ジャーニーマッピング

英語名 Journey Mapping
読み方 ジャーニー マッピング
難易度
所要時間 3〜6時間
提唱者 サービスデザイン分野の一般的手法
目次

ひとことで言うと
#

ユーザーがサービスと出会ってから目的を達成するまでの体験を、時系列で1枚のマップにまとめる手法。各フェーズでの行動・思考・感情を可視化することで、「どこでユーザーが困っているか」が一目でわかる。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
タッチポイント(Touchpoint)
ユーザーとサービスが接触する瞬間や場所のこと。広告、Webサイト、アプリ、メール、カスタマーサポートなどが該当する。
ペインポイント(Pain Point)
ユーザーが体験の中でストレスや不満を感じる箇所のこと。感情曲線が下がっている箇所がペインポイントになる。
感情曲線(Emotion Curve)
各フェーズでのユーザーの気持ちの起伏を線グラフで表現したものを指す。体験のどこが「高揚」でどこが「落胆」かを可視化する。
ペルソナ(Persona)
リサーチに基づいて作成したターゲットユーザーの代表的な人物像である。1つのマップには1体のペルソナを設定する。

ジャーニーマッピングの全体像
#

ジャーニーマップの構造:行動・思考・感情を時系列で重ねる
認知広告・口コミでサービスを知る検討比較・レビューを確認する登録・購入フォーム入力決済手続き利用初回体験継続利用推奨口コミ紹介感情曲線ペインポイント行動各フェーズでユーザーが取る具体的な行動思考「他と何が違うんだろう?」「この入力欄、何を書けば?」改善機会感情が落ち込む箇所 = 改善のチャンス
ジャーニーマッピングの進め方フロー
1
ペルソナ設定
誰の・どんな体験を描くかを決める
2
フェーズ定義
時系列のフェーズとタッチポイントを整理
3
感情の記録
思考・感情・ペインポイントを書き込む
改善アクション
優先ポイントを特定し担当者と期限を決定

こんな悩みに効く
#

  • ユーザーの不満があるのは感じるが、具体的にどこが問題かわからない
  • 部門ごとに「ユーザー像」がバラバラで、改善の方向性が揃わない
  • 個々の画面は良くても、体験全体を通すとちぐはぐになっている

基本の使い方
#

ペルソナとシナリオを設定する

誰の、どんな体験を描くかを明確にする。

  • 対象ペルソナ:具体的なユーザー像(例:30代・共働き・週末にまとめ買いする主婦)
  • シナリオ:そのペルソナが達成したい目標(例:「週末の食材をネットスーパーで注文する」)
  • スコープ:どこからどこまでの体験を描くか(認知〜購入?購入後のサポートまで?)

1つのマップに複数ペルソナを詰め込まないこと。体験はペルソナごとに異なる。

フェーズを定義してタッチポイントを洗い出す

体験を時系列のフェーズに分け、各フェーズでの**接点(タッチポイント)**を特定する。

  • フェーズ例:認知 → 検討 → 登録 → 初回利用 → 継続利用 → 解約
  • タッチポイント例:広告、Webサイト、アプリ、メール、カスタマーサポート
  • ユーザーが実際に取る行動を具体的に書く(「Googleで検索する」「口コミサイトを読む」など)

実際のユーザーインタビューやアクセスログをもとにすると、想像だけのマップより格段に精度が上がる。

思考・感情・ペインポイントを記録する

各フェーズでユーザーが何を考え、どう感じているかを書き込む。

  • 思考:「他のサービスと何が違うんだろう?」「この入力欄、何を書けばいいの?」
  • 感情:嬉しい/不安/イライラ/安心 などを感情曲線で表現
  • ペインポイント:体験の中で特にストレスを感じる箇所をマークする

感情曲線が下がっている箇所=改善のチャンス。逆に上がっている箇所=強みとして強化できる。

改善機会を特定してアクションに落とす

マップ全体を俯瞰して優先的に改善すべきポイントを決める。

  • 感情が最も落ち込んでいるフェーズはどこか
  • 離脱が多いタッチポイントはどこか
  • 小さな改善で大きな効果が出そうな「ローハンギングフルーツ」はないか

改善アイデアをマップ上に直接書き込み、担当者と期限を決めてアクションにつなげる。

具体例
#

例1:フィットネスアプリの継続率を改善するジャーニーマップ

ペルソナ: 28歳・デスクワーク中心・運動不足を解消したい会社員

フェーズ行動思考感情
認知SNS広告を見る「自宅でできるならいいかも」やや興味
検討アプリストアでレビューを読む「無料プランで試せるのか」期待
登録アプリをDL、アカウント作成「質問多いな…」やや面倒
初回利用おすすめワークアウトを試す「動画がわかりやすい!」満足
1週間後通知が来るが開かない「忙しくて時間ない」罪悪感
1ヶ月後アプリを開かなくなる「結局続かなかった…」落胆

発見と改善:

  • 登録時の質問数が12問 → 必須3問に絞り、残りは利用開始後に段階的に聞く
  • 1週間後の継続率が低い → 5分でできるミニワークアウトを通知で提案
指標BeforeAfter変化
登録完了率68%89%+21pt
7日後の継続率32%51%+19pt
30日後の継続率14%28%2倍

30日後の継続率14%→28%。「罪悪感」という感情がヒントになった——データだけでは見えない離脱の理由を、ジャーニーマップが可視化した。

例2:BtoB SaaSの契約更新率を改善するジャーニーマップ

ペルソナ: 従業員150名の製造業・情報システム部門の担当者(38歳)

状況: 年間契約のクラウド勤怠管理サービス。契約更新率が68%と低い。解約理由アンケートでは「使いこなせなかった」が最多の42%。

フェーズ行動思考感情
導入決定上長の承認を得て契約「これで勤怠管理が楽になる」期待
初期設定マニュアルを見ながら設定「項目が多すぎる…」不安
展開社員にアカウントを配布「問い合わせが来すぎて対応しきれない」パニック
3ヶ月後基本機能のみ利用「高度な機能は結局使っていない」やや不満
更新時期コスト対効果を評価「使っている機能に対して高くないか?」懐疑的

改善施策:

  • 初期設定: 専任のCSが30分のオンボーディングコールを実施
  • 展開: 社員向けの説明動画テンプレートを提供
  • 3ヶ月後: 「使っていない便利機能TOP3」のパーソナライズドメールを送信
指標BeforeAfter変化
オンボーディング完了率52%88%+36pt
高度機能の利用率15%41%+26pt
年間契約更新率68%84%+16pt

契約更新率68%→84%。問題は「利用フェーズ」ではなく「導入直後のオンボーディング」にあった。時系列で可視化しなければ、この根本原因には辿り着けなかった。

例3:地方温泉旅館の宿泊体験を改善するジャーニーマップ

ペルソナ: 35歳・都内在住の夫婦。結婚5周年の記念旅行を計画中。

状況: 客室数18室の老舗温泉旅館。口コミ評価は「料理は最高だがサービスにムラがある」。リピート率が22%と低い。

フェーズ行動感情ペインポイント
予約旅行サイトで予約期待プラン名が分かりにくい
到着車で到着ワクワク駐車場の場所がわからず5分迷う
チェックインフロントで手続きやや面倒紙の記入が多い(10分)
部屋部屋に入る満足Wi-Fiパスワードが見つからない
夕食個室で懐石料理最高
温泉大浴場と露天風呂至福
チェックアウト精算して出発名残惜しい写真スポットがなくSNSに投稿できない

改善施策:

  • 駐車場の案内を予約確認メールに地図付きで記載
  • チェックインを事前Web入力で3分に短縮
  • Wi-Fiパスワードを部屋の案内カードに明記
  • チェックアウト時にフォトスポット(旅館の庭園)を案内
指標BeforeAfter変化
口コミ評価(5点満点)3.84.4+0.6
SNS投稿数(月間)12件48件4倍
リピート率22%38%+16pt

口コミ評価3.8→4.4、SNS投稿数4倍、リピート率**+16pt**。改善したのは料理でも温泉でもなく「到着からチェックインまでの小さな不便」。コストの低い改善ほど効果が大きかった。

やりがちな失敗パターン
#

  1. 想像だけで作ってしまう — 実際のユーザーデータやインタビューに基づかないマップは「チームの願望」を描いただけ。定性・定量データで裏付けること
  2. 作って終わりにする — ジャーニーマップは改善アクションに繋がって初めて意味がある。壁に貼って満足するのではなく、定期的に見直して更新する
  3. フェーズが粗すぎる or 細かすぎる — 「認知→利用→解約」の3フェーズでは粗すぎ、30フェーズでは情報過多。5〜8フェーズが扱いやすい
  4. 全部門の課題を1枚に詰め込む — マップが巨大になりすぎて誰も読まない。まず1つのペルソナ・1つのシナリオに絞り、小さく始める

まとめ
#

ジャーニーマッピングは、ユーザー体験を 「点」 ではなく「線」で捉えるための手法。個々の画面や機能を最適化しても、体験全体がスムーズでなければユーザーは離れていく。まずは1つのペルソナ・1つのシナリオで作成してみて、チーム全員で 「ユーザーの気持ち」 を共有するところから始めよう。