ユーザーリサーチ手法

英語名 User Research Methods
読み方 ユーザー リサーチ メソッズ
難易度
所要時間 1〜4週間(1リサーチサイクル)
提唱者 認知心理学・人間工学・エスノグラフィーを基盤としたUXリサーチの体系化(1990年代〜)
目次

ひとことで言うと
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「ユーザーのことはユーザーに聞く」を体系化したリサーチ手法のフレームワーク。インタビュー・アンケート・観察・テストなど多様な手法を、目的とフェーズに合わせて選択・実施する。勘や経験だけでデザインするのではなく、ユーザーの実際の行動とニーズに基づいた意思決定を可能にする。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
デプスインタビュー
ユーザーと1対1で60分程度対話し、行動の背景にある動機・感情・文脈を深掘りする質的調査手法。
エスノグラフィー
ユーザーの生活や業務の現場に入り込んで観察する調査手法。言葉にならないニーズを発見できる。
ユッテランス(Utterance)
ユーザーが実際に発した言葉そのもの。解釈を加えず記録し、インサイト抽出の原材料とする。
三角測量(トライアンギュレーション)
複数の手法(インタビュー+観察+データ分析など)を組み合わせて発見の信頼性を高めるアプローチ。
親和図法(KJ法)
調査で得た発見を付箋に書き出し、類似するものをグルーピングしてパターンを見出す分析手法。

ユーザーリサーチ手法の全体像
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質的×量的・態度×行動の2軸で手法を分類し、フェーズに応じて使い分ける
発見課題を見つけるデプスインタビューフィールド観察5〜8人定義課題を深掘りする日記調査コンテキスチュアル調査5〜10人設計アイデアを検証ユーザビリティテストカードソート5人評価効果を測定するA/Bテストアンケート100人以上質的(なぜ)× 量的(どれくらい)態度(何を言うか)× 行動(何をするか)5人テストで問題の85%が見つかる
ユーザーリサーチの進め方
1
リサーチの問いを立てる
「何がわかれば判断できるか」を逆算
2
手法を選び実施する
フェーズに合った質的/量的手法を選択
3
親和図法で分析する
観察事実→解釈→デザイン示唆を抽出
4
アクションにつなげる
発見→実装→再検証のループを回す

こんな悩みに効く
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  • ユーザーが何に困っているか、推測でしか判断できていない
  • リサーチが大事だとは思うが、何をどうやればいいかわからない
  • ステークホルダーに「なぜこのデザインなのか」を説明できない

基本の使い方
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ステップ1: リサーチの目的を明確にする

リサーチは手法を選ぶ前に「何を知りたいか」を明確にすることが最重要。

リサーチの問いの例:

悪い問い良い問い
ユーザーは満足しているか?ユーザーがタスク完了を諦める瞬間はどこか?
この機能は必要か?ユーザーはこの課題をどう解決しているか?
デザインAとBどっちがいい?どちらのデザインでタスク完了率が高いか?

「何がわかればデザイン判断ができるか」を逆算して問いを立てる。

ステップ2: 目的に合った手法を選ぶ

リサーチ手法は2軸で分類できる。

2軸の分類:

態度(何を言うか)行動(何をするか)
質的(なぜ)デプスインタビュー、日記調査ユーザビリティテスト、フィールド観察
量的(どれくらい)アンケート、NPSA/Bテスト、アクセス解析

フェーズ別の推奨手法:

フェーズ目的推奨手法参加者数
発見課題を見つけるデプスインタビュー、フィールド観察5〜8人
定義課題を深掘りする日記調査、コンテキスチュアルインクワイリー5〜10人
設計アイデアを検証するユーザビリティテスト、カードソート5人
評価効果を測定するA/Bテスト、アンケート100人以上
ステップ3: 主要手法の実施ポイントを押さえる

最も使用頻度が高い3つの手法の実施ポイント。

デプスインタビュー(1対1、60分):

  • オープンクエスチョンで聞く(「はい/いいえ」で終わらない質問)
  • 「なぜ?」「具体的には?」で深掘りする
  • 誘導質問を避ける(「この機能便利ですよね?」はNG)
  • 過去の実体験を聞く(「普段どうしていますか?」>「どうしたいですか?」)

ユーザビリティテスト(1対1、30〜60分):

  • 具体的なタスクを設定(「商品を検索して購入してください」)
  • 操作中は教えない、助けない
  • 思考発話法: 「考えていることを声に出してください」
  • 5人テストで問題の85%が見つかる

アンケート(オンライン、5〜10分):

  • 質問数は15問以内(脱落率と相関)
  • 選択式 + 自由記述を組み合わせる
  • 回答バイアスを減らす質問設計(選択肢の順番をランダム化)
  • 100人以上の回答で統計的に意味のある結果に
ステップ4: リサーチ結果をアクションにつなげる

リサーチの価値は「発見」ではなく「アクション」にある。

分析→共有→実行のフロー:

  1. 親和図法(KJ法)で分析: 発見事項を付箋に書き出し、グルーピング
  2. インサイトを抽出: 観察事実 → 解釈 → デザイン示唆
  3. レポートを作成: 発見事項トップ5 + 推奨アクション(1ページサマリー + 詳細)
  4. チームに共有: ハイライトリールの動画(ユーザーの「困っている瞬間」を集めた3〜5分の動画が最も効果的)

インサイトの書き方:

要素
観察事実5人中4人が設定画面でスクロールせずに戻った
解釈重要な設定項目がスクロール下部にあり、見つけられていない
デザイン示唆使用頻度が高い設定項目を上部に移動する

「ユーザーはこう言っていた」ではなく「だからこうすべき」まで言語化する。

具体例
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例1:SaaS管理画面の5人インタビューでオンボーディング離脱率を62%から23%に改善

状況: BtoB SaaS(プロジェクト管理ツール)の無料トライアル。登録はあるが、初期設定の完了率が38%と低い。チーム内では「機能が足りないから」と推測していた。

実施したリサーチ: デプスインタビュー5名 + 操作観察(思考発話法)

発見:

  • 5人中4人が「最初に何をすればいいかわからない」と発言
  • 5人中3人がプロジェクト作成画面で「テンプレートがない」ことに戸惑った
  • 5人中5人が設定項目の多さに圧倒されていた(初期設定画面に23項目)

アクション:

  • 初回ログイン時にステップ形式のセットアップウィザードを追加(5ステップ)
  • 業種別テンプレートを3種類用意
  • 初期設定を必須3項目+任意20項目に分離
指標BeforeAfter変化
初期設定完了率38%77%+39pt
7日後の継続利用率22%51%+29pt
有料転換率8%14%+6pt

問題は「機能不足」ではなく「最初の体験の悪さ」だった。5人のインタビューで仮説が覆り、開発の優先順位が変わった。

例2:飲食チェーンのフィールド観察でモバイルオーダーの利用率を3倍にする

状況: 全国120店舗の飲食チェーン。モバイルオーダーアプリを導入したが利用率が12%にとどまる。「UIが悪い」と改修を繰り返すが改善しない。

実施したリサーチ: 3店舗でのフィールド観察(各店舗2時間、計30組を観察)+ 利用者5名のデプスインタビュー

発見:

  • 来店客の68%がアプリの存在を知らなかった(店内の告知がPOPの1枚のみ)
  • アプリを知っている客の42%が「席に着いてから注文したい」と回答(入口でのQRコード読み取りが面倒)
  • 店員に聞いたほうが「おすすめ」が聞けるので対面を選ぶ客が35%

アクション:

  • テーブルにQRコード付きテントカードを設置(席からオーダー可能に)
  • アプリに「店員おすすめ」バッジと季節メニュー特集を追加
  • 初回利用で100円引きクーポンをテーブルカードに印刷
指標BeforeAfter(3ヶ月後)変化
モバイルオーダー利用率12%38%3.2倍
平均注文単価820円910円+11%
店員のオーダー対応時間1日あたり計4.2時間2.1時間-50%

UIの改修を何度繰り返しても効果がなかった理由は、問題がUIではなく「認知」と「タイミング」にあったから。現場の観察で初めて見えた。

例3:自治体の窓口業務をエスノグラフィーで調査し、オンライン申請率を8%から41%に引き上げる

状況: 人口15万人の地方自治体。オンライン申請システムを導入したが利用率8%。「高齢者が多いから仕方ない」と諦めムード。

実施したリサーチ: 窓口に3日間張り込み(エスノグラフィー)、来庁者20名にミニインタビュー(各5分)、オンライン申請の離脱ログ分析

発見:

  • 来庁者の55%が「オンラインでできることを知らなかった」
  • オンラインを試みた人の72%が「マイナンバーカードの読み取り」でエラーになり諦めていた
  • 20〜40代の来庁者の80%が「職場を抜けて来るのがつらい」と回答
  • 高齢者の窓口対応の平均待ち時間は47分

アクション:

  • 窓口で「次回はオンラインで」のチラシ配布(QRコード付き、手順を4コマで図解)
  • マイナンバーカード不要の簡易認証(SMS認証)を5手続きに導入
  • 市役所ロビーに「オンライン申請お試しコーナー」を設置(職員がサポート)
指標BeforeAfter(6ヶ月後)変化
オンライン申請率8%41%5.1倍
窓口の平均待ち時間47分18分-62%
住民満足度(5段階)2.84.1+1.3

「高齢者が多いから」は思い込みだった。実際には20〜40代の利用率も低く、原因は認知不足と技術的障壁にあった。現場に行かなければ見えなかったファクト。

やりがちな失敗パターン
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  1. リサーチなしでデザインして後から「検証」する — 検証は確認バイアスに陥りやすい(自分のデザインを肯定する証拠を探してしまう)。デザイン前の「発見」リサーチこそ最も価値が高い
  2. ユーザーの「意見」を鵜呑みにする — 「こういう機能がほしい」は解決策の要望であり、本当の課題ではないことが多い。行動を観察し、意見の裏にある課題を読み取る
  3. リサーチ結果をレポートして終わり — 素晴らしいレポートが共有フォルダに眠る。発見→アクション→実装→再検証のループを回す仕組みを作る
  4. 完璧なリサーチを追求して始められない — 「統計的に有意なサンプル数」にこだわり何ヶ月もかかる。5人のインタビューを1週間で実施する方が、100人のアンケートを3ヶ月後に実施するよりはるかに価値がある

まとめ
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ユーザーリサーチ手法は、ユーザーの行動・ニーズ・課題を体系的に調査するフレームワーク。質的/量的、態度/行動の2軸で手法を分類し、目的とフェーズに合わせて選択する。最も重要なのは 「何を知りたいか」 を明確にすることと、発見をアクションにつなげること。5人のユーザビリティテストで問題の85%が見つかる——小さく始めて繰り返すのがリサーチ成功の鍵。