コーチング会話術

英語名 Coaching Conversation
読み方 コーチング カンバセーション
難易度
所要時間 1回30〜60分
提唱者 ティモシー・ガルウェイ(インナーゲーム)、ジョン・ウィットモア(GROWモデル)
目次

ひとことで言うと
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答えを「教える」のではなく、質問と傾聴で相手自身の中にある答えを引き出す対話技法。マネージャーが「指示する人」から「引き出す人」に変わることで、部下の自律性と成長速度が劇的に高まる。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
GROWモデル
コーチング会話の基本構造。**Goal(目標)→Reality(現状)→Options(選択肢)→Will(意志)**の4段階で対話を進める。
オープンクエスチョン
「はい/いいえ」では答えられない思考を広げる質問のこと。「どう感じている?」「何が一番大事?」など。
スケーリングクエスチョン
「10点満点で今何点?あと1点上げるには?」のように数値化して現状と改善策を引き出す質問手法。
心理的安全性
相手が本音を話しても否定されないという信頼感を指す。コーチング会話の前提条件。
承認(アクノレッジメント)
相手の気づきや行動の意志を評価ではなく認めること。「すごいね」より「自分で気づけたね」が効果的。

コーチング会話術の全体像
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GROWモデルによるコーチング会話の流れ
心理的安全性G:Goal(目標)「今日は何について話したい?」「理想の状態は?」「何が整理できたら嬉しい?」→ 対話のゴールを相手が決めるR:Reality(現状)「今の状況はどうなっている?」「10点満点で今何点?」「何がハードルになっている?」→ 現状を客観的に把握するW:Will(意志)「最初の一歩として何をする?」「いつまでにやる?」「次の1on1で共有してくれる?」→ 自分で決めた行動に移すO:Options(選択肢)「どんな選択肢がある?」「他にはどんなやり方が?」「もし制約がなかったら?」→ 思考の幅を広げる
コーチング会話の進め方
1
安全な場を作る
評価ではなく支援の場を宣言
2
GROWで対話を構造化
目標→現状→選択肢→意志
3
質問で思考を広げる
沈黙を恐れず待つ
承認と行動計画で閉じる
自分で決めた一歩を応援

こんな悩みに効く
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  • 1on1で部下が「特にないです」としか言わない
  • つい自分の経験からアドバイスしてしまい、部下が受け身になる
  • 部下のモチベーションを上げたいが、どう話せばいいかわからない

基本の使い方
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ステップ1: 安全な場を作る

コーチング会話の前提は心理的安全性。相手が本音を話せる環境を作る。

場づくりのポイント:

  • 「評価の場」ではなく「支援の場」であることを明示する
  • 「今日は◯◯さんのために時間を使いたい。何でも話してOK」と伝える
  • PCを閉じ、スマホを裏返し、「あなたに集中しています」を態度で示す
  • 相手の話を遮らない、否定しない

重要: 安全な場がないと、相手は「上司に評価される」と感じて本音を話さない。最初の2〜3分の雰囲気づくりが、残りの時間の質を決める。

ステップ2: GROWモデルで対話を構造化する

コーチング会話の基本構造はGROWモデル

  • G(Goal): 「今日のこの時間で、何について話したい?」「理想の状態は?」
  • R(Reality): 「今の状況はどうなっている?」「何が起きている?」
  • O(Options): 「どんな選択肢がある?」「他にはどんなやり方が考えられる?」
  • W(Will): 「最初の一歩として何をする?」「いつまでにやる?」

流れのイメージ: まず「どうなりたいか(G)」を聴き、次に「今どうか(R)」を確認し、GとRのギャップを埋める方法(O)を一緒に考え、最後に具体的な行動(W)を決める。

ポイント: 順番通りに進める必要はない。相手の話に合わせて柔軟に行き来する。

ステップ3: 効果的な質問を使う

コーチングの核心は質問の質。答えを誘導するのではなく、相手の思考を広げる質問を投げる。

オープンクエスチョン(必須):

  • 「どう感じている?」(感情)
  • 「何が一番大事?」(価値観)
  • 「もし制約がなかったら?」(可能性の拡大)
  • 「10点満点で今何点?あと1点上げるには?」(スケーリング)

避けるべき質問:

  • 「なぜできなかったの?」(責め口調。「何がハードルになった?」に言い換える)
  • 「◯◯した方がいいんじゃない?」(アドバイスを質問の形にしただけ)
  • 「AとB、どっちがいい?」(選択肢を限定しすぎ)

沈黙を恐れない: 良い質問の後、相手が考え込む沈黙は「思考が深まっている」サイン。焦って助け舟を出さない。

ステップ4: 承認とフィードバックで閉じる

対話の最後に、相手の気づきや決意を承認し、行動へのエネルギーを高める

承認の仕方:

  • 「今日の対話で◯◯に気づけたこと自体がすごい」(プロセスの承認)
  • 「△△に挑戦しようと決めたこと、応援している」(意志の承認)
  • 「前回よりも自分で選択肢を出せるようになったね」(成長の承認)

クロージング質問:

  • 「今日の対話で一番の気づきは?」
  • 「次のアクションは何?いつまでにやる?」
  • 「次回の1on1で共有してくれる?」

行動計画は相手が自分で決めたものに限る。上司が「◯◯しなさい」と指示した瞬間、コーチングはティーチングに変わる。

具体例
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例1:キャリアに悩む入社4年目の田中さんとの1on1

田中さんが「最近、このままでいいのか悩んでいます」と切り出した。

従来のマネージャーの対応: 「田中さんにはマネジメントの道が向いていると思うよ。来期からリーダーをやってみない?」 → マネージャーの判断を押し付けている。田中さんの本音が聞けていない

コーチング会話で対応:

G(Goal): 「悩みについて、もう少し聞かせてくれる?今日のこの時間で、何が整理できたら嬉しい?」 → 田中さん「自分が何をやりたいのか、方向性を見つけたいです」

R(Reality): 「今の仕事で、一番エネルギーが上がる瞬間はどんなとき?」 → 田中さん「後輩に教えて、その人ができるようになったときです」

O(Options): 「後輩を育てることにやりがいを感じているんだね。それを活かせる方向性って、どんなものが考えられる?」 → 田中さん「リーダー…あとは研修担当とか、メンターとか…社内勉強会を企画するのも面白いかも」

W(Will): 「この中で、まず小さく試せることは?」 → 田中さん「来月、チーム内で勉強会を1回やってみます。来週金曜までにテーマと日程を決めます」

マネージャーは一度もアドバイスしていない。田中さんは自分で方向性と最初の一歩を見つけ、実際に勉強会を実施し、3ヶ月後にはメンター役を自ら志願した。

例2:目標未達が続くメンバーとの対話

営業の鈴木さん。3ヶ月連続で目標未達(達成率68%・72%・71%)。従来は「行動量を増やせ」と指示していたが変化なし。

コーチング会話に切り替え:

G: 「鈴木さん自身は、どんな営業になりたい?」 → 「お客様から信頼されて、指名で相談が来るような営業です」

R: 「今の営業を10点満点で評価すると?」 → 「正直、4点くらいです…。量は回っているけど、深い関係が作れていない」

O: 「4点を5点にするには、何を1つ変えたらいい?」 → 「…訪問後のフォローメールを、テンプレートじゃなくて個別に書くことかもしれません」

W: 「いいね。来週から試してみる?何件からやってみる?」 → 「重要顧客5社から始めます」

3ヶ月後、個別フォローを起点に深い関係構築が進み、達成率が71%→103%に改善した。指示で動かされたのではなく「自分で気づいて自分で変えた」実感が、鈴木さんのその後の自走を支えている。

例3:1on1が「特にないです」で終わる若手への対処

新卒2年目の高橋さん。毎週の1on1で「最近どう?」と聞くと「特にないです」が3ヶ月続いている。

コーチングの問いかけを変える:

まず場づくりを改善。「今日は業務の話じゃなくて、高橋さんが最近感じていることを聞きたい。評価とは一切関係ないから」と宣言。

G: 「もし何でも叶うとしたら、1年後にどんな仕事をしていたい?」 → 高橋さん「…実は、企画の仕事がやってみたいんです。でも今の部署では難しいかなと思って」

R: 「企画に興味があるんだね。今の業務で、企画に近い経験はある?」 → 「先月の改善提案は楽しかったです。でもあれは小さい話で…」

O: 「小さくても立派な企画経験だよ。もっと企画に近い経験を積むには、今の環境でどんなことができそう?」 → 「月次レポートに改善提案を毎回1つ入れるとか…あと、企画チームの勉強会に参加させてもらうとか」

高橋さんは改善提案を3ヶ月連続で提出し、うち1件が全社採用。「特にないです」の正体は「言っても無駄だと思っていた」だった。安全な場で本音を引き出したことで、隠れた意欲が表面化した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 質問しながら答えを誘導する — 「研修担当とかどう?」と自分の考えを質問の形に包むのはコーチングではない。相手が自分で選択肢を出すまで待つ
  2. 沈黙に耐えられずアドバイスする — 相手が考え込んでいるとき、「俺ならこうするけど」と口を挟むと思考を奪ってしまう。10秒の沈黙は味方
  3. 全ての場面でコーチングしようとする — 緊急時や明確な正解がある場面では、ティーチング(教える)やディレクティング(指示する)が適切。使い分けが重要
  4. 1on1の場だけコーチングモードになる — 普段は指示命令型で1on1だけ質問型だと、相手は違和感を覚える。日常の短い会話から「どう思う?」を増やすことで自然に定着する

まとめ
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コーチング会話術は、安全な場を作り、GROWモデルで対話を構造化し、効果的な質問で相手の思考を広げ、承認で行動を後押しする技法。マネージャーの仕事は「答えを教えること」ではなく「相手の中にある答えを引き出すこと」。次の1on1で、アドバイスを1つ減らし、質問を1つ増やすことから始めよう。