感度分析

英語名 Sensitivity Analysis
読み方 センシティビティ アナリシス
難易度
所要時間 2〜4時間
提唱者 オペレーションズ・リサーチ、財務モデリングの分野から発展
目次

ひとことで言うと
#

モデルや計画の前提条件を1つずつ変化させて、結果がどれだけ変わるかを検証する手法。「どの変数が結果に最も大きく影響するか」を特定し、リスク管理と意思決定の精度を上げる。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
トルネードチャート(Tornado Chart)
各変数の影響度を棒グラフで横に並べた感度分析の代表的な可視化手法のこと。影響の大きい変数が上に来る形が竜巻に見えることから名づけられた。
ベースケース(Base Case)
感度分析の基準となる最も蓋然性の高い前提条件の組み合わせを指す。各変数をここから上下に振って影響を測定する。
損益分岐点(Break-Even Point)
ある変数が変化したときに利益がゼロになる境界値のこと。感度分析で「どこまでなら耐えられるか」を判断する重要な指標。
モンテカルロシミュレーション(Monte Carlo Simulation)
変数に確率分布を設定して数千〜数万回の乱数シミュレーションを行い、結果の分布を推定する手法である。感度分析の発展形として使われる。

感度分析の全体像
#

感度分析の構造:変数設定→変動測定→トルネードチャート→アクション
モデル(計算式)利益 = 売上 − コスト前提条件を明確にする変数を1つずつ変化変数A: 顧客数7,000〜13,000人→ 利益 ±6,800万変数B: 購入頻度年2〜4回→ 利益 ±8,000万変数C: 変動費率35〜45%→ 利益 ±3,000万トルネードチャート(影響度の可視化)購入頻度±8,000万顧客数±6,800万変動費率±3,000万↑ 棒が長い変数 = 最重点管理対象リスク低減策の策定
感度分析の進め方フロー
1
モデル定義
分析対象の計算式と変数を明確にする
2
変動範囲設定
各変数のベース・上振れ・下振れを決める
3
影響度測定
1変数ずつ変化させて結果の振れ幅を記録
リスク対応策
トルネードチャートで可視化し重点管理変数にアクションを設定

こんな悩みに効く
#

  • 事業計画を作ったが、前提が狂ったときにどうなるかわからない
  • 「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」を求められるが、根拠を持って作れない
  • どの変数を重点的に管理すべきか、優先順位がわからない

基本の使い方
#

ステップ1: モデルと変数を明確にする

分析対象の**モデル(計算式)と、その中に含まれる変数(前提条件)**を明確にする。

例: 新規事業の年間利益モデル

  • 利益 = 売上 − コスト
  • 売上 = 顧客数 × 客単価 × 購入頻度
  • コスト = 固定費 + 変動費率 × 売上

変数:

  • 顧客数: 10,000人(前提)
  • 客単価: 5,000円(前提)
  • 購入頻度: 年3回(前提)
  • 変動費率: 40%(前提)
  • 固定費: 5,000万円(前提)

ポイント: 変数が多すぎる場合は、不確実性が高い変数に絞って分析する。

ステップ2: 各変数の変動範囲を設定する

各変数に**「ベースケース」「下振れ」「上振れ」**の3パターンを設定する。

変数下振れベース上振れ
顧客数7,000人10,000人13,000人
客単価4,000円5,000円6,000円
購入頻度2回3回4回
変動費率45%40%35%

ポイント: 変動範囲は「十分にありえる範囲」で設定する。過去データ、業界ベンチマーク、専門家の意見を参考にする。

ステップ3: 1変数ずつ変化させて影響を測定する

他の変数はベースケースに固定したまま、1つの変数だけを変化させる

変数を変化利益(下振れ)利益(ベース)利益(上振れ)変動幅
顧客数4,600万8,000万11,400万±6,800万
客単価5,200万8,000万10,800万±5,600万
購入頻度4,000万8,000万12,000万±8,000万
変動費率6,500万8,000万9,500万±3,000万

結果: 購入頻度の変動が利益に最も大きく影響する(変動幅が最大)。

ステップ4: トルネードチャートで可視化し、アクションにつなげる

変動幅を**トルネードチャート(竜巻図)**で可視化する。棒の長い変数ほど影響が大きい。

影響の大きい順:

  1. 購入頻度(±8,000万)→ 最重点管理対象
  2. 顧客数(±6,800万)→ 重点管理対象
  3. 客単価(±5,600万)→ 管理対象
  4. 変動費率(±3,000万)→ 通常管理

アクション:

  • 購入頻度の精度を上げるための追加調査・テストマーケティング
  • 購入頻度が2回に下振れしても赤字にならないコスト構造の検討
  • 楽観・悲観シナリオを組み合わせた複数のシナリオプランニング

具体例
#

例1:SaaS事業が価格改定の損益分岐点を見極める

状況: 月額1,000円のプランを1,200円に値上げ検討中。現在の有料ユーザー5,000人、月次解約率2%。値上げによる解約増加が懸念される。

モデル: MRR = 顧客数 × 月額単価

感度分析の設計:

  • 月額単価: 1,200円(+20%値上げ)に固定
  • 変動させる変数: 値上げによる解約率の増加幅
解約率の変化顧客数(6ヶ月後)MRR(6ヶ月後)現行比
変化なし(2%)4,500人540万円+20%
+1%(3%)4,100人492万円+9.3%
+2%(4%)3,700人444万円−1.3%
+3%(5%)3,350人402万円−10.7%

発見: 解約率が+2%以上増加すると、値上げしてもMRRが下がる(損益分岐点)。

まず一部顧客(全体の20%)に値上げを適用し、解約率の変化を1ヶ月間モニタリング。解約率の増加が**+1%以内**なら全体展開する――感度分析がこの「段階的値上げ」の判断基準を明確にした。

例2:製造業が新工場の投資判断をリスク評価する

状況: 従業員200名の自動車部品メーカー。新工場の建設(投資額15億円)を検討中。投資回収期間を10年以内に収めたい。

モデル: 年間キャッシュフロー = 売上 − 変動費 − 固定費 − 減価償却

ベースケースの前提:

  • 年間売上: 8億円
  • 変動費率: 55%
  • 追加固定費: 1.2億円/年
  • 減価償却: 1.5億円/年

感度分析(年間キャッシュフローへの影響):

変数下振れベース上振れ変動幅
売上6.5億 → CF −0.3億8億 → CF 0.9億9.5億 → CF 2.1億±1.2億
変動費率60% → CF 0.5億55% → CF 0.9億50% → CF 1.3億±0.4億
為替(1ドル)120円 → CF 0.4億135円 → CF 0.9億150円 → CF 1.4億±0.5億

発見: 売上の影響が圧倒的に大きく、売上6.5億円以下でキャッシュフローが赤字に転落。投資回収が不可能になる。

建設の可否は、結局ひとつの問いに集約された。年間売上8億円を安定的に確保できるか。取引先3社との長期契約(年間合計6億円)を確保してから着工する、というガードレールを設定した。

例3:地方の旅館が料金改定の影響をシミュレーションする

状況: 客室20室の温泉旅館。1泊2食付き15,000円。年間稼働率65%、年商約7,100万円。光熱費高騰で1,000円の値上げを検討中。

モデル: 年間売上 = 客室数 × 365日 × 稼働率 × 宿泊単価

感度分析(値上げ後の年間売上):

稼働率の変化稼働率年間売上現行比
変化なし65%7,592万円+6.9%
−3%62%7,241万円+2.0%
−5%60%7,008万円−1.3%
−8%57%6,658万円−6.2%
−10%55%6,424万円−9.5%

発見: 稼働率が5%以上低下すると値上げの効果が打ち消される。特に平日の稼働率が低い旅館は、平日客を値上げで失うリスクが高い。

休日料金のみ1,500円値上げし、平日料金は据え置き。年間売上は7,100万円→7,450万円(+4.9%)の見込みに。平日の稼働率を守りながら、休日の堅い需要から収益を確保する二重価格制だった。

やりがちな失敗パターン
#

  1. 変数の変動範囲を適当に設定する — ±10%や±20%を一律に適用するのは安易。各変数の不確実性の大きさは異なるので、過去データや市場調査に基づいて個別に設定する
  2. 変数間の相互作用を無視する — 1変数ずつ変える基本の感度分析では、「価格を上げると同時に顧客数が減る」という連動効果を捉えられない。重要な場合はシナリオ分析やモンテカルロシミュレーションで補完する
  3. 分析結果を見るだけで行動しない — 「購入頻度が最も影響が大きい」とわかったのに、何のアクションも取らないのでは意味がない。影響の大きい変数に対するリスク低減策を必ずセットで検討する
  4. 一度の分析で終わらせる — 事業環境が変われば変数の不確実性も変わる。四半期ごとに前提条件を見直し、感度分析を再実行することで、リスク管理の精度を維持する

まとめ
#

感度分析は、前提条件の変化が結果にどれだけ影響するかを検証する手法。「どの変数が最もリスクが高いか」を特定し、重点管理すべきポイントを明確にできる。トルネードチャートで影響度を可視化すれば、関係者全員が「何を最も注意すべきか」を直感的に理解できる。まずは自社の事業計画の主要な前提条件を3〜5つ選び、それぞれを変化させたときの利益への影響を計算してみよう。