コホート分析

英語名 Cohort Analysis
読み方 コホート アナリシス
難易度
所要時間 2〜4時間
提唱者 疫学・社会科学の研究手法から発展
目次

ひとことで言うと
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ユーザーを**「いつ始めたか」でグループ(コホート)に分け**、時間が経つにつれて行動がどう変わるかを比較する分析手法。全体の平均値だけでは見えない**「本当に改善しているのか?」**を明らかにできる。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
コホート(Cohort)
同じ時期に特定のイベント(登録・購入など)を経験したユーザーのグループのこと。月別コホートが最も一般的で、「2026年1月登録ユーザー」のように時間で区切る。
リテンション率(Retention Rate)
あるコホートのうち、一定期間後にも引き続きサービスを利用している割合を指す。「登録1ヶ月後に何%が残っているか」がプロダクトの健全性を測る基本指標。
LTV(Life Time Value)
1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす累計の収益のこと。コホート分析でコホートごとのLTVを比較することで、施策効果をより正確に評価できる。
シンプソンのパラドックス
全体で見ると改善しているように見えるが、コホート単位で見ると実は**悪化している(またはその逆)**という統計的な逆説である。コホート分析が必要な理由の根幹にある。

コホート分析の全体像
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コホート分析:登録時期別にグループ分けし、時間経過に伴う行動変化を可視化する
コホート定義月別・週別でグループ分け指標選定リテンション率LTV・購入率テーブル作成縦=コホート横=経過月数パターン読み取り縦読み・横読み→ アクションへコホート0ヶ月1ヶ月2ヶ月3ヶ月1月登録100%40%28%22%2月登録100%45%32%3月登録100%50%↑ 縦読み: 改善している?3つの読み方で施策効果を見極める縦読み(改善の検証)・横読み(離脱タイミング)異常値探し(特定コホートの突出)
コホート分析の進め方フロー
1
コホート定義
月別・週別でグループ分け
2
指標選定
リテンション率・LTV等
3
テーブル作成
縦=コホート 横=経過月数
パターン読み取り
縦・横・異常値から施策へ

こんな悩みに効く
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  • 月次のアクティブユーザー数は増えているのに、なぜか売上が伸びない
  • 施策を打ったが、その効果が一時的なものか持続的なものかわからない
  • 「継続率が低い」と言われるが、いつ頃のユーザーが・いつ頃に離脱しているのかが不明

基本の使い方
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ステップ1: コホートの単位を決める

ユーザーをどの基準でグループ分けするかを決める。

時間ベース(最も一般的):

  • 月別: 「2026年1月に登録したユーザー」「2月に登録したユーザー」…
  • 週別: 成長の速いプロダクトではこちらが有効

行動ベース(応用):

  • 「チュートリアルを完了したユーザー」vs「スキップしたユーザー」
  • 「紹介経由のユーザー」vs「広告経由のユーザー」

ポイント: まずは月別コホートで始めるのが最もわかりやすい。

ステップ2: 追跡する指標を決める

コホートごとに何を追跡するかを明確にする。

  • 継続率(リテンション率): 登録後N日目・N月目にまだ利用しているか
  • 購入率: 登録後N月目までに購入したか
  • 累計LTV: コホートごとの累計売上

よく使うのはリテンション率。「登録1ヶ月後に何%が残っているか」が最も基本的な指標。

ステップ3: コホートテーブルを作成する

横軸に「経過月数」、縦軸に「コホート(登録月)」のテーブルを作る。

コホート0ヶ月目1ヶ月目2ヶ月目3ヶ月目
1月登録100%40%28%22%
2月登録100%45%32%
3月登録100%50%

ポイント: スプレッドシートでも十分作れるが、MixpanelやAmplitudeにはコホート分析機能が標準搭載されている。

ステップ4: パターンを読み取り、アクションにつなげる

テーブルから3つの視点で読み取る。

  1. 縦に見る: 新しいコホートほど継続率が改善しているか? → プロダクトの改善が効いているかがわかる
  2. 横に見る: 何ヶ月目に大きく落ちるか? → 離脱のタイミングがわかる
  3. 異常値を探す: 特定のコホートだけ数字が違う → そのときの施策や外部要因を特定できる

上の例では「1月→2月→3月と1ヶ月目の継続率が40%→45%→50%に改善」しており、プロダクトの改善施策が効いていることがわかる。

具体例
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例1:フィットネスアプリが月別コホートで継続率改善を実証する

状況: 月間ダウンロード数3万件のフィットネスアプリ。MAU(月間アクティブユーザー)が頭打ち。

コホート分析の結果(月次リテンション率):

コホート1ヶ月目2ヶ月目3ヶ月目6ヶ月目
10月DL35%18%12%5%
11月DL38%20%14%6%
12月DL(目標設定施策後)52%30%22%
1月DL36%19%

発見:

  • 12月コホートだけ継続率が突出して高い → お正月の「目標設定キャンペーン」で初期エンゲージメントが高まった
  • 全コホート共通で1ヶ月目→2ヶ月目の落差が大きい → 最初の1ヶ月を乗り越えれば定着しやすい

アクション:

  • 12月の成功要因(目標設定の仕組み)を通年のオンボーディングに組み込む
  • 登録後2〜4週目にプッシュ通知でモチベーション維持の施策を強化

3ヶ月後、1ヶ月目リテンション率が平均36%→48%に改善。MAUは前年同月比22%増。12月コホートの成功要因を通年に展開しただけで、この結果が出た。

例2:BtoB SaaSがコホート別LTVで価格改定の効果を検証する

状況: 月額課金型のBtoB SaaS(月額1万〜5万円)。6ヶ月前に価格を15%値上げしたが、値上げ後のユーザーの生涯価値は改善しているのか確認したい。

コホート別の累計LTV(1ユーザーあたり):

コホート3ヶ月6ヶ月12ヶ月
値上げ前(4〜6月登録)4.2万円7.8万円13.5万円
値上げ後(7〜9月登録)4.8万円9.1万円
値上げ後(10〜12月登録)5.0万円

発見:

  • 値上げ後のコホートは単価増加分以上にLTVが伸びている(3ヶ月LTVが14%→19%増加)
  • 値上げ後のコホートのチャーン率は2.8%→2.3%に低下 → 価格に見合う価値を感じている顧客が残っている

全体平均のARPUだけ見ていたら、「値上げは成功だったのか?」に答えられなかった。コホート分析で新旧顧客を分けて初めて、値上げが顧客の質も高めていたことが見えた。

例3:地方の学習塾が入塾月別コホートで退塾タイミングを特定する

状況: 生徒数200名の地方学習塾。「入塾後すぐに辞める生徒が多い」と感じているが、いつ・なぜ辞めるのかを定量的に把握できていない。

コホート別の継続率:

入塾月生徒数1ヶ月後3ヶ月後6ヶ月後12ヶ月後
4月(新学年)45名95%82%70%55%
7月(夏期講習)30名80%55%38%25%
1月(受験前)20名90%78%65%50%

発見:

  • 7月入塾コホートの離脱が突出して早い → 夏期講習目的で入塾し、目的達成後に退塾する「短期利用層」が多い
  • 4月・1月コホートは3ヶ月目以降の離脱が緩やか → 目的が明確な層は定着しやすい
  • 全コホート共通で入塾後1〜3ヶ月が最大の離脱期間

アクション:

  • 7月入塾者には夏期講習終了時に「秋以降の学習計画面談」を実施し、継続の動機を作る
  • 入塾後1ヶ月以内に保護者面談を必須化し、早期離脱を防止

7月コホートの6ヶ月継続率38%→52%。年間退塾率32%→24%。売上**+約180万円**。

やりがちな失敗パターン
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  1. 全体平均だけ見て「改善した」と判断する — 新規ユーザーが大量に入ると、全体平均は高く見える。しかしコホートで見ると実は定着率は変わっていない、というケースは非常に多い。必ずコホート単位で評価する
  2. コホートのサイズが小さすぎる — 1コホートあたり数十人しかいないと、偶然のばらつきが大きくなり信頼できるデータにならない。最低でも100人以上のコホートサイズを確保する
  3. テーブルを作って終わる — 「きれいな表ができた」で満足するパターン。コホート分析の価値は**「だから何をするか」のアクション**にある。必ず「この数字を見て何を変えるか」をセットで議論する
  4. コホートの定義を途中で変える — 分析の途中で「月別」から「週別」に変えたり、コホートの起点イベントを変えると、過去との比較ができなくなる。コホートの定義は事前に固定し、一貫して使い続ける

まとめ
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コホート分析は、ユーザーを登録時期別にグループ分けして、時間経過に伴う行動の変化を可視化する手法。全体平均では見えない「本当に改善しているのか?」を明らかにできる。プロダクトの施策効果を正しく評価し、離脱タイミングを特定するために、まずは月別のリテンションテーブルを作るところから始めよう。