ダイアリースタディ

英語名 Diary Study
読み方 ダイアリー・スタディ
難易度
所要時間 2〜4週間(設計〜実施〜分析)
提唱者 社会科学の日記法(Diary Method)をUXリサーチに応用。1990年代から普及
目次
押さえておきたい用語
  • ダイアリースタディ: 参加者に一定期間、特定の体験を日記形式で記録してもらう縦断的な調査手法
  • エントリー(記録): 参加者が体験を記録する1回分の投稿。テキスト・写真・音声が含まれることもある
  • プロンプト: 参加者に記録を促すための質問やリマインダー
  • 縦断調査: 同じ対象を一定期間にわたって繰り返し観察する調査設計
1. 設計(1〜2日)調査テーマ設定記録方法の決定期間:1〜4週間参加者:10〜15名プロンプト作成記録ツール選定2. 実施(1〜4週間)参加者が日記を記録リサーチャーがモニタリング定期的なリマインダー中間チェックイン脱落防止の工夫追加質問の送付3. 分析(3〜5日)エントリーを時系列で分析しパターン抽出テーマコーディングタイムラインマッピングフォローアップインタビュー
1
テーマと期間の設定
何を知りたいか、どれくらいの期間観察するかを決定 → 参加者募集と記録方法説明

こんな悩みに効く
#

  • 「1回のユーザビリティテストでは長期利用の体験変化が見えない」
  • 「ユーザーが日常のどんな場面でプロダクトを使っているか分からない」
  • 「習慣形成やリテンションの課題を深く理解したい」

使い方
#

調査テーマと期間を設定する
「新規ユーザーが2週間でどのように使い方を変化させるか」のように、時間経過を伴うテーマを設定する。期間は1〜4週間が標準。短すぎると変化が見えず、長すぎると参加者が脱落する。
プロンプトと記録方法を設計する
参加者への質問(プロンプト)を5〜7個用意する。「今日このアプリを使った場面を教えてください」「何がうまくいき、何がうまくいきませんでしたか」のように、具体的かつオープンに。記録はスマホのフォームアプリ(dscout、Google Formsなど)が手軽だ。
実施中はモニタリングと励ましを行う
毎日エントリーを確認し、記録が途絶えている参加者にはリマインダーを送る。1週目終了時点で中間チェックイン(5分の電話)を行い、モチベーションを維持する。脱落率を20%以下に抑えるために謝礼設計も重要だ。
エントリーを時系列で分析する
全エントリーをテーマごとにコーディングし、時系列の変化パターンを抽出する。「1週目は毎日使っていたが2週目から週2回に減った」のような変化を可視化する。分析後にフォローアップインタビューで「なぜ」を深掘りする。

具体例
#

フィットネスアプリ — 継続率低下の原因調査

状況: 7日間リテンション率が35%だが、その後30日で12%まで急落。14日目前後に何が起きているか把握できていなかった。

適用プロセス:

  1. 新規ユーザー12名に3週間のダイアリースタディを依頼。プロンプト:「今日アプリを開いた/開かなかった理由」「運動したかどうかとそのきっかけ」
  2. 10日目前後にエントリー内容が変化:「最初の目新しさがなくなった」「記録が面倒に感じ始めた」
  3. フォローアップ:10名中7名が「目標達成の実感がない」「毎日同じ画面で飽きる」と回答

成果: 週次の達成レポートと、記録の自動化(Apple Health連携)を実装。30日リテンション率が12%→28%に改善した。

BtoB SaaS — 導入初期の体験最適化

状況: 導入企業の管理者が初期設定後にツールを放置するケースが多く、90日後のアクティブ率が34%。導入初期に何が障壁になっているか不明だった。

適用プロセス:

  1. 新規導入企業の管理者10名に4週間のダイアリースタディ。プロンプト:「今日ツールで何をしたか」「チームメンバーの反応」「困ったこと」
  2. 2週目にパターン発見:管理者は設定完了後「チームに使い方を説明する負荷」に直面し、そこで挫折していた
  3. 管理者が社内展開のためにマニュアルを自作していることも判明

成果: チーム招待時の自動ガイドツアーと、管理者向け「社内展開テンプレート」を実装。90日後アクティブ率が34%→58%に改善した。

小売アプリ — 購買行動の季節変化を把握

状況: セール期間以外の利用率が低く、通常期の購入促進施策が効果を出せていなかった。

適用プロセス:

  1. ロイヤルユーザー15名に8週間のダイアリースタディ。プロンプト:「今日買い物をしたか」「アプリを開いた理由」「購入を見送った理由」
  2. 発見:通常期にアプリを開く理由は「ポイント残高の確認」「セール情報のチェック」が大半。「欲しいものがあって開く」は2割以下
  3. 購入を見送る理由の1位は「今じゃなくてもいい」(緊急性の欠如)

成果: 「あなたへのおすすめ+期間限定ポイント」を組み合わせた通常期施策を設計。通常月の購入率が1.4倍に向上した。

うまくいかないパターン
#

パターン問題点対処法
記録負荷が高すぎる参加者が脱落し有効データが集まらない1エントリー3分以内で完了する設計にする
期間が長すぎる4週間超は脱落率が急上昇する目的に必要な最短期間に設定する
プロンプトが誘導的「不満はありましたか」は否定的な回答を誘導する「どんな体験がありましたか」と中立的に聞く
分析の後回しデータが大量で分析に着手できなくなる実施中から毎日エントリーを読み中間分析を行う

まとめ
#

ダイアリースタディは「時間の中で体験がどう変化するか」を捉えられる唯一のリサーチ手法だ。1回のユーザビリティテストでは見えない、習慣形成・モチベーション変化・コンテキスト依存の行動が可視化される。記録負荷を最小限にし、中間チェックインで脱落を防ぎ、フォローアップインタビューで「なぜ」を深掘りする3つの工夫が、質の高いダイアリースタディの鍵になる。