ひとことで言うと#
ユーザーを**「いつ始めたか」でグループ(コホート)に分け**、時間が経つにつれて行動がどう変わるかを比較する分析手法。全体の平均値だけでは見えない**「本当に改善しているのか?」**を明らかにできる。
押さえておきたい用語#
- コホート(Cohort)
- 同じ時期に特定のイベント(登録・購入など)を経験したユーザーのグループのこと。月別コホートが最も一般的で、「2026年1月登録ユーザー」のように時間で区切る。
- リテンション率(Retention Rate)
- あるコホートのうち、一定期間後にも引き続きサービスを利用している割合を指す。「登録1ヶ月後に何%が残っているか」がプロダクトの健全性を測る基本指標。
- LTV(Life Time Value)
- 1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす累計の収益のこと。コホート分析でコホートごとのLTVを比較することで、施策効果をより正確に評価できる。
- シンプソンのパラドックス
- 全体で見ると改善しているように見えるが、コホート単位で見ると実は**悪化している(またはその逆)**という統計的な逆説である。コホート分析が必要な理由の根幹にある。
コホート分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- 月次のアクティブユーザー数は増えているのに、なぜか売上が伸びない
- 施策を打ったが、その効果が一時的なものか持続的なものかわからない
- 「継続率が低い」と言われるが、いつ頃のユーザーが・いつ頃に離脱しているのかが不明
基本の使い方#
ユーザーをどの基準でグループ分けするかを決める。
時間ベース(最も一般的):
- 月別: 「2026年1月に登録したユーザー」「2月に登録したユーザー」…
- 週別: 成長の速いプロダクトではこちらが有効
行動ベース(応用):
- 「チュートリアルを完了したユーザー」vs「スキップしたユーザー」
- 「紹介経由のユーザー」vs「広告経由のユーザー」
ポイント: まずは月別コホートで始めるのが最もわかりやすい。
コホートごとに何を追跡するかを明確にする。
- 継続率(リテンション率): 登録後N日目・N月目にまだ利用しているか
- 購入率: 登録後N月目までに購入したか
- 累計LTV: コホートごとの累計売上
よく使うのはリテンション率。「登録1ヶ月後に何%が残っているか」が最も基本的な指標。
横軸に「経過月数」、縦軸に「コホート(登録月)」のテーブルを作る。
| コホート | 0ヶ月目 | 1ヶ月目 | 2ヶ月目 | 3ヶ月目 |
|---|---|---|---|---|
| 1月登録 | 100% | 40% | 28% | 22% |
| 2月登録 | 100% | 45% | 32% | — |
| 3月登録 | 100% | 50% | — | — |
ポイント: スプレッドシートでも十分作れるが、MixpanelやAmplitudeにはコホート分析機能が標準搭載されている。
テーブルから3つの視点で読み取る。
- 縦に見る: 新しいコホートほど継続率が改善しているか? → プロダクトの改善が効いているかがわかる
- 横に見る: 何ヶ月目に大きく落ちるか? → 離脱のタイミングがわかる
- 異常値を探す: 特定のコホートだけ数字が違う → そのときの施策や外部要因を特定できる
上の例では「1月→2月→3月と1ヶ月目の継続率が40%→45%→50%に改善」しており、プロダクトの改善施策が効いていることがわかる。
具体例#
状況: 月間ダウンロード数3万件のフィットネスアプリ。MAU(月間アクティブユーザー)が頭打ち。
コホート分析の結果(月次リテンション率):
| コホート | 1ヶ月目 | 2ヶ月目 | 3ヶ月目 | 6ヶ月目 |
|---|---|---|---|---|
| 10月DL | 35% | 18% | 12% | 5% |
| 11月DL | 38% | 20% | 14% | 6% |
| 12月DL(目標設定施策後) | 52% | 30% | 22% | — |
| 1月DL | 36% | 19% | — | — |
発見:
- 12月コホートだけ継続率が突出して高い → お正月の「目標設定キャンペーン」で初期エンゲージメントが高まった
- 全コホート共通で1ヶ月目→2ヶ月目の落差が大きい → 最初の1ヶ月を乗り越えれば定着しやすい
アクション:
- 12月の成功要因(目標設定の仕組み)を通年のオンボーディングに組み込む
- 登録後2〜4週目にプッシュ通知でモチベーション維持の施策を強化
3ヶ月後、1ヶ月目リテンション率が平均36%→48%に改善。MAUは前年同月比22%増。12月コホートの成功要因を通年に展開しただけで、この結果が出た。
状況: 月額課金型のBtoB SaaS(月額1万〜5万円)。6ヶ月前に価格を15%値上げしたが、値上げ後のユーザーの生涯価値は改善しているのか確認したい。
コホート別の累計LTV(1ユーザーあたり):
| コホート | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 12ヶ月 |
|---|---|---|---|
| 値上げ前(4〜6月登録) | 4.2万円 | 7.8万円 | 13.5万円 |
| 値上げ後(7〜9月登録) | 4.8万円 | 9.1万円 | — |
| 値上げ後(10〜12月登録) | 5.0万円 | — | — |
発見:
- 値上げ後のコホートは単価増加分以上にLTVが伸びている(3ヶ月LTVが14%→19%増加)
- 値上げ後のコホートのチャーン率は2.8%→2.3%に低下 → 価格に見合う価値を感じている顧客が残っている
全体平均のARPUだけ見ていたら、「値上げは成功だったのか?」に答えられなかった。コホート分析で新旧顧客を分けて初めて、値上げが顧客の質も高めていたことが見えた。
状況: 生徒数200名の地方学習塾。「入塾後すぐに辞める生徒が多い」と感じているが、いつ・なぜ辞めるのかを定量的に把握できていない。
コホート別の継続率:
| 入塾月 | 生徒数 | 1ヶ月後 | 3ヶ月後 | 6ヶ月後 | 12ヶ月後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4月(新学年) | 45名 | 95% | 82% | 70% | 55% |
| 7月(夏期講習) | 30名 | 80% | 55% | 38% | 25% |
| 1月(受験前) | 20名 | 90% | 78% | 65% | 50% |
発見:
- 7月入塾コホートの離脱が突出して早い → 夏期講習目的で入塾し、目的達成後に退塾する「短期利用層」が多い
- 4月・1月コホートは3ヶ月目以降の離脱が緩やか → 目的が明確な層は定着しやすい
- 全コホート共通で入塾後1〜3ヶ月が最大の離脱期間
アクション:
- 7月入塾者には夏期講習終了時に「秋以降の学習計画面談」を実施し、継続の動機を作る
- 入塾後1ヶ月以内に保護者面談を必須化し、早期離脱を防止
7月コホートの6ヶ月継続率38%→52%。年間退塾率32%→24%。売上**+約180万円**。
やりがちな失敗パターン#
- 全体平均だけ見て「改善した」と判断する — 新規ユーザーが大量に入ると、全体平均は高く見える。しかしコホートで見ると実は定着率は変わっていない、というケースは非常に多い。必ずコホート単位で評価する
- コホートのサイズが小さすぎる — 1コホートあたり数十人しかいないと、偶然のばらつきが大きくなり信頼できるデータにならない。最低でも100人以上のコホートサイズを確保する
- テーブルを作って終わる — 「きれいな表ができた」で満足するパターン。コホート分析の価値は**「だから何をするか」のアクション**にある。必ず「この数字を見て何を変えるか」をセットで議論する
- コホートの定義を途中で変える — 分析の途中で「月別」から「週別」に変えたり、コホートの起点イベントを変えると、過去との比較ができなくなる。コホートの定義は事前に固定し、一貫して使い続ける
まとめ#
コホート分析は、ユーザーを登録時期別にグループ分けして、時間経過に伴う行動の変化を可視化する手法。全体平均では見えない「本当に改善しているのか?」を明らかにできる。プロダクトの施策効果を正しく評価し、離脱タイミングを特定するために、まずは月別のリテンションテーブルを作るところから始めよう。