押さえておきたい用語
- オッカムの剃刀: 同じ結果を説明できるなら、より単純な仮説(解決策)を選ぶべきという原則
- 認知負荷: ユーザーがUIを理解・操作するために必要な精神的コスト
- ヒックの法則: 選択肢の数が増えるほど意思決定に時間がかかるという法則
- KISS原則: “Keep It Simple, Stupid” — シンプルに保つことを優先する設計哲学
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現状の棚卸し
画面上のすべての要素をリストアップ → 要素の必要性判定
こんな悩みに効く#
- 「機能は揃っているのにユーザーが操作を完了できない」
- 「画面の情報量が多すぎて何を見ればいいか分からないと言われる」
- 「新機能を追加するたびにUIが複雑になっていく」
使い方#
画面の全要素を棚卸しする
対象画面のすべてのUI要素(ボタン、リンク、テキスト、画像、アイコン、ラベル)をリストアップする。多くの画面で、要素数が想定以上に多いことに気づく。
各要素に「削除テスト」をかける
各要素について「これがなくてもユーザーはタスクを完了できるか」を問う。完了できるなら削除候補とする。また「この情報はこのタイミングで必要か」を問い、後で見せても問題なければ初期表示から外す。
段階的に削減する
一度に大幅に変えるのではなく、段階的に要素を減らしA/Bテストで効果を確認する。認知負荷の軽減がコンバージョン改善につながっているかを数値で検証する。
残った要素を磨く
削減後に残った要素は、表現をさらに洗練させる。ラベルを短くする、アイコンを統一する、色数を減らす。少ない要素でより多くを伝える工夫がシンプルさの本質だ。
具体例#
SaaS — サインアップフォームの簡素化
状況: サインアップフォームに8つの入力フィールドがあり、完了率が34%と低かった。
適用プロセス:
- 全8フィールドを棚卸し:メール、パスワード、名前、会社名、部署、電話番号、業種、従業員数
- 「アカウント作成に必須か」で判定。メールとパスワードの2つだけが必須。残りはオンボーディング後に収集可能
- フォームをメール+パスワードの2フィールドに削減し、残りは初回ログイン時のプロフィール設定に移動
成果: サインアップ完了率が34%→71%に倍増。プロフィール情報も、初回設定時に78%のユーザーが入力完了しており、データ収集量はほぼ変わらなかった。
業務アプリ — 承認画面のUI削減
状況: 経費承認画面に表示される情報が30項目あり、管理職が1件の承認に平均3分かかっていた。未承認の山が溜まり、経費精算の遅延が常態化。
適用プロセス:
- 管理職8名にインタビューし、承認判断に実際に見ている項目を特定。「金額」「申請者」「用途」「領収書画像」の4項目で90%の判断が完了していた
- 初期表示をこの4項目に絞り、残り26項目は「詳細を表示」で展開する設計に変更
- 承認/却下ボタンも画面下部に固定配置
成果: 1件あたりの承認時間が3分→40秒に短縮。未承認案件の平均滞留日数が4.2日→0.8日になり、月末の経費精算遅延が解消された。
ECサイト — 商品カテゴリナビゲーションの整理
状況: トップページのグローバルナビゲーションに28カテゴリが並び、ユーザーの72%が検索バーを使って直接商品を探していた。ナビからの回遊率が8%と極めて低い。
適用プロセス:
- 28カテゴリの売上構成を分析。上位7カテゴリで全売上の83%を占めていた
- グローバルナビを上位7カテゴリに絞り、残り21カテゴリは「すべてのカテゴリ」メニューに格納
- ナビ上にセール・新着のハイライトも追加
成果: ナビからの回遊率が8%→22%に向上。選択のパラドックスが解消され、平均閲覧カテゴリ数が1.3→2.1に増加。結果として客単価が15%上昇した。
うまくいかないパターン#
| パターン | 問題点 | 対処法 |
|---|---|---|
| 機能の削除と混同 | 機能を削ると上級ユーザーが離脱する | 非表示にして段階的開示する。削除ではない |
| デザイナーの美学で削減 | ユーザーにとっては必要な情報まで削ってしまう | 利用データとユーザーテストで判断する |
| 一度に全部変える | 何が効果をもたらしたか特定できない | 段階的に変更しA/Bテストで検証 |
| テキストだけ削減 | 視覚的ノイズ(装飾、色、線)も認知負荷の原因 | テキスト・ビジュアル両面で不要な要素を削る |
まとめ#
オッカムの剃刀をデザインに適用する本質は 「足し算ではなく引き算で課題を解決する」 姿勢だ。ユーザーの認知負荷を減らすことは、操作の速度・正確性・満足度すべてに好影響を与える。ただし「シンプル」と「不足」は紙一重であり、データに基づいて 「何を残すか」 を判断することがこの原則を正しく運用するための条件になる。