押さえておきたい用語
- グッドデザイン10原則: ディーター・ラムスが提唱した、優れたデザインが備えるべき10の条件
- レス・バット・ベター: 「より少なく、しかしより良く」。ラムスのデザイン哲学の核心
- 誠実なデザイン: 実際以上の価値や機能を約束しないデザイン。ユーザーを操作しない
- 長寿命デザイン: 流行に左右されず、長期間使い続けられるデザイン
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10原則の理解
各原則の意図と適用場面を把握 → 現状デザインの評価
こんな悩みに効く#
- 「デザインの良し悪しを評価する客観的な基準が欲しい」
- 「機能追加を重ねてプロダクトが肥大化してしまった」
- 「デザインチームで共通の価値観を持ちたい」
使い方#
10原則でデザインを採点する
各原則を5段階で採点し、現状のデザインの強みと弱みを可視化する。チーム全員が個別に採点し、スコアの差が大きい原則を議論する。認識のギャップそのものが改善のヒントになる。
最もスコアの低い原則に集中する
10原則を同時に改善するのは現実的でない。スコアが最も低い1〜2原則に絞り、具体的な改善施策を策定する。「控えめさ」が低いなら装飾の削減、「理解しやすさ」が低いなら情報設計の見直しが起点になる。
Less, but betterを判断基準にする
新機能の追加や要素の配置を検討するとき、「これを加えることでプロダクトはより良くなるか、それとも複雑になるだけか」を問う。追加よりも削除で改善できないかを先に検討する。
四半期ごとに再評価する
機能追加やリニューアルのたびに10原則で再評価する。特に「長寿命」「控えめ」「最小限」のスコアは放置すると下がりやすい。定期的な評価で品質の劣化を防ぐ。
具体例#
SaaS ダッシュボード — 情報過多の解消
状況: 3年間の機能追加でダッシュボードにウィジェットが18個並び、「何を見ればいいか分からない」とユーザーから苦情。利用頻度の低い機能にもスペースが割かれていた。
適用プロセス:
- 10原則で評価。「最小限」1点、「理解しやすさ」2点、「控えめ」2点と低スコア
- 利用データを分析し、全ユーザーの80%が使うウィジェットは5個だけと判明
- デフォルト表示を5個に絞り、残りは「追加」メニューに移動。「Less, but better」を徹底
成果: ダッシュボードの滞在時間が平均12分→6分に短縮(必要な情報に早く到達)。ユーザー満足度が5段階中2.8→4.2に向上した。
ECアプリ — 誠実さと透明性の強化
状況: 商品写真の加工が過度で、「届いた商品が写真と違う」というクレームが月200件。返品率が15%に達していた。
適用プロセス:
- 10原則で評価。「誠実」が1点。商品写真が実物以上に見せる加工が常態化していた
- 写真の加工基準を策定:色補正のみ許可、合成・過度なレタッチを禁止。「自然光で撮影した写真を最低1枚含む」をルール化
- 商品ページに「実物の色味に近い写真」タグを追加し、ユーザーレビュー写真を目立つ位置に配置
成果: 返品率が15%→7%に半減。クレーム件数は月200件→50件に減少し、リピート率が18%向上した。
業務システム — 長寿命デザインの適用
状況: 自治体の住民サービスシステムのUIが5年ごとのリニューアルのたびにトレンドを追い、職員が毎回操作を覚え直す負荷が問題になっていた。
適用プロセス:
- 10原則で評価。「長寿命」2点、「控えめ」2点。グラデーション・アイコンデザインが流行に左右されていた
- ビジュアルスタイルをフラットで装飾を排したデザインに統一。10年間変更しない「コアUI」を定義
- 変更可能な「テーマ層」をコアUIの上に設け、ブランドカラーのみ更新可能に
成果: リニューアル後の操作研修時間が平均3日→半日に短縮。5年間UIの基本構造を変更せずに運用でき、保守コストが年間40%削減された。
うまくいかないパターン#
| パターン | 問題点 | 対処法 |
|---|---|---|
| 10原則を同時に改善しようとする | リソースが分散して中途半端になる | 低スコアの1〜2原則に絞って順番に改善する |
| 「最小限」を機能削除と混同する | 必要な機能まで削ってしまう | 利用データで不要と確認してから削除する |
| 原則の字面だけで判断する | 「美しい=装飾的」と誤解する | 各原則の意図を理解し文脈に応じて解釈する |
| 評価して終わり | 課題の可視化だけで改善に着手しない | 評価結果を改善ロードマップに必ず落とし込む |
まとめ#
ラムスの10原則は「優れたデザインとは何か」を50年以上前に定義し、デジタルプロダクトの時代にも色あせていない。その核心は「Less, but better」――追加ではなく削減で価値を高める思想にある。10原則をチェックリストとして使い、定期的にプロダクトを評価することで、機能の肥大化を防ぎ、ユーザーが長く快適に使えるデザインを維持できる。