ひとことで言うと#
ピクサーの脚本家たちが使う6つの文章テンプレートで、ビジネスのプレゼンや提案にも使える強力なストーリーを組み立てる。「むかしむかし」→「毎日」→「ある日」→「そのため」→「そのため」→「ついに」の流れで、聞き手の心をつかむ。
押さえておきたい用語#
押さえておきたい用語
- スルーライン(Through Line)
- ストーリー全体を貫く一本の核心メッセージのこと。ピクサー式では6つの文すべてがこのスルーラインに向かって収束する。
- 感情のアーク(Emotional Arc)
- ストーリーの中で聞き手の感情が共感→緊張→希望と変化する曲線のこと。平坦なストーリーは退屈になるため、意図的に起伏を設計する。
- 転機(ターニングポイント)
- 「ある日」に該当する日常を一変させる出来事のこと。ストーリーの原動力であり、これが弱いと単なる説明文になる。
- 主人公の変容(Transformation)
- ストーリーを通じて主人公が何かを学び、変わるプロセスのこと。ビジネスでは聞き手を主人公にし、自分ごと化を促す。
ストーリーテリングフレームワークの全体像#
ピクサー式ストーリーテリング:6つの文で感情の起伏を持つ物語を構築する
ピクサー式ストーリーの組み立てフロー
1
テンプレートを埋める
6つの文を順に完成させる
2
ビジネスに変換
聞き手の課題に翻訳する
3
感情カーブを設計
共感→緊張→希望の起伏
★
3分以内に磨く
声に出して時間を計測
こんな悩みに効く#
- プレゼンが「正しいけど退屈」と言われる
- データは揃っているのに、聞き手の心に響かない
- 自己紹介や会社紹介がいつも平坦になる
基本の使い方#
ステップ1: ピクサーの6文テンプレートを埋める
以下の6つの文章を順番に埋めていく。
- むかしむかし(Once upon a time) — 背景・状況を設定する
- 毎日(Every day) — 日常の状態を描写する
- ある日(One day) — 転機となる出来事が起きる
- そのため(Because of that) — 出来事による変化①
- そのため(Because of that) — さらなる変化②(連鎖)
- ついに(Until finally) — 結末・変容
重要: このフレームワークの核心は「変化」。主人公(聞き手が感情移入する対象)が何かをきっかけに変わる、というストーリーライン。
ステップ2: ビジネス文脈に変換する
ピクサーのテンプレートをビジネスに翻訳すると:
- 背景: 業界や顧客の状況
- 日常: 既存のやり方、当たり前だった常識
- 転機: 課題の発見、環境変化、顧客の声
- 対応①: 最初に試したこと、その結果
- 対応②: さらに発展させたこと
- 結果: 現在の成果、未来へのビジョン
キーポイント: 聞き手が主人公になれるストーリーを作る。自社自慢ではなく、聞き手の課題解決の物語にする。
ステップ3: 感情のカーブを設計する
良いストーリーには感情の起伏がある。
- 序盤: 共感(「あるある」と思わせる)
- 中盤: 緊張(「このままではマズい」と感じさせる)
- 終盤: 希望(「こうすれば解決できる」と安心させる)
テクニック:
- 具体的な数字やディテールを入れる(「ある企業」→「従業員50人の製造業」)
- 感情を描写する(「困っていた」→「毎朝出社するのが憂鬱だった」)
- 意外性を入れる(「しかし、答えは意外なところにあった」)
ステップ4: 3分以内に収める
ビジネスのストーリーテリングは短さが命。
- プレゼンの冒頭なら1〜2分
- 全体がストーリー形式なら3分以内
- 余計なディテールは削る。「この情報がなくても話は通じるか?」と自問する
練習法: まず6文テンプレートを書き、声に出して読む。3分を超えたら削る。
具体例#
例1:新サービスのプレゼンで投資家の心をつかむ
- むかしむかし: 「日本の中小企業の70%は、経理作業を紙とExcelで行っていました」
- 毎日: 「毎月の月末締めには、経理担当者が3日間徹夜して数字を合わせるのが当たり前でした」
- ある日: 「あるとき、従業員30人のA社で経理担当が急に退職。誰もやり方がわからず、決算が間に合わない危機が起きました」
- そのため: 「A社は急いでクラウド会計ソフトを導入。しかし、既存の業務フローとの統合に苦労しました」
- そのため: 「そこで私たちは、既存の業務フローを変えずにクラウド化できるサービスを開発しました」
- ついに: 「今ではA社の月末締めは3日から半日に短縮。経理担当は戦略的な仕事に時間を使えるようになりました」
データだけなら「月末締めを83%短縮」で終わるが、ストーリーにすると聞き手が自分ごと化できる。
例2:採用説明会で会社のカルチャーを伝える
- むかしむかし: 「2019年、当社はまだ社員12名の小さなスタートアップでした」
- 毎日: 「毎日、全員が1つの部屋で顔を合わせ、ランチも一緒。家族のような雰囲気でした」
- ある日: 「コロナ禍で全員フルリモートに。3ヶ月後の社員アンケートで、エンゲージメントスコアが78点から52点に急落しました」
- そのため: 「『雑談の場がない』という声を受けて、毎朝15分のバーチャル朝会を始めました。最初は形式的でしたが、週替わりのテーマを設けたことで徐々に盛り上がりました」
- そのため: 「この取り組みから『カルチャーは場所ではなく仕組みで作る』と学び、月1回のオフサイト、ペアワーク制度、非同期の称賛チャンネルを導入しました」
- ついに: 「今、社員は80名に成長し、エンゲージメントスコアは86点。リモートでも以前より高い一体感を実現しています」
「リモートでもエンゲージメントが高い」という事実を、変化の物語として伝えることで信頼感が増す。
例3:営業提案で顧客の課題解決ストーリーを語る
- むかしむかし: 「B社は創業40年の製造業で、年商50億円。品質には自信がありました」
- 毎日: 「しかし、受注管理はFAXと電話。営業8名が顧客150社の情報を各自の手帳で管理していました」
- ある日: 「エース営業の佐藤さんが転職。その瞬間、担当していた30社分の商談情報がすべて失われました。引き継ぎは手書きメモ3枚だけ」
- そのため: 「3ヶ月で佐藤さんの担当先から5社が離反。年間売上の8%にあたる4,000万円が失われました」
- そのため: 「B社は私たちのCRMを導入。全営業の商談情報を一元管理し、引き継ぎプロセスを標準化しました」
- ついに: 「導入1年後、顧客離反率は12%から3%に低下。営業1人あたりの対応可能社数も19社から28社に増加しました」
「CRMの機能一覧」ではなく「佐藤さんの転職」というリアルなストーリーが、顧客に『うちも同じリスクがある』と気づかせる。
やりがちな失敗パターン#
- 自分(自社)が主人公になる — 「我が社はすごい」というストーリーは響かない。聞き手や顧客を主人公にする
- 転機(ある日)が弱い — ストーリーの原動力は「変化」。日常からの転機が明確でないと、ただの説明になる
- 長すぎる — 5分以上のストーリーはビジネスの場では聞いてもらえない。細部を削り、核心だけを残す
- 感情描写がゼロ — 数字とロジックだけのストーリーは「報告書」と変わらない。主人公の気持ちを1〜2文入れるだけで共感度が劇的に上がる
まとめ#
ピクサー式ストーリーテリングは、6つの文テンプレートで誰でも共感を呼ぶストーリーが作れるフレームワーク。ビジネスでは「聞き手を主人公にする」「感情の起伏をつける」「3分以内に収める」がポイント。データとストーリーを組み合わせれば、プレゼンの説得力は格段に上がる。