担当業界のベストプラクティス内蔵リスク: ベンダー依存・制約
Build vs Buy 判断の進め方フロー
1
Core/Commodity判定
その機能は競争優位の源泉か、汎用機能か
2
TCO比較
5年間の総保有コストを両方で試算する
3
リスク評価
ベンダーロックイン・セキュリティ・スキル等を加味
意思決定
Build / Buy / Hybrid のいずれかを選択

こんな悩みに効く
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  • 「エンジニアがいるから何でも自前で作る」文化が染みついていて、SaaS導入を検討できない
  • 逆にSaaSを入れすぎて、ツール間の連携コストが膨大になっている
  • 内製か外注かの判断が属人的で、毎回議論が紛糾する

基本の使い方
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Core Domain かどうかを判断する

「この機能は自社の競争優位に直結するか?」を問う。Yesなら Build寄り、Noなら Buy寄り。

  • 検索アルゴリズムが売りのメディア → 検索エンジンは Core(Build)
  • 同じ会社の請求管理 → Commodity(Buy: Stripe等)
5年間のTCOを両方で試算する
Buildの場合は開発工数・インフラ・運用・採用コストを、Buyの場合はライセンス料・カスタマイズ・連携開発・移行コストを積み上げる。隠れコストを見逃さない。
追加のリスク要素を評価する
  • ベンダーロックイン: 乗り換えコストはどの程度か
  • セキュリティ・コンプライアンス: 規制要件を満たせるか
  • 市場投入速度: Buyならいつから使えるか、Buildだと何ヶ月かかるか
  • チームスキル: 自前開発できるスキルセットがあるか

具体例
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例1:SaaSスタートアップが認証基盤の内製をやめる

従業員30名のBtoB SaaS。セキュリティ意識の高いCTOが認証基盤を内製していたが、2名のエンジニアが保守に専念しており、MFA対応やSSO連携の要望に追いつけなくなっていた。

TCO比較(5年間)

項目Build(現状の内製)Buy(Auth0)
開発・保守の人件費約7,500万円0円
ライセンス料0円約2,400万円
連携・移行コスト0円約500万円
5年間TCO約7,500万円約2,900万円

認証はCore Domainではなく、Auth0に移行。浮いた2名のエンジニアをコアプロダクトの開発に回した結果、新機能のリリース速度が 月1回 → 月3回 に改善。

例2:製造業がMES(製造実行システム)を内製する

従業員500名の精密部品メーカー。市販のMESを3つ検討したが、自社の特殊な品質管理工程(検査項目200以上、工程間フィードバック)に対応できるものがなかった。

判断のポイント

  • 品質管理プロセスは同社の Core Domain(この精度が競争優位)
  • 市販MESのカスタマイズ見積もりが新規開発並みのコスト
  • 社内にPLC制御と業務システム開発ができるチームが既にいる

5年間TCOはBuild 8,000万円 vs Buy+カスタマイズ 1.2億円 で、Buildに決定。開発した自社MESは工程間フィードバックの自動化により不良率を 2.3% → 0.8% に低減させた。

例3:急成長フィンテックがハイブリッドで最適解を見つける

シリーズBの決済フィンテック。決済処理エンジンは当然Buildだが、不正検知もBuildすべきかで議論が分かれた。

スコアリングで判断。

評価軸決済エンジン不正検知
Core Domain?最重要重要だが本業ではない
市場に代替あるか?なしSift, Stripe Radar等
社内スキルある機械学習人材が不足
市場投入速度既に稼働中Buyなら2週間、Buildなら6ヶ月

決済エンジンはBuild維持、不正検知はStripe RadarをBuyし、判定ルールのチューニングだけを自前で行うHybrid方式に。不正検知のリリースが 6ヶ月前倒し になり、不正損失率は初月から 0.3% → 0.08% に改善した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 「作れるから作る」で判断してしまう — エンジニアリングチームの能力ではなく、ビジネス上の価値で判断する。Commodityを内製するのは競争優位を生まないリソースの浪費
  2. TCOの隠れコストを見逃す — Buildの場合は「退職リスク」「採用コスト」「技術負債の蓄積」、Buyの場合は「データ移行」「API連携の保守」「値上げリスク」を含めて計算する
  3. 一度決めたら見直さない — 事業フェーズやチーム規模が変われば最適解も変わる。年に1回はBuild/Buyの妥当性を再評価する
  4. Build or Buyの二択で考える — Hybridという第三の選択肢がある。コア部分だけBuildして周辺をBuyするのが多くの場合で最適解になる

まとめ
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Build vs Buy判断は「Core DomainかCommodityか」を最初に問い、TCOと追加リスク要素を加味して結論を出すフレームワーク。Core Domainは自前で作り、Commodityは買う。判断に迷ったらHybridという選択肢も検討する。重要なのは 「作れるかどうか」 ではなく 「作るべきかどうか」 で判断すること。事業フェーズの変化に応じて定期的に見直す習慣も欠かせない。