ひとことで言うと#
ボイスは「ブランドの人格」、トーンは「場面に応じた声色」。ボイスは常に一貫し、トーンは文脈で変わる。この区別を明確にし、ガイドラインとして言語化することで、誰が書いても「そのブランドらしい」文章が生まれる。
押さえておきたい用語#
- ボイス(Voice)
- ブランドの一貫した人格・キャラクターのこと。「親しみやすい」「専門的だが威圧しない」など、場面によって変わらない土台。
- トーン(Tone)
- 同じボイスでも場面に応じて変わる声色・テンションを指す。成功画面では明るく、エラー画面では落ち着いたトーンになる。
- UXライティング
- UI上のボタンラベル、エラーメッセージ、通知文など、ユーザー体験に直接影響する短いテキストを設計する専門領域。
- コンテンツスタイルガイド
- 表記ルール(漢字/ひらがな、敬体/常体など)とボイス&トーンを一冊にまとめた社内ドキュメント。Mailchimpのガイドが業界標準として知られる。
ボイス&トーン・フレームワークの全体像#
こんな悩みに効く#
- プロダクト内の文言が人によってバラバラ(ですます調と常体が混在)
- エラーメッセージが冷たく、ユーザーの離脱につながっている
- ブランドの「らしさ」を言語化できず、外部ライターに依頼しにくい
基本の使い方#
「自分たちのブランドを人に例えたら?」と考える。
- 例:「親しみやすく、誠実で、少しウィットがある」
- 対義語も添えると明確になる:「カジュアルだが軽薄ではない」「専門的だが威圧しない」
- チームで議論し、全員が同意できる定義にする
UIの中で言葉が出てくるすべての場面をリストアップする。
- 成功(登録完了、購入完了、目標達成)
- エラー(入力ミス、システム障害、権限エラー)
- 待機(読み込み中、処理中)
- 初回(オンボーディング、チュートリアル)
- 離脱防止(カゴ落ち、解約確認)
各場面で以下の軸を設定する。
- テンション: 高い(祝福)↔ 低い(冷静)
- ユーモア: OK ↔ NG
- 敬語レベル: カジュアル ↔ フォーマル
- 情報量: 詳細 ↔ 簡潔
- 各場面に「良い例」と「悪い例」をセットで記載する
具体例#
状況: MAU 15万の家計簿アプリ。エラー発生時の問い合わせが月 420件。CSチームが対応に追われていた。
ボイスの定義: 「頼れる家計の相談相手。専門的だけど偉そうじゃない。不安なときほど優しく」
Before → After:
| 場面 | Before | After |
|---|---|---|
| 銀行連携失敗 | 「Error: Connection refused」 | 「銀行との接続がうまくいきませんでした。30分後にもう一度お試しください」 |
| カテゴリ未設定 | 「カテゴリを設定してください」 | 「どのカテゴリに入れましょうか?よく使うのは食費・日用品です」 |
| 残高不足アラート | 「残高が設定額を下回りました」 | 「今月の残高が目標を下回りそうです。一緒に確認してみましょう」 |
エラー関連の問い合わせは月 420件 → 190件 に減少。特に銀行連携エラーの問い合わせが 70%減 となり、CSチームの工数が月 40時間 削減された。
状況: 従業員200名のプロジェクト管理SaaS。オンボーディング画面の文言を3人のPMが別々に書いていたため、ある画面は「ですます調」、次の画面は「だ・である調」、さらにボタンが「次へ」「続ける」「Next」と混在。トライアル→有料転換率は 18%。
ボイスの定義: 「プロジェクトの伴走者。フレンドリーだが仕事の邪魔はしない。簡潔で、次にやることが明確」
ボイス&トーンガイドから策定したルール:
- 全画面「ですます調」で統一
- ボタンは「動詞+結果」(「プロジェクトを作成する」「チームを招待する」)
- 説明文は2行以内。3行以上は「詳しく見る」リンクに逃がす
- オンボーディング中のトーンは「応援するコーチ」(テンション中〜高、ユーモア軽めOK)
ガイド適用後のA/Bテストで、文言統一版のトライアル→有料転換率は 18% → 24%。「何をすればいいか迷わなくなった」というフィードバックが増加した。
状況: 創業90年の温泉旅館(客室数30)。Webサイトは制作会社が書いたビジネス調、館内の案内は女将の手書きで和風、SNSはアルバイトがカジュアルに投稿。チャネルごとにまったく異なる印象で、常連客から「Webと実際の雰囲気が違う」と指摘を受けていた。
ボイスの定義: 「温かく迎え入れる女将のような存在。丁寧だけど堅苦しくない。お客様を家族のように気遣う」
トーンの場面別設定:
| チャネル | トーン | 例 |
|---|---|---|
| Webサイト | 丁寧・安心感 | 「四季折々の景色とともに、ゆったりとお過ごしください」 |
| 予約確認メール | 温かく具体的 | 「お待ちしております。お部屋は川沿いの『椿の間』をご用意しました」 |
| SNS | 親しみ・季節感 | 「今朝の露天風呂、紅葉が水面に映ってきれいでした」 |
| 館内案内 | 手書き風・優しく | 「大浴場は右手奥でございます。タオルはお部屋からお持ちくださいね」 |
ガイドを作成し、Web制作会社・SNS担当・フロントスタッフに共有。1年後のリピート宿泊率は 34% → 42% に上昇。「Webで見た印象と実際が一致していて安心した」という口コミが増えた。
やりがちな失敗パターン#
- ボイスとトーンを区別しない — 「うちのトーンは明るく」だけだと、エラー画面でも明るくしてしまう。ボイス(常に一貫)とトーン(場面で変わる)を分けて定義する
- ガイドを作って満足し、運用しない — 作った翌週から誰も参照しないケースが多い。デザインレビューのチェックリストに入れる、Figmaのテンプレートに組み込むなど、仕組みで定着させる
- 「良い例」しか書かない — 「悪い例」がないと境界線がわからない。各場面に「こう書く/こう書かない」をセットで記載する
- 全員が同意しないまま進める — PM、デザイナー、エンジニア、CSがそれぞれ違う「ブランドらしさ」を持っていると、ガイドが形骸化する。定義段階でチーム全員を巻き込む
まとめ#
ボイス&トーン・フレームワークは、ブランドの言葉遣いを 「人格(ボイス)+場面(トーン)」 で体系化する手法。ボイスを3〜5語で定義し、場面ごとにトーンを設定し、良い例・悪い例をセットで記載する。言葉はUIの一部であり、ボタン1つの文言がコンバージョンを左右することもある。