ひとことで言うと#
会議でパワポ禁止。代わりに6ページ以内のナラティブ(文章形式)文書を用意し、冒頭20分で全員が黙読してから議論する――Amazonが実践する、浅い議論を排除して本質的な意思決定を行うための手法。
押さえておきたい用語#
- ナラティブ(Narrative)
- 箇条書きではなく完全な文章で論理を展開する文書形式を指す。主語・述語・根拠が明示されるため、曖昧さが排除される。
- サイレントリーディング(Silent Reading)
- 会議冒頭で参加者が黙って文書を読む時間のこと。Amazonでは20〜30分を確保する。
- ワーキングバックワーズ(Working Backwards)
- 顧客体験から逆算してプロダクトや施策を設計するAmazonの思考法。6ページメモの構造にも反映される。
- FAQ(Frequently Asked Questions)
- 想定される反論・質問とその回答を事前にまとめたセクション。議論の質を高める。
- テネット(Tenet)
- 意思決定の基準となる原則・信条のこと。提案がどのテネットに基づいているかを明示する。
6ページメモの全体像#
こんな悩みに効く#
- 会議でパワポを使ったプレゼンが盛り上がっても、結局何も決まらない
- 提案者の「プレゼン力」に判断が左右され、内容の質で意思決定できていない
- 重要な意思決定なのに、参加者の理解度にバラつきがある
基本の使い方#
以下の6セクションで構成するのが基本。
- 背景・コンテキスト — なぜ今この提案をするのか
- テネット(判断基準) — どの原則に基づいて判断するか
- 現状の課題 — データで裏付けた問題の所在
- 提案内容 — 具体的な打ち手と期待される効果
- データ・根拠 — 提案を支える定量・定性データ
- FAQ・想定リスク — 反論への回答とリスク対策
重要: 箇条書きは禁止。完全な文章で書くことで、論理の飛躍が自動的にあぶり出される。
文章を書くことで思考の精度を上げるのがこの手法の本質。
- 「主語→根拠→結論」の流れを意識する
- データは具体的な数字で示す(「多い」「増加傾向」はNG)
- 読み手が追加説明なしで理解できることを基準にする
- 何度も推敲する(Amazonでは提出まで数日〜1週間かける)
目安: 6ページ=約4,000〜5,000字(日本語の場合)。
会議の最初の20〜30分は全員が黙って読む。
- プレゼンはしない(「読めばわかる」状態が理想)
- 読みながらメモや質問を書き出す
- 全員が同じ深さで内容を理解してから議論に入る
- 事前配布は原則しない(読まずに来る人を防ぐため)
黙読後、30〜40分で議論し、最後の10〜15分で結論を出す。
- 質問はセクションごとに順番に出す
- 「データの根拠は?」「別の選択肢は検討したか?」と本質を突く
- 文書に書かれていない論点が出たら、次回までに追記する
- 結論は「承認」「修正して再提出」「却下」の3択で明確にする
具体例#
事業企画部が「サブスクリプション型の保守サービス」を提案。従来のパワポ会議では3回の役員会で結論が出なかった。
6ページメモに切り替え、以下を文章化した。
- 保守サービス市場は年率8.5%で成長、2028年に420億円規模
- 既存顧客500社のうち、保守契約をしているのは32%(160社)
- サブスク化で顧客単価が年間120万円→180万円に向上する試算
- 初期投資2,800万円、損益分岐点は18ヶ月
- リスク: 既存の売り切りモデルとの共食い率を15%以下に抑える施策
20分の黙読後、CFOから「共食い率15%の根拠が弱い」と指摘。翌週に補足データを追記し、2回目の会議で45分で承認された。パワポ3回で決まらなかった案件が、ナラティブ2回で決着した。
CTOがモノリス→マイクロサービス移行を提案。パワポでは「技術的にすごい」は伝わるが、「なぜ今やるのか」が経営層に刺さらなかった。
6ページメモでは技術用語を排除し、ビジネスインパクトを軸に構成した。
- 現在のデプロイ頻度: 月2回(業界平均: 週3回)
- デプロイ1回あたりのダウンタイム: 平均47分(年間損失1,900万円)
- マイクロサービス化後の目標: 週5回デプロイ、ダウンタイム0分
- 移行コスト: 8,000万円(2年計画)、3年目以降の年間コスト削減効果4,200万円
FAQセクションで「移行中のリスクは?」「段階的に進められるか?」に事前回答。経営層は黙読中に疑問が解消され、議論は投資の優先順位に集中。全会一致で承認された。
従来、理事会では支店長が口頭報告し、理事が「わかった」で終わるのが慣例だった。新任の企画部長が6ページメモ方式を導入。
最初の6ページメモのテーマは「窓口業務のデジタル化」。
- 窓口来店客数: 5年前の月8,200人→現在4,100人(50%減)
- 一方で窓口人員は28名のまま(1人あたり対応件数が半減)
- デジタル化先行の他信金3庫では、窓口人員を40%削減しつつ顧客満足度を維持
- 提案: タブレット窓口+ビデオ通話相談を導入、窓口人員を28名→18名に最適化
- 削減分の10名は「渉外担当」に配置転換(訪問営業で融資獲得を強化)
「窓口の人が減ったらお客さんが困るのでは?」というFAQに、他信金のデータと顧客アンケート結果で事前回答。理事会は初めて全員が文書を読んでから発言する形式になり、「いままでで一番中身のある議論だった」と理事長が評価した。
やりがちな失敗パターン#
- 箇条書きに逃げる — 「文章にする時間がない」と箇条書きを混ぜると、論理の飛躍が隠れたまま会議に出てしまう。完全な文章で書くこと自体が「考え抜く」プロセスである
- 事前配布して黙読を省略する — 「読んできてください」では半数が読まずに来る。会議冒頭の黙読時間を確保することで、全員が同じスタート地点に立てる
- FAQセクションを省く — 想定される反論に事前回答しないと、議論が「反論への弁解」に費やされる。FAQを充実させることで、議論は本質的な論点に集中する
企業での実践例 — Amazon#
6ページメモ方式は2004年、AmazonのCEOジェフ・ベゾスが社内会議でのPowerPoint使用を全面禁止したことから始まった。ベゾスの意図は明確で、「箇条書きは書き手の思考の浅さを隠す」という問題意識だった。ベゾスは社内メールで「PowerPointのスライドは発表者にとっては楽だが、聴き手の理解を浅くする。完全な文章で書くことで、書き手は論理の穴に自分で気づくし、読み手は全員が同じ深さで理解できる」と説明している。
Amazonでは新規事業の提案、大型投資の判断、サービス設計の承認など、重要な意思決定のほぼすべてに6ページメモが使われている。会議の冒頭20〜30分は参加者全員が沈黙して文書を読み込み、その後に質疑応答と議論に入る。ベゾス自身も在任中、この形式を一度も緩めなかった。元Amazon幹部の証言によれば、1つの6ページメモの執筆に数日から1週間かけることも珍しくなく、提出前に複数回のレビューと書き直しが行われる。この「書くことで考え抜く」プロセスが、Amazonの意思決定の質とスピードを支えてきた。AWSの立ち上げやKindleの企画など、Amazonの主要事業の多くが6ページメモから始まっている。
まとめ#
6ページメモは、パワポの箇条書きでは隠れてしまう論理の飛躍を排除し、全員が同じ深さで理解してから議論する手法。書くのに時間はかかるが、意思決定の質とスピードは劇的に向上する。大きな投資判断や戦略変更など、間違えられない意思決定にこそ使いたい。