ひとことで言うと#
競合プロダクトを実際に使い倒して、UXの強み・弱みを体系的に比較分析する手法。「競合がやっていること」を参考にするだけでなく、「競合がやっていないこと(=差別化の機会)」を見つけるのが本質的な目的。
押さえておきたい用語#
- 直接競合(Direct Competitor)
- 同じ課題を同じ方法で解決する直接的な競合サービスのこと。同じカテゴリに属し、ユーザーが「どちらにしようか」と比較する対象。
- 間接競合(Indirect Competitor)
- 同じ課題を別の方法で解決する間接的な競合を指す。Excelはプロジェクト管理ツールの間接競合にあたる。
- ベンチマーク
- UXが優れていると評判の異業種サービスを比較対象に含めること。業界の枠を超えたUXの基準を知るために活用する。
- 比較マトリクス
- 複数の競合を同じ評価軸で一覧比較する表である。競合UX分析の最終アウトプットの中心になる。
競合UX分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- 自社プロダクトのUXが競合と比べてどうなのかわからない
- 「競合を参考にしろ」と言われるが、何をどう見ればいいかわからない
- UIの改善提案をしたいが、説得力のある根拠がない
基本の使い方#
直接競合3〜5社を選び、比較する軸を設定する。
競合の選び方:
- 直接競合: 同じ課題を同じ方法で解決するサービス
- 間接競合: 同じ課題を別の方法で解決するサービス
- ベンチマーク: UXが優れていると評判の異業種サービス
評価軸の例:
- オンボーディング体験
- 主要タスクの完了ステップ数
- 情報設計(ナビゲーション、検索)
- ビジュアルデザインの品質
- エラー処理・ヘルプの充実度
- モバイル対応の品質
各サービスにユーザーとして登録し、主要タスクを一通り実行する。
記録すべき内容:
- 各画面のスクリーンショット
- タスク完了までのステップ数と所要時間
- 「良い」と感じたポイント(なぜ良いか)
- 「悪い」と感じたポイント(なぜ悪いか)
- 「意外」だったポイント(想定外の体験)
コツ: 初見のユーザー視点で使うこと。事前に調べすぎると、初回体験の良し悪しが見えなくなる。
収集した情報を一覧比較できる形式に整理する。
各セルに「なぜその評価か」の根拠(スクリーンショット + コメント)を添える。
比較結果から自社プロダクトへのアクションを導く。
- すぐ改善: 競合全社がやっていて自社だけやっていないこと
- 差別化の機会: どの競合もやっていない or うまくいっていないこと
- 模倣すべきパターン: 特定の競合が圧倒的に優れている部分
- 維持すべき強み: 自社が競合より優れている部分
優先順位をつけて、ロードマップに組み込む。
具体例#
状況: 従業員50名のタスク管理SaaS。ARR 1.2億円で成長が鈍化。競合(Todoist、Asana、Notion)と比較して「何が弱いか」「どこで差別化できるか」を明確にしたい。
主要タスク: 「新しいプロジェクトを作成してタスクを3つ追加する」
| 指標 | 自社 | Todoist | Asana | Notion |
|---|---|---|---|---|
| 完了ステップ数 | 8 | 4 | 5 | 6 |
| 所要時間 | 3分20秒 | 1分10秒 | 1分30秒 | 2分00秒 |
| キーボード操作対応 | なし | あり | あり | あり |
| テンプレート提供 | なし | あり | あり | あり |
インサイト:
- 自社のステップ数が最多 → プロジェクト作成フローの簡略化が急務
- 全競合がキーボードショートカットに対応 → パワーユーザー向け機能が不足
- 全競合がテンプレートを提供 → テンプレート機能を次期開発に追加
差別化の機会: 競合3社ともAIによるタスク自動生成はなし → AI機能で差別化可能
半年後のARRは1.5億円に成長。まず「競合並み」に追いつき、次にAIタスク生成で差別化——この2段階戦略が効いた。
状況: オンライン英会話サービス(月間ユーザー3万人)。無料体験からの有料転換率が8%と低い。競合5社のオンボーディング体験を比較分析して改善の根拠を得たい。
オンボーディング比較(登録→初回レッスン完了まで):
| 指標 | 自社 | 競合A | 競合B | 競合C |
|---|---|---|---|---|
| 完了までのステップ数 | 12 | 5 | 7 | 6 |
| 所要時間 | 15分 | 4分 | 6分 | 5分 |
| レベルテストの有無 | あり(8分) | なし | あり(2分) | なし |
| 初回レッスンまでの予約障壁 | 高い | 低い | 中 | 低い |
最大の発見: 自社の8分間のレベルテストが最大の離脱ポイント。競合Bは2分のミニテストで同等の精度を実現していた。
| 指標 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| 無料体験→有料転換率 | 8% | 18% |
| 登録→初回レッスン到達率 | 35% | 72% |
| レベルテストの所要時間 | 8分 | 2分 |
転換率8%→18%(2.25倍)。レベルテストを8分→2分に短縮しただけでこの変化。「自社だけの常識」は競合比較なしには覆せなかった。
状況: 地方銀行(預金残高2兆円)のネットバンキング。利用率が顧客の22%にとどまり、「使いにくい」が窓口での不満の1位。同業他行との比較だけでは改善の方向性が見えない。
分析対象: 同業3行+異業種ベンチマーク2社(PayPay、楽天証券)
評価軸と結果:
| 評価軸 | 自社 | 地銀A | 地銀B | PayPay | 楽天証券 |
|---|---|---|---|---|---|
| 送金のステップ数 | 9 | 8 | 7 | 3 | 5 |
| 残高確認までのタップ数 | 4 | 3 | 3 | 1 | 2 |
| 生体認証対応 | なし | なし | あり | あり | あり |
インサイト: 同業内の差は小さいが、異業種との差が圧倒的。PayPayの「1タップで残高確認」が顧客の新しい基準を作っている。
| 指標 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| ネットバンキング利用率 | 22% | 41% |
| 送金のステップ数 | 9 | 4 |
| 顧客満足度スコア | 3.1/5.0 | 4.2/5.0 |
ネットバンキング利用率22%→41%、送金ステップ9→4。同業比較では差が見えなかったが、PayPayを入れた瞬間に「顧客が求めるUXの水準」が見えた。
やりがちな失敗パターン#
- スクリーンショットを並べて終わる — 画面の見た目を比較するだけでは分析にならない。「なぜこのUIが効果的か」「ユーザーにとって何が違うか」までを言語化する
- 競合のUIをそのままコピーする — 競合のUIは競合のコンテキストで最適化されたもの。自社のユーザー・ブランド・技術制約に合わせてアレンジする必要がある
- 一度やって終わりにする — 競合もUIを更新し続けている。半年〜1年ごとに再分析して、変化をキャッチアップする
- 同業種の競合しか見ない — 顧客のUX期待値は業界を超えて形成される。異業種のベンチマークを含めることで、本当に目指すべき水準が見える
まとめ#
競合UX分析は、競合のUIをコピーするための作業ではなく、「市場のUX水準を把握し、差別化の機会を見つける」ための手法。実際にサービスを使い、体系的に比較し、自社プロダクトへのアクションに落とし込む。定期的に実施することで、競合の動きに遅れず、かつ独自の価値を提供し続けられる。